感染症対策で揺れる学校。不安な子どもたちをどう支えたらいい? 教育・心理・医学の専門家とともに考えます。
慶應義塾大学出版会では、『教育と医学』という雑誌を刊行しています。創刊は1953年、昨年(2019年)夏にリニューアルを行い、それまでの月刊に代わり、隔月刊での刊行となっています(奇数月1日発行)。教育と医学の会(本部=九州大学教育学部)の先生方による編集で、毎号「子どもの育ち」に関連する特集テーマを設定し、教育・心理・医学などさまざまな視点から専門家・実践家に寄稿していただいています(これまでの号については本誌ウェブサイトをご覧ください)。
さて、今春から深刻化した新型コロナウイルスの感染拡大は、学校現場、そして子どもたちの学びや育ちに大きな影響をもたらしました。夏を迎えた現在もウイルス感染者数の増加は続いており、終息のめどは立っていません。そこで、本誌2020年7・8月号では、当初の予定を急きょ変更し、3月に始まった一斉休校によって突然学校生活を中断された子どもたちの心と体を支えるために何ができるか、どのようなことに注意する必要があるかについて、緊急特集として取り上げることにしました。特集タイトルは「社会不安のなかで子どもを支える」です。
通常の号では、各大学・研究機関に所属する専門家などにご寄稿をお願いするのですが、今回は緊急特集ということもあり、まさに「教育」と「医学」の専門家集団である「教育と医学の会」の編集委員が結集して特集記事を執筆することにしました。
以下、今回の緊急特集の概要をご紹介します。
「新型コロナ・パンデミックに関連するメンタルヘルスの課題」
黒木俊秀(九州大学大学院人間環境学研究院教授。専門は臨床精神医学、臨床心理学)
感染の拡大期から蔓延期にかけては、個人の心身の不調のみならず、家族や人間関係、さらには社会全体に及ぶ種々のメンタルヘルスの問題が生じる可能性があります。感染への不安・恐怖、自粛に伴う環境の変化、そして情報の混乱がもたらす問題を整理するとともに、その対策を解説します。
「社会不安の中での子どもたちの不安と教育を考える」
増田健太郎(九州大学大学院人間環境学研究院教授。専門は教育臨床心理学)
今春の一斉休校によって子どもたちの学校生活は突然の中断を余儀なくされました。その学びを支援していくうえで、地域・学年などの発達年齢、学校の状態、家庭の経済的・心理的・養育状況、公立・私立の違いなど、学校によって大きな差が出ています。その状況において、では学校は何を優先すべきか、子どもに何を伝えるべきでしょうか。
「公衆衛生学・予防医学の観点からのポストコロナ」
馬場園 明(九州大学大学院医学研究院教授。専門は医療経営・管理学、臨床疫学)
一連のコロナ禍がもたらした影響は、弱い立場にある子どもたちにより重大な打撃を与えています。ここでは「医療的ケアが必要な子どもと基礎疾患等のある子どもの支援」、「いじめ・不登校の予防」、「貧困に直面する子どもへの支援」、「虐待・家庭内暴力への対応」について解説します。
「これからの学校・家庭における新型コロナウイルス感染症予防」
安元佐和(福岡大学医学部医学教育推進講座主任教授。専門は臨床小児神経学)
新型コロナウイルスについては、小児の感染者数は少ないとされていますが、各地で感染者数が依然として増え続けている現在、予断を許さない状況であることに変わりはありません。学校・園での集団生活、家庭での生活における感染予防の注意点について、改めて具体的にまとめました。
「いま、子どもたちの学ぶ意欲にどう寄り添うか」
伊藤崇達(九州大学大学院人間環境学研究院准教授。専門は教育心理学)
一斉休校によって学びが突然中断された子どもたち。その学ぶ意欲をどう回復することができるでしょうか。そのために必要なことは何か、そして、保護者や先生はどのような心持ちで子どもと接するとよいのか。「学校以外での学び」の可能性も視野に入れ、教育心理学の知見から論じます。
「社会不安における子どものストレスと『親子でチャレンジ動作法』」
古賀 聡(九州大学大学院人間環境学研究院准教授。専門は臨床心理学)
不安な状況にある子どもが感じているストレスを緩和する手法として、ここでは身体動作を用いるユニークな心理学的支援法を紹介します。特別な道具も設備も必要ありません。「ひねる」「動かす」「弛める」「踏みしめる」といった身体の感じを味わいながら、親子のコミュニケーションを増やすチャンスにもなります。
「教室と学校の新たな意味について」
藤田雄飛(九州大学大学院人間環境学研究院准教授。専門は教育哲学)
三ヶ月にもおよぶ一斉休校措置の期間は、それまでの日常とはうってかわって、学校に行くことが「普通」ではなくなる時間でもありました。そもそも、「学校に行く」とはどのようなことでしょうか。またこの期間は、「不登校の子どもたち」にとってはどんな意味があったのでしょうか。教育、学校というもののあり方への影響を考えます。
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以上の特集のほかにも、本誌では気鋭の研究者・実践家による連載を掲載しています。今号ではここでも今般の感染症に関する話題を多く取り上げ、特集とはまた違った視点から、学校、教育、そして子どもへの影響を考える機会となっています。
〈教育のリアル――現場の声とエビデンスを探る〉
内田 良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科准教授)
第7回 リスクのアンテナ──「安全」な学校再開は可能か?
〈再考「発達障害」―子どものこころの診療室から―〉
篠山大明(信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部医師)
第7回 発達障害とコミュニケーションスタイル
〈希望をつくる教育デザイン〉
南谷和範(大学入試センター研究開発部准教授)
第7回 3Dプリンタが開くDIY支援機器の世界
〈未来をひらく健康教育〉
江頭真美子(福岡市養護教諭)
第5回 過去の教訓に学ぶ感染症
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