イタリア再起動計画
4月26日の記者会見でコンテ首相が発表した計画を、私は「イタリア再始動計画」と訳しました。5月13日に発表されたものは、「イタリア再起動計画」と訳そうと思います。今回の記者会見には数人の大臣が同席しており、内容は、ほぼすべてが経済政策に関するものでした。
経済関連の事案は本当に難しくて苦手なのですが、色々な記事を参考にしてまとめてみました。一般人の日常生活から離れすぎている大きな数字については、円換算していないものもあります。ご了承ください。そしてもしも間違いがあれば、どうかどうかお知らせください!
550億ユーロ(約6.4兆円)の追加国債の発行
(EU加盟国は国内総生産の3%までしか借金(国債発行)を認められていません。2019年の国内総生産が1兆7,877億ユーロなので、国債発行額は約536億ユーロまでということになります。3月にすでに200億ユーロ(約2.3兆円)の国債発行が承認されているので、大幅にEUの規定を越えてきますが、今回の追加国債も国会を通過しました。)
「経済政策の項目は250以上に及び、金額だけでなく(政府や官僚の)仕事量としても、通常予算のほぼ2年分にあたる。職員は昼夜を問わず作業をしている」
現在の段階で、申請のあった休業補償とフリーランス・自営業者用の助成金(ボーナス)の80%以上が支給済みですが、一部の休業補償の支払いは遅れています。
「その理由は、過去からあった従来の手続きそのものがとても複雑であることに加え、それが今回のような緊急事態にそぐわないからだ。しかし、州政府と各州の社会保障局、そして国家社会保障局が協力し、国を助けてくれている。州には本当に感謝をしたい。これで遅れを取り戻すことが出来ると思う。」
税金関連について
・合計約40億ユーロ(約4650億円)の減税処置を行う。
・消費税増税(現在は22%)をブロック。
・2021年に導入される予定だった砂糖税(1gの砂糖につき0.021ユーロ=2.4円。砂糖入りの飲み物に課税予定)とプラスチック税(1kgにつき1ユーロ=約116円)の延期。
・3月~5月に支払うはずであった税金の支払い期限を9月16日まで猶予。
・消毒にかかる費用の60%を税金控除対象にする政策は、これまで第一次産業と第二次産業のみに適応されていたが、第三次産業にも適応。
企業向け政策
・総額約160億ユーロ=約1.85兆円。
・年間売上げが500万ユーロ(約5億8千万円)未満の中小企業ヘの助成金として総額100億ユーロ(約1.16兆円)。ただし4月の儲けが2019年の同時期にくらべて3分の1以下であることが条件。
・昨年の同時期と比べて売上げが50%以上減少している場合、3ヶ月分の家賃の60%を税金控除の対象とする。
・光熱費の固定料金を7月まで凍結。
・儲けが33%以上減少した中企業(年間売上げが500万ユーロ~5000万ユーロ)が25万ユーロ以上の資金強化をする場合の免税処置。
・ベンチャー企業ファンド。
・売上げが2億5000万ユーロまでのすべての企業について、収入や売上げの減少にかかわらず、6月支払い分のirap(生産活動に関する州税)の40%を凍結。
観光・飲食業
(上の企業向け政策も適応されます) ・ホテル、グリーンツーリンズム、キャンプ場、山小屋、海水浴場施設等について、6月16日支払い期限の固定資産税の免除。
・バールやレストランが屋外席を設置するために公有地や公道を使用する際に支払う税金(使用料)を10月まで免除。
医療システム
医療システムへの支援として32.5億ユーロ。国内の集中治療用のベッド数を3500床まで増やす、新規で4200増床、コロナ予防対策用の備品(マスク、消毒液など)の消費税撤廃(2021年には5%に)、医師や看護師の増員などにあてられる。また、コロナとの戦いの最前線に従事した医療関係者には、最高で1000ユーロ(約11.6万円)のボーナス。
労働者向け
・総額256億ユーロ=約2.97兆円
・9週間分の休業補償を追加(3月に出された法案で、すでに9週間分は承認済み)
・解雇禁止期間を3ヶ月間追加延長(3月に出された法案で、すでに60日間は承認済み)
・2月1日~4月30日の期間中に期限切れになる失業手当については2ヶ月の追加延長。また、失業手当を受給していても最長60日間の農業従事は可能となり、その場合の報酬は最高で2000ユーロ(約23万円)
・フリーランスや自営業者へのボーナス(助成金)600ユーロ(約7万円)の追加支給(2回目の支給)。一回目の助成金を受給した人々については、すでに取得した個人データがあるので、支給は申請なしですぐに出来るはず。ただし、3月と4月の収入が昨年の同時期と比べて33%以上減っている場合は、支給額は1000ユーロ(約11.6万円)となる。農業従事者ですでに3月分の600ユーロの支給を受けている場合、4月分のボーナス(助成金)は500ユーロ(約5.8万円)
(2回目の支給は800ユーロ=約9.27万円になるという声もありましたが、どうもこの案はなくなったようです。)
・家政婦にも、4月と5月の労働について助成金を支給。週に10時間以上労働している場合は500ユーロ(約5.8万円)/月、20時間以上の場合は600ユーロ(約7万円)/月。
・違法状態で家政婦や農業に従事している外国人について、6ヶ月間の労働滞在許可証を申請できる。ただし、2019年10月31日~2020年1月31日の期間中に手持ちの滞在許可証の期限が切れた場合のみ。追放処分を受けている外国人も申請不可。また、過去5年間に外国人を違法労働させたとして有罪判決を受けている雇用主は申請をすることができない。
(滞在許可証に関する条件について、当の外国人からは異論が出ています。また、野党は違法外国人労働者の合法化に大反対です。)
家族について
・ベビーシッターボーナスの最高給付額を600ユーロから1200ユーロ(約14万円)に増額。医療関係者や警察関係者などの場合は最高額を1000ユーロ(約11.6万円)から2000ユーロ(約23万円)に増額。サマースクール等への支払いにも使用可。
・生活困難世帯への緊急支援金の導入。世帯人数により、一月あたり400ユーロ(約4.63万円)~800ユーロ(約9.23万円)を2ヶ月分支給。6月中に申請すること。条件はイタリア在住、世帯月収が緊急支援金の支給額以下、2019年の全動産が1万ユーロ(約116万円)未満(世帯人数が多い場合は最高で2万ユーロ=約230万円まで、障がい者が世帯に居る場合は2.5万ユーロまで)、動産と不動産の合計が1.5万ユーロ(約173万円)未満であること。また、既に他の助成金を受給している場合は、受給対象とはならない。
・バカンス・ボーナス500ユーロ(約5万8千円)(2人世帯は300ユーロ、1人世帯は150ユーロ)。ただし支給対象となるのは、動産と不動産の合計が4万ユーロ(約460万円)未満(世帯人数が多い場合、5万ユーロ=約580万円まで)の世帯のみ。助成金の80%はバカンス中の費用の支払いに、20%は税金控除の形で使用できる。
・家賃フォンドに1.4億ユーロ(約162億円)
学校・文化等
・9月の学校始業時までに16,000人の教師を追加雇用。
・学校の安全対策に3.31億ユーロ(約383億円)
・サマースクールや教育格差是正のために1.5億ユーロ(約173億円)
・書店、出版社、博物館、文化関連施設等のために2.1億ユーロ(約243億円)。映画や劇場などのチケットの返金、もしくはクーポンも含まれる。
地方自治体について
総額35億ユーロ(約4050億円)
スポーツ界について
2022年7月31日までのスポーツベット(スポーツの勝敗などにお金が賭けられて、勝ったら配当がもらえる賭博)の収益金の一部を使ってスポーツ救済基金を設立。スポーツ業界に従事する契約労働者に、4月と5月について、月600ユーロ(約7万円)の手当を予定。
その他
・自転車(セグウェイやキックボード等も含む)購入金額の60%を助成。ただし助成金の上限は500ユーロ(約5万8千円)
・スーパーボーナス:耐震工事や省エネ対策のリフォームをした場合、その金額の110%が税金控除の対象となる。但し2020年7月1日~2021年12月31日の期間中の工事のみ対象。
とりあえず以上です。
繰り返しになりますが、ミスに気がつかれた方いらっしゃいましたら、どうかどうか教えてくださいね。
「イタリアの政策は目的がハッキリしていて素晴らしい」という意見をいただいたことがあるのですが、この政策すべてが文字通りに実行されるかどうかはまだわからないぞ、というのが、哀しいかな、25年以上イタリアで暮らしてきた私の感想です 企業助成金の申請書類が複雑でわかりにくく、受理されるまでがとても大変で、しかも支払われるまで時間がかかる、なんていう話しは、日本からも聞こえてきますね。また、ご覧いただいたように、助成金に関しては条件つきのものも多いです。
イタリアのコロナ経済対策予算は、今回の決定を受けて総額で10兆円弱となりました。これは現金支給以外に、税金控除や企業融資も含んだ額です。日本の経済対策の総額は約108兆円という記事を読みました。国内総生産がイタリアの約2,5倍、人口がイタリアの2倍とはいえ、イタリアから見ていると、日本の経済政策規模はとても大きく思えます。
日本国内で政権に対して色々な批判が渦巻いているのは知っていますし、政府の感染予防対策に、なんだか随分とちぐはぐな感じがあったのは否めません。でも、日本ではとにかく圧倒的に犠牲者数が低く抑えられているのは事実です。イタリアの犠牲者は3万人以上、生産業がほぼ完全に停止するほどの全土封鎖が実行されました。ですので、他国と比べて日本を「大失敗」と評し続ける日本国内の報道には、ちょっと首をかしげてしまいます。
そのいっぽうで、戦後世代が初めて体験するパンデミックという緊急事態の中、イタリアのコンテ首相がとてもわかりやすい言葉で会見を頻繁に行ってくれたのは、私の個人的意見ですが、精神的に大変ありがたかったです。
どこの国も、どの政治家も、お医者さまですら、何が正解かわからない。
私たちは皆、歴史に残る事件の目撃者になってしまいましたね。
(参考にしたサイトの一部です)