マエストロなシンプルさ
引き続き、作曲家エンニオ・モッリコーネ氏について。
一度は映画業界で働くことを真剣に試みたこともあるくらい映画好きの夫が色々と見せてくれるモッリコーネ氏の動画の中に、上院(Senato)での文化イベントに氏が招かれた時のものがありました。2020年1月28日のことですから、本当にごく最近までお元気にされていたのですね。
このイベントは、「上院と文化(Senato&Cultura)」というものなのだそうです。イタリアの持つ芸術文化の価値をより広く知ってもらうという趣旨で、国営放送Raiと上院が協力し、2019年2月から始まっています。だいたい月に1回くらいの割合で、いろいろなジャンル(と言っても音楽と演劇関係ですね)の芸術家を上院に招いています。コロナによるロックダウンが始まる前、今年最初に招かれたのが、モッリコーネ氏とその息子さんで音楽家のアンドレア・モッリコーネ氏でした。
コンサートの最初に、上院議長が氏の功績を讃える演説をします。
「音楽で観衆に素晴らしい白昼夢を見させる才能」「すべての世代の音楽家にとっての道標」「イタリアの卓越した宝」等々。ここで氏が、なぜにかちょっと涙ぐまれているような表情をされています。
コンサートでは7曲が演奏され、モッリコーネ氏はうち3曲を、残りは息子さんが指揮をされました。息子さんの指揮を見守っている氏のとなりには、奥様のマリアさんが座っていらっしゃいます。
そしてコンサートが終わった後、上の動画だと4分30秒くらいのところで、モッリコーニ氏がマイクを手に上院議長に話しかけるシーンがあります。
「私がスピーチをするなんて思ってませんよね?どうしてスピーチをしないかわかりますか?それはね、とても感激してしまっているからなんですよ。」
そう言って涙声になっちゃうんです!本当にコンサート前から、感動され続けていたのかもしれません。
失礼ながら、「ああ、なんていいおじいちゃん!」と声に出して言ってしまいました。氏自身が書かれた訃報文は、氏がどれだけ周囲の人々を大切にされていたかがわかる文章でした。「そういう人柄だったからこそ、きっとたくさんの人に愛されたに違いない。氏の人生そのものが素晴らしい作品みたいだ。」そう思いました。
亡くなった後にこの動画を見ると感慨もひとしおで、ついついもらい泣きしてしまいます。
*下のイタリア国営放送の公式サイトでは、コンサートの様子を全て見ることができます。ただし、日本国内での視聴が可能かどうかは定かではありません。ご了承くださいませ。