18年勤務の元国家公務員の事件簿!
【職場の積立金が盗まれて警察に相談するも、叱られる。〜お役所の事なかれ体制】
1 事件発生その時
ここは、とある省庁の60名ほどが勤務する部署。
業務多忙で、職員一同せわしなく働いているところ、部内の上席幹部の席に上司数名が集合し、1時間以上コソコソと何かを話し込んでいた。
そこでは部内、いや組織全体に関わる可能性がある密談を行っていた。
「職員の積立金が紛失した。」職員から集金し、施錠の出来る机の引き出しで管理していた現金約80万円が無くなっていることに気付き、幹部が集まって対応を検討していたのである。
現場は建物の5階、一般の人や業者が自由に出入りできるフロアではない。
幹部全員が危惧していたのは「これは職員の仕業ではないか。」ということだった。
積立金を盗んだ犯人が、もし同じ職場の同僚だったなら、、、これは単に警察に捕まえてもらうだけでは済まない。
これはその省庁の不祥事案に発展する。刑事事件の犯人ともなれば、罪を働いた職員は裁判の後、刑事処分を受け、懲戒処分も受けることになるが、それだけではない。
担当上司は監督責任を問われ処分の対象になる可能性があると共に、その省庁自体も国民から厳しい目にさらされることになる。
そのため幹部一同は、他の職員に聞かれないように慎重に対応を検討していたのだ。
2 警察への相談
その上の上司への伺いを安易に行うと、現金紛失事件に尾ひれがついて、いよいよ収集が付かなくなる。
現金を管理していた幹部が処分される可能性もある。
幹部一同集まっても、良い考えが浮かぶ訳でもなく、結局選ばれた幹部が管轄する警察署に相談に行くことにしたのである。
警察署刑事課の担当者に事の顛末を相談した。
現金の管理方法。施錠の有無。フロアを出入りする職員、一般人、業者の有無。
最後に現金を確認した日時から紛失に気付いた日時と状況を詳しく説明した。
担当した刑事さんから犯人は同じ庁内の職員ではありませんか。
と言われた。続けて捜査するのは良いのですが、これから省内に入って机周辺と職員全員から指紋取っても良いですか。
と質問を受けた。
いくら役所とはいえ、部内にはキャリア官僚や女性職員が多く、その中で警察が来て指紋採取しようものなら、どんな混乱が起こるのか想像もつかない。
幹部がしばらく考え込んでいると、さらに担当の刑事さんからつい先日もそちらの職場で盗難被害があり、捜査しました。
犯人は同じ庁内の職員と特定して、ようやく逮捕というところで、そちらのある幹部の方が「部内の不祥事が公になるのは耐えられない」という理由で、被害届を取り下げられました。
今度は最後まで協力して頂けますか。
その刑事さんは淡々と説明していたが、目は笑っていなかった。
その時は刑事課の係員総出で、1ヶ月捜査を行なったとのこと。
しかし不祥事が公になって欲しくないという、こちらの都合で被害届を取り下げた為、犯人が分かっていながら検挙が出来ずに、泥棒が一人野放しになってしまったと説明を受けた。
3 てん末
警察署に相談に行った幹部は、その上司に対応を相談した。
「そんな不祥事なんか公にできないだろ」一蹴された。
職員から集めた現金80万円はどこにいってしまったのか、うやむやになり誰も分からない。
誰が責任を取るのか、お金の補填はどうするのか。
その事なかれ主義は、お金を支払った職員が泣き寝入りする結果になってしまったのである。
以上