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「で、どこ目指してるんですか?」は人生迷子のキメ台詞


誰かとチームを組むときには、お互いに"どこ"を目指しているのか確認するようにしよう!

と、心に決めたボクは、ふと、そういえば自分って"どこ"を目指していたんだっけ?と思った。

やばい。

名前のない仕事とか、ボランティアとか、グループ活動に気を取られていて全然考えられていなかったけど…


ボクには…

ビジョン、と呼ばれているものがない…。


ダメだ。これじゃあ誰かと確認作業をする以前の問題じゃないか!まずは、自分自身のビジョンを明確にしなければ…!

ボクは、頭をクルクル回転させながら考えまくった。けれど、どれほど考えても自分自身のビジョンが何なのか?"どこ"を目指しているのか?を言葉にすることはできなかった。


はぁーーーーーーーーーーーー。

ボクは、深い深い深いため息をついた。


でも、これは今にはじまった話しではない。ボクには、ずーーーーーっとビジョンというものがないのだから。

そう!

ボクにはいつも、なぜ、これをやっているのか?の答えとなる「目的」というやつがないのだ。

なぜなら、芸能界を旅立った"あの日"からボクは"今"を生きることに必死で壮大な未来のことなんて1㎜も考えたことがなかったから。

直感の赴くまま、
流れるように生きてきたからだ。


But、

目標というものはあったんだよね。


出版するとか、メディアに出演するとか、資格を取るとか。そういった小さな点のような目標は無数にあって、それを達成することはむしろ得意。

一度自分に誓った目標は、何回失敗しようと必ず達成することができるのだ。

ただ、それらの目標を達成した"先"に何があるのかを言葉にして説明することができない。

ロジックがないのよ。

あるのは「衝動」という2文字だけ。

通りすがりの大人たちは、こうしたボクの衝動的な生き方を決して認めようとはしなかった。

みーんな、バカの一つ覚えみたいに"こう"言いながら詰問してくるんだよ。


「で、どこ目指してるんですか?」って。


ボクは、こういう聞き方をしてくる人間が大嫌いだ。卑しく、醜く、薄汚いゾワッとするような表情。声色のトーンからは明らかにバカにしているのが伝わってくる。

一度、同じコミュニティに所属する後輩からも聞かれたよ。野菜家に方向転換した頃に「ねぇ、どこ目指してんの?どうなりたいの?これからどうするのぉ~?」って、なぜかキレたような怒っているようなニュアンスで!

正直、カチンときた。

うるっせぇんだよ!このお花畑ヤロウが!お前には関係ねぇだろうが!っていうか家族でもないクセにお前に説明する必要があんのかよ!


と、思った。が、当時のボクは何も言い返すことができなかった。

それはこのお花畑ヤロウに対してだけではなく、どこを目指しているのかと問いただしてくるすべての人間に対してそうだった。


ボクは、いつも黙って下を向いてしまう。


自分の中で言葉になり切っていないコトについて質問をされるのは、とても…とても怖いことだ。たとえ、100%言語化できていたとしても、将来の夢や展望については「話す」ということ自体にとても勇気がいる。

なのに…

世の中にいる9割の大人は包容力のカケラもないくせにズカズカと人の心の中に踏み込んできて夢や希望を引っ張り出そうとする「非常識」なヤロウばかりだ。


ああ、そうだ。


この際だから言っといてやるけど、コーチングというものを中途半端に学んでいる人間が一番タチが悪いから!

学んだ技術を試したいのか何なのか分からないけど、頼んでもいないのに勝手に引き出そうとしてくんなよ!迷惑だ。

鳴かず飛ばずの起業家も同罪だぞ!

どいつもこいつも、人のビジョンをジャッジするのが大大大大だーい好きな鬼畜ヤロウばかり。

「え、ビジョンは?ないの!?ダメだよ~。ビジョンがないと薄っぺらく見えちゃうから!悪いことは言わない。早く自分のビジョンをつくんなさい。ああ、もし僕でよかったら相談に乗るから連絡してぇ~!」

って言いながらド派手な名刺を渡してきたヤツがいた。まぁ、帰る途中でトイレのゴミ箱に破り捨てたから名前は覚えてねぇけど。


あ、こういうの1人や2人じゃないから。

結構いっから!!


ボクの中ではね、こういう薄っぺら~い連中のことを「ビジョンハラスメント野郎」と呼んでいる。

ビジョンビジョンと「ニワトリ」のように鳴きわめいている大人たちの病名だ。

とはいえ、ボクも自分には"ない"ものや理解していないことについては学びたい。

実は、恥ずかしながらボクは「ビジョン」という言葉について知ってはいても"一行"で説明するということはできていなかった。なんていうか、その言葉の奥にある「本質」を理解することができなかったのだ。

だからね、さぞビジョンという言葉に関しては詳しいであろうニワトリ起業家に聞いてみたんだよ。


「で、ビジョンって何なんですか?」って。


そしたらさ、

みんな何て言ったと思う?


「そ、そんなことも知らないのか?本当に何も知らないんだな!そ、そういうのは…本だよ!本に書いてある!そういうことは誰かに聞くんじゃなくて本を読んで自分で学んだほうがいいと思う」

全員、こんな言い訳をしながら逃げていったよ。(ビジョハラを仕掛けてきたときの威勢はどこへやら)


ボクは、ブチ切れまくった。


言われた通り、片っぱしから本を読みまくって言語化してみることにした。

が、これはどうしたことでしょう?

ビジョンという概念についてはおろか、ビジョンのつくり方や見つけ方について書かれた本が一冊もないじゃないか!


ボクは、絶望した。


仕方なく、世の名に吐いて捨てるほどいるくだらない起業家の戯言をかき集めて自分なりにビジョンの概念を組み立ててみた。

えーっと。

ビジョンというのは、自分が今やっていることに協力してもらったり共感してもらうために必要なこと。大きな目標。ビジョンがないとやっていることが私利私欲だと思われるのであまりよくない。社会的に意義のある内容だと周りからの好感度はUP…etc.

ビジョン野郎が言ってたこと



通りすがりの起業家が言っていたビジョンの概念をまとめると大体こんな感じ?

何だこれ?

まぁ、いっか。

とりあえず、今やっていることについてみんなに納得してもらえるようなビジョンをでっちあげよう。で、次に誰かにビジョンについて聞かれたら一瞬でぶった切ってやる!

どう?

これでぐうの音も出ないだろう?

そうやってドヤ顔をしてやるからなぁぁ!待っておけ!


ボクは、そんな小さな復讐心を胸に「偽物のビジョン」を創り上げた。ホント、マジで完璧なまでにロジックを固めて。

その結果、通り過ぎていく起業家たちからバカにされることはなくなった。というか、一木置かれるようにもなったし、中には「君はしっかりしているねぇ」と褒めてくる大人たちもいた。


ボクは、有頂天になった。

イェーーーーーーーーーーーイ!


これでもうビジョンハラスメントに遭うことはない~。っていうか、みんなバカだな~。こんなウソに騙されるなんてさ!

だがしかし、ボクのついたウソに誰よりも一番騙されていたのは他の誰でもなく自分自身だった。

いくら偽物のビジョンとはいえ、色々な人たちの前で公言してしまうと引っ込みがつかない。アクションプランを立て、日々コツコツと小さな目標を達成していくことになる。

そうこうしているうちに、自分の中でニセモノとホンモノの区別がつかなくなっていった。気づいた頃には手遅れで、いつの間にかボクの人生は偽物のビジョンによって浸食されていった。

段々、自分の中でエネルギーが枯渇していくのを感じた。しんどい。1㎜も思っていない未来のために頑張るということが。まさか、自分にウソをつくということがここまで人生を大きく狂わせていくなんて…。


しかし、転機というのは訪れるもので、ボクは『美女と野菜』の出版を機に野心家へと転向。

拙著『はじめての野心』を出版した頃には「偽物のビジョン」を完全に破壊することができた。


ボクは、調子に乗りまくった。


もう、ボクにビジョンなど必要ない。

だって、ボクが野心本を出版できたのはビジョンやアクションプランがあったワケではなく、ただ、自分に正直に行動した結果なのだから。

ビジョンなんて、野心を叶える上ではいらねぇんだよ!!!


ボクは、そう開き直った瞬間から「悪魔」になった。「で、どこ目指しているですか?」って聞いてくるヤツと出遭うたびに言葉で殴った。

「お前は?で、お前はどこ目指してんの?ボクに聞く前にお前が先に答えろよ!」と詰めて詰めて詰めまくったのだ。


それは、小さな復讐だったんだと思う。


今まで一度も言い返さなかった、パンパンに膨らんでいた「怒り」による復讐。

ボクは、相手のビジョンをムリヤリ引きずり出すだけでは飽き足らず、次第に相手を一撃で切るすることのできる「キラーワード」を考えるようになっていった。

「で、どこ目指してるんですか?」と聞いてくるヤツの口を一瞬で封じることのできる言葉はないだろうか?と。

すると、それから数週間も経たないうちにいいタイミングで"復讐の時"がやって来た。

お世話になっていた某作家先生の出版記念食事会に参加していたら、隣に座っていたメガネの青年実業家(MS)があれこれとボクにインタビューを仕掛けてきたんだよ。野心本のこととか、今までの経歴とか。マジでウザいくらい聞いてきた。んで、最後にやっぱり"こう"言ってきたんだよ。

「で、どこ目指してるんですか?」って。


キターーーーーーーーーーーーーーー!


ボクは、今だ!と思った。そして、ずーーーーーっと心の奥底に潜ませていたカジュアルな殺意をこれでもかッ!と込めて渾身の一撃を放った。

別に、どこも目指してないけど!!!



こうして文字として見るとなんてことない一言だが、ボクはこのセリフに思いっきり俳優仕込みの「感情」というやつを乗せて言ってやったので、相手にとっては相当な威力があったと思う。

案の上、その言葉を受けたMSはビクッとカラダを震わせた。慌てたような焦ったような、ひどく困惑した表情。


ボクは、とても満足だった。


遂に、遂にやってやったぞ!

長年ビジョンハラスメントに苦しめられてきたけど、今日、その無念を晴らすことができた。成敗してやった!と思った。

気分はまるで『必殺仕置き人』。

「あ、あの…その僕は…なんていうか…色々な引き出しを持っている方だなぁって思ったので…つい色々と聞いてみたくなっちゃって…」


なんだ、まだ生きてんじゃん。


ボクは、しどろもどろになりながら話しているMSの顔を見ながら『トドメの接吻』ではなくトドメの一撃を喰らわしてやろうと口を開いた。

が、その瞬間、MSの隣に座っていた通りすがりの美容家がトンチンカンな一言をぶっ込んできた。


「でもぉ~人に話すと自分のことを整理することができますよねぇ~♡」


は?

んなもんコイツに話したところで整理できるワケがねぇだろうが!てか、頼んでねぇし!関係ねぇヤツは引っ込んでろよ!


とは言わなかったが、ボクは完全にブチ切れて会場から立ち去ることにした。

もう、何もかもが怒りの対象。

ふと、扉付近で視線を感じて振り返ると、そこには寂しそうに笑うMSの姿があった。

ボクは、ペコッと挨拶をすることもなくプイッと首を右に振って帰っていった。ホント、時間のムダでしかなかったな、と思いながら…。



だけど、だけどね。



今、あの夜のことを思い出すとめちゃくちゃ反省している自分がいる。今は、ビジョン野郎の気持ちがほんの1㎜だけ解かるようになったから…。

はじめて知ったよ。

「で、どこ目指してるですか?」って聞きたくなてしまう人たちの気持ちが。


とても…痛いほどにね…。


表だった活動を一時的にストップして、SNSを捨てはじめた頃。ボクは、自分自身の人生が止まってしまったような感覚に陥っていた。

SNSで輝いている人や目標を持って頑張っている人たちの姿がとてもまぶしく見えたから。

すごい。みんな自分の進むべき道がハッキリしていてスゴいな、と思った。


が、しかし、

同時に"こう"も思った。


まぁ、みんな頑張っているっちゃ頑張ってるけど、結局、最終的には"どこ"を目指してるんですか?と。

そのときの言い方は、ボクにビジョンハラスメントを仕掛けてきた大人たちのニュアンスとそっくりだった。意地悪く、ちょっとだけ相手をバカにしたようなあの感じ。


ボクは、はっと我に返って猛省したよ。


ああ!ボクは今、自分が一番嫌いな人間になりかけていたんだなぁーって。自分の表現活動が止まっていると、何かをしている人たちの「動き」がよーく見える。自分が人生に迷っていると、迷いなく我が道を突っ走っている人たちに聞いてみたくもなる。

どこを目指しているのか?

どうやってその道を見つけたのか?

そういうことを聞いて、自分の道を明確にするための参考にしたくなったのだ。


ボクは、MSの寂しそうな顔を思い出した。


もしかしたら、アイツをはじめとするビジョン野郎はみんな"そう"だったのかもしれない。

これはあくまでボクの仮説でしかないけど、みんな今のボクと同じように人生迷子で立ち尽くしていただけだったのかもしれないな…。

相手にしている質問は、
自分自身に向けられたものでもある。

質問をしてくるヤツというのは、その内容について誰よりも「疑問」を持っている人間だ。

それはつまり、ビジョンについて聞いてくる人間というのは、他の誰よりもビジョンが定まっていない可能性がある。という風にも考えられる。

だから、会う人会う人にビジョンについて聞いて回っていたのではないだろうか?

だとすれば、ボクはもっと素直に打ち明ければよかったな…。

ビジョンなんて、
そんな崇高なもの持ってないんです。

どうしたら見つけられるんですかね?って…。

自分のちっぽけなプライドを守るのではなく、今、思っている不安をそのまま口にすればよかった。

ビジョン?実は、恥ずかしながらボクはその言葉の意味もあんまり分かっていないし、いつも行き当たりばったりで行動しちゃってる。でもね、自分の中にはまだ言葉にはなっていないだけで、必ず何かしらビジョンと呼べるものが"ある"と信じているんだよね~!

キミは?

キミのビジョンは?

もう、言葉になっていたりする?もしなっているのであれば参考までに聞かせてくれない?どうやってそのビジョンにたどり着いたの?


もしも、もしもあの夜のボクにこうやって心を開くだけの「勇気」があったら…。孤独な時間を、対話の時間として愉しむことができただろうか?

いや、タラレバをしたところで意味はないか…。

つぎつぎっ!

これからは、自分の弱さも愚かさも無知であることさえも、ほんの1㎜だけ開示してみることにしよう。


ムリのない範囲でいい。


ちょっとずつ、
自分を「誰か」に開いてみるんだ!



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中村慧子|Keiko NAKAMURA
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