他社との差別化とコスト優位性、ぼくらはどちらの道を歩めば幸せになれるのだろう
企業が成長できるかどうかというのは差別化をいかに実現できているかに直結している。
もし自分の会社が完全にサービスや製品の品質が同じで、完全にそれを作るための情報をお互いにもっていて、完全に参入が誰でもできて、完全に人や技術の行き来ができる市場だったどうだろうか。
企業は完全に儲かることができなくなってしまう。各社は自社のコストを賄うだけでそれ以上の利益を上げることはできない。これは経済学の世界では完全市場といっていて極力さけるべき状態として説明されている。
だれしも一回は聞いたことがあるマイケルポーターの競争戦略はそんな完全市場からなるべく遠ざかるために他社と差別化しなければならないということを色々なフレームワークで説明してくれていて、ファイブフォースなどもそういった一連の差別化の説明をしているに過ぎない。
品質、情報、サービス、参入障壁を作ることなど他社とは違う戦略をとることが会社が他社に勝って成長するということに必須だということを教えてくれる。
時々自社のサービスは競合がいないというひとがいるがそれはありえない。あるタスクをお客さんが片付けたいと思ったいたらそれを解決するための他の代替手段は大抵あるので広い意味で競争がないということはまず起きえないのだ。
では価格で圧倒的に優位になることで成功することはできないか。
そんな差別化と対極のコストリーダーシップ戦略というのは同時に実現できないかという疑問が湧いてくる。今日はそんな対極にある二つの大まかな戦略を比較したときにどういったことがいえるかについて少し振り返ってみたい。
■ジェネリック戦略
経営学の世界にジェネリック戦略論という考え方がある。
ジェネリックというとどうしても医薬品のイメージが湧いてしまうが、ジェネリックとは「包括的」という意味で、「ざっくりとわけてみる」ということなので何も難しい戦略論の話ではない。
世の中いろんな戦略があるけど、それを差別化を目指す戦略と、コスト優位性を目指す戦略の二つに分類して比較してみようという考え方のことをジェネリック戦略論といっている。
二つの戦略というのは簡単に説明すると以下のように説明できる。
差別化戦略⇨ 他社とは異なる製品やサービスを提供する戦略で幅広いターゲット顧客を狙う場合と特定のニッチな顧客を狙う場合に分かれる。
コストリーダーシップ戦略⇨ころえはとにかくコストで優位になることを追求して低価格の製品を投入することでシェア拡大を狙うというような戦略。
■ 一般的には差別化を目指したほうが良い
基本的にMBAや経済学の世界ではポーターがいうように差別化を目指すべきとされている。
冒頭に説明したような完全市場では他社と全く同じものを安く供給するしかなくなるので価格を下げて全く儲からなくなるとされているからだ。なるべく差別化してこういった市場から身を遠ざけていったほうが儲かるビジネスになるといえる。
ところが価格で圧倒的な優位を目指すことで儲けることができる場合もあるということは年頭に置いておく必要がある。
完全市場のようにサービスや製品の品質が同じで、完全にそれを作るための情報をお互いにもっていて、完全に参入が誰でもできて、完全に人や技術の行き来ができる市場でも勝てる方法もなくはない。
圧倒的なコスト優位性を実現して他社を抑え込めるほどのシェアを大きく実現できれば、市場を独占するということが可能あ場合もあるといえる。ウォールマートがよくMBAの教科書では例として取り上げられる。
海外に行ったときにウォールマートにいってみるとそのデカさとEVERY DAY LOW PRICEという戦略が実現できていることを実感する。
とにかく巨大な流通システムで規模の経済を実現して競争が比較的おきにくい地方を中心に出店して地域の消費を独占している。地方は地代もやすいし巨大な流通センターも構築しやすい。
成功した例を挙げるのは簡単だが、これは容易ではない。
Amazonの登場で家電量販店はビジネスモデルが完全に崩れている。値段で追随しているのはヨドバシカメラでAmazonと全く同じ価格で出店していることが多い。規模の経済を追求すると利幅を失うことになるが、売れないよりはマシという覚悟をもってヨドバシは取り組んでいる。顧客が買う前にスマホで比較することを止めることはできないのだ。店舗を構えて人を雇っている時点でAmazonより圧倒的に不利であるにもかかわらず覚悟をもって収益を悪化させながら追随している。
一方のAmazonも安いかというとさいきんかいぎてきな見方がされていて、かならずしも量販店よりも安い価格ではない場合も多い。知らず知らずのうちに高い価格で買わされていることも多いが、Amazonは配達無料や動画視聴など他のサービスを展開することで差別化しようとしている。単純な一つの製品販売という分野では確実に儲からなくなっているのでより複合的なビジネスを各社は展開しようとしている。
■差別化戦略とコストリーダーシップは両立できるか
これは基本的に相当難しいと言われている。差別化はコストがかかるし差別化している分、コストがかかっているし高く売らないと儲からないからだ。
とくに単一のビジネス同士で戦う場合は極めて難しいといえる。全く付加価値がない世界では価格を下げることでしか他社に勝つ方法はないので値段はどんどん下がっていかざるをえない。
このようにコストリーダーシップ戦略と差別化戦略は両立できないものと言われている。
それでもぼくの考えでは、実際のビジネスは単一の商売ではない場合も多いので、いろいろと複合的なサービスを展開すれば可能になってくると考えている。
Amazonの例では全く異なるサービスを複合的に展開することで圧倒的に優位なポジションを作り上げている。彼らはもともとは店舗を持たずに配送することで圧倒的なコストリーダーシップを発揮して成功を遂げてきた。
ところが現在はどうだろうか。価格はどこも同じような価格になってきて値下げ競争は激しくなるばかりで儲からないが、他のサービスを展開することで自社のサービスに付加価値をつけている。物流、ECで圧倒的なシェアを抑えながら非ECの分野で差別化されたサービスを提供することで顧客を囲い込んでいる。
このようにある企業でも一時的にはコストリーダーシップ戦略をとったとしても、あとで差別化戦略に切り替えるというやり方もあるのだ。
■ 持続的な優位性というのはありえないのかもしれない。
マイケルポーターの差別化の理論というのは、どうやったら企業は長期的な優位性を築いて、安定的に勝てる状況を作れるか?という課題感の中で生まれてきたものだ。
他社と差別化をすることでコストとは違う道を選び、自社が安定的に勝てることを目指して考えられてきた理論といえる。
ところが現代では、こういった圧倒的に優位なポジションを作り上げることが難しくなっている。
コストが低く俗人的なノウハウに影響を受けやすいアプリやITサービスは乱立し、戦国時代に突入していて何が本当に勝てているサービスなのか見極めづらい。ある会社が良いサービスを提供するとそれをマネしやすいので、どこも同じようなサービスを提供するようになる。そうなるとコストが安いほうがいいということになってしまうので、結局コスト競争が激しい完全市場に近づいてしまう。
情報のスピード、テクノロジーの進化などが参入障壁をとても低くしていて、そういったことが結果として競争を激化させている。
だれもがプラットフォーマーを目指して胴元になろうとするのでそれぞれサービスが分散してシェアを一気に高めるようなことはできない。
このように競争と経営スピードが爆速になることはポーターも予測できなかったかもしれない。
差別化の理論はこれからもとても大事な理論であって、他社と差別化していくことが企業経営の基本となることは間違いない。
それでも令和の時代のぼくらは持続的に勝ち続けることは難しいという前提に立って戦略を柔軟に変えられるようにしていかなければならないと感じる。
ある時期は差別化できたとしても、すぐ真似をされてコスト競争に陥るということを考えると、こういった変化に柔軟な会社でなければならないと本当に感じる。
ぼくの会社は古い会社で歴史もあり年功序列で極めて日本的な会社である。中長期視点で考えられる資本の余力と複数の事業があることによってもたらされる安定というのはとても良いことではあるが、新事業開発が求められる中、スピードでは間違いなくついていけないだろう。
何年、何十年もかけて事業をやっていくことが念頭にあるし、一度経営的に意思決定をしたらそれをすぐ変えるようなことが実質的に難しい。
市場の環境と自社の機動力の無さのギャップが広がる今、ジェネリック戦略論を通じて、コストリーダーシップと差別化が激しく繰り返される現代の企業経営について、ぼくはどういったエッセンスを会社に作っていけば良いかということを考え続けている。
ちょっと内容が固い記事になってしまって申し訳ないが、ぼくの会社だけではなく多くの会社で直面している課題だと思ったので書かせていただいた。
Keiky.
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