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あの日ミラノで何が起こったか

3月23*日、「東京封鎖」という言葉が都知事の口から出ました。これを聞いて、イタリアの「ミラノ封鎖」を思い出しました。

政府のある首都ローマで、「3月8日から、ミラノ県を含むロンバルディア州と北部14県が封鎖される」の「噂」が出回り始めたのは、前日3月7日の20時頃だったようです。私も23時くらいには、SNSで同様の記事を目にした記憶があります。しかしその時点では、法令はまだ細部を検討中でした。つまり、首相のサインのない「下書き」だったのです。しかし「ミラノ封鎖」の報は、SNSと新聞社のサイトを通じて、あっという間に広がってしまいました。

それで何が起こったか。

ミラノを脱出しようとする数百の人々が、南ヘ向かう最終の夜行列車(23:20発)に乗ろうと駅に殺到したのです。

「ミラノから出られなくなる」
「家族のもとに戻りたい」
「本能的に逃げてきた」

「大都市封鎖」というSFパニック映画を思わせる言葉の響きが、人々の恐怖心を煽ったのでしょうか。
駅には年配者の姿も見受けられました。この階段で誰かが転げ落ちでもしたら、大惨事が起こってもおかしくない。そう思いながら映像を見ていたのを覚えています。

この日のミラノ県における(公式だけれど本当とはいえない指標としての)累計”感染者数”は361人。

ロンバルディア州全体では3420人でした。

つまり、満席の乗客の中に、無自覚の感染者が混ざっている可能性は大きかったのです。その列車がフィレンツェやローマ、そしてナポリの先まで、各地に人を降ろしながら南下していきました。

首相としては許せる訳がないでしょう。
首相がこの法令にサインをしたのは、3月8日の深夜3時半頃でした。朝の記者会見でも「法令の下書きの流布は受け入れられない行為」と非難しました。

しかし、前日の23:50に「下書き」を掲載した新聞Corriere della Seraは、「(発布された法令とその下書きとでは)確かにいくつかの小さな違いはあったが、本質は同じ」とコメントしました。

もちろん、感染がまだ広がっていなかった南部の知事や市長たちも怒りの声をあげました。感染が広がっていた北部からの帰宅者を受け入れるためには、乗客の身元をチェックし、自宅で自主隔離をさせる体制を準備する必要があったからです。そうでなくともイタリアの南北の間には深い深い溝があるというのに、この事件は、その傷にまた塩をぬりこむようなことになってしまいました。

そして、この騒ぎに更に火をつけたのがCNNでした。彼らも、法令が正式に発表される2時間前の深夜1時半頃に、件の法令に関する報道をしたのですが、その情報の出所がロンバルディア州政府広報部だと言ってしまったのです。その後CNNは、「イタリアの新聞の記事を見てから、ロンバルディア州に確認をとった」と訂正しましたが、「下書き」漏洩にロンバルディア州政府が関わっていた印象を残しました。
(情報元はfanpage.itというネット新聞のもの(下に添付したのはその記事の一部)ですが、現在は検索してもみつかりませんでした)

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現ロンバルディア州知事は政権に批判的な北部連合党議員(野党)なので、政局がらみのスキャンダルにもなってしまったのです。

結局、「下書き」を最初に漏洩したのが誰なのかは分かっていません。(少なくとも、私はそういう記事は読んでいません。)
そして実際には、その後もミラノから南部への移動は可能でした。もちろん身元や行き先をチェックされ、14日間の自宅隔離を要請されますが、あの夜、家族を感染させてしまうリスクも考えずも、慌てて列車にのる必要はなかったのです。

報道とSNSがパニックを引き起こしたものの誰も責任をとらない。そんなホラー映画のお手本のような出来事でした。

*26日と書きましたが、23日と修正しました。

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