旅友と虹 〜アイスランド・後編〜
翌日、まずは、ランチに彼女が行きたいと言っていたスープ屋に行った。家族経営の観光客に人気の有名店のようで、フードメニューは、スープが2種類あるだけのようだった。その日は、マサラベースのスープにラム肉が入ったものと、クリームベースのスープにマッシュルームが入ったものを一つづつ注文したように記憶している。紙が敷かれ、その上に丸型のパンをくりぬいてボウルにしたようなものがのっていて、そのパンの中にスープが入って、くりぬいたパンとアイスランドのバターがついていた。寒い国あるあるなのか、パンにつけることを想定してか、若干濃いめの味付けのような気もしたが美味しく、何より私たちは「毎朝スープを鍋にこしらえておけば、あとは皿洗いはほとんどしなくていいし、このビジネス スタイルはすごく効率的だね」と感心したのだった。
食後は、レイキャビクの中心部にある古着屋を回る。彼女の探している古着のセーターは、伝統的なアイスランドのロパペイサと言われるものだった。襟まわりの幾何学模様が特徴で、基本、撚りの少ない太糸を使い、丸編みではぎ合わせ部分も少ないことから、編地こそ厚手だが、着やすく軽くてとてもあたたかいのだ。ファッションの世界のモノづくりに関わってきた私なので、当然既にチェックはしていたのだが、アイスランドで古着で買ったとしても、当時の為替レートで、2から3万円くらいするものが多かった。私が彼女をこっちこっちと案内する形で、古着屋を何件もまわり、彼女はたくさん試着をし、最終的にライトグレーで飽きのこなさそうな色目の柄の入った理想のセーターに出会っていた。
その日は、レインボー・レイキャビクも開催されていた。前日には、あの誰かがインスタグラムに投稿していたグトルフォスの滝の写真のような虹は見ることが出来なく、いつかのお楽しみとなったが、私たちは、違う虹を体験をすることになる。レインボー・レイキャビクも、LGBTQ+のエンパワーメントとしてパレードがあるのだが、その日程が近づくと、街中がレインボーになってそれぞれに表現し、街中が楽しみながら参加するイベントとして存在しているようだった。多くの地元の店で、レインボーの限定商品を販売していたり、レインボーの何かしらの装飾をしていた。例えば、キッチン用品を扱う店では、レインボーカラーになるよういくつも異なる色の鍋を積み上げてウィンドーを飾っていたり、古着屋では、マネキンにレインボーの服を着せたりといった具合だ。おばあちゃんと幼い孫も手を繋ぎレインボーのコスチュームを着てキメキメで歩いていたり、若者達はレインボーを取り入れたファッションで仲間と集っていたりと様々だった。彼女が少し真剣な表情で「LGBTQ+の人が自分らしく生きられない国とか社会ってさ、結局、私も自分らしく生きられないんだよね。それまで、あんまりちゃんと考えたことなかったのね、自分の友だちが生きづらいって話してくるまでは、、、友だちとかにLGBTQ+の人いる?」ときいてきたので、私は「たくさんいるよ〜」とこたえた。彼女は続け「でも、こうして旅をしてるとさ、国とか文化はそれぞれなんだけど、なぜかいつもいい人ばかりに出会うんだよね、だから旅が好きなんだと思うんだ」と言うのだった。
今度は、私のホテルに戻り、キッチンで夕食を一緒につくって食べることにした。まずは一緒にスーパーに行って買い出しをすることにした。私が「何食べたい?」ときくと、「お米まだ少しあるって言ってたよね? 炒飯が食べたい!」と彼女は即答した。私が笑いながら「さすが、中華なんだね」と言うと、彼女は、冷凍の春巻きを見つけてきて「この春巻きも食べたい!いい?これオーブンで焼くんだって」「オッケーじゃ中華でいこう」となった。ただ、日本から持ってきていたパンケーキミックスも食べてしまいたかったので、ちょいと炭水化物多めでヘビーかなという気もしたが、パンケーキにフルーツをのせてデザートにすることにした。そこで、私のホテルに向かう途中、彼女の宿泊していたユースホステルのような場所に立ち寄ると、ちょうどよかった!とブルーベリーをくれた。何でも、そのユースホステルで彼女が友だちになったアメリカから来ていた女性が、一人で食べるには多すぎると半分お裾分けしてくれたようだった。彼女は「アイスランドって悪い人が来ない国なんじゃないだろうか、ほら昨日のツアーでも犯罪が少ないっていってたし」と言った。
ホテルのキッチンで、私は、野菜を切り、卵を割り、炒飯をつくり始めた。彼女は、春巻きの箱の後ろに書かれた手順をしっかりと読み、温度と時間を確認し、キッチンについていたオーブンで焼きはじめた。美味しそうな匂いがしてきて、炒飯と春巻きは、あっという間にできあがった。トマトとレタスを添えて盛り付けると、立派な夕食になった。炒飯はいつも通りに大成功で、春巻きもパリっとして焼き色も黄金色で完璧で、冷凍のわりには美味しかった。まずは味を堪能しゆっくり食べながら、おしゃべりを楽しんだ。
すると彼女は、悩みを打ち明けはじめた。もうすぐロシアの大学を卒業するという中で、故郷の中国の深圳へ戻り、就職をするということに消極的になってしまうということだった。本当は、どこか英語圏の国で、更に勉強をするか、仕事をしたいという気持ちがあるようだった。ただそれは、両親が反対していることもあり難しく、一先ず深圳で仕事をして自立してから叶えたい気持ちと、深圳で仕事を始めると今の自分とは変わってしまい叶えたい気持ちがなくなってしまうのではないかという葛藤を抱えているようだった。
しばらく色々とおしゃべりをして、小腹が空いてきたころ、デザートに小さめのサイズにしたパンケーキを焼いた。先程のお裾分けのブルーベリーとアイスランドのヨーグルトであるスキールを添えて、ハチミツをかけて盛り付けると、これまた立派なデザートになった。食べ始めてすぐに、「このパンケーキすごく美味しい!どうやってつくったかおしえて」と彼女がきいてきた。「あーこれ、パンケーキミックスが美味しいの、日本から持ってきたパンケーキミックスで、小麦粉は入っていなくて、大豆粉と米粉だからね、しっとりした感じに焼き上がって美味しいんだよね」と説明すると、彼女は相当気に入った様子で、パンケーキミックスのパッケージを写真に撮り、漢字で書かれた原材料をチェックし何が入ってかいるかを確認していた。
夕食を終えると、彼女は「本当にありがとう、すごく美味しかったし、何より楽しかった!そして、お腹いっぱい!!そうだ、スーパーでお金出してくれた分、いくら払えばいい?」ときいてきた。どちらにしても一人分も二人分もあまり金額は変わらなく、そもそも大した金額ではなかったこと、何より彼女はまだ学生だったので、私が「いいよ、払わなくて」と伝えると、彼女は「えーそんなのだめ、えーなら、どうしたら恩返しできるかな?」ときいてきたので、「誰か、あなたより若い人にいつか返せばいいよ」と、かっこつけて、昔、年上の誰かから私自身が言われたことを真似して言ってみたのだった。
別れ際、私たちは、アイスランド最高だね、本当に出会てよかったと伝え合う。
何より、私は、誰もいない大自然を求めてアイスランドへ向かったはずが、この旅友と丸二日間をずっと一緒に過ごし、何だか色鮮やかになったような気がしたのだった。
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いつかこの「地球人のおもてなし」がNetflixでドラマ化されたらいいなと夢みながら😴💫
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