検査と数、そして日本にいる方々へのお願い
イタリアの現感染者数の前日との差を示すグラフが、4日間下がりつづけたのにいきなり上がったお話しを昨日書きました。その理由を、市民保護局の人が説明している新聞記事(La Repubblica)がありましたのでご紹介します。
「現在の感染者数は、3月25日には(前日より)3492人の増加であったが、3月26日は(前日より)4492人増加した。」
「(3月26日の)いきなりの増加の理由は、26日より以前に採取されていた検体の検査結果が報告されたからではないか。」
同じ新聞が、この増加理由についてのロンバルディア州知事の意見を載せています。
「症状のある者だけに検査をするように、という2月27日に出されたIss (高等衛生研究所)の指示を我々は守っている。当初は複数の症状(典型的な3つの症状のうちの2つ)がある者だけに検査をしていたが、現在は症状がひとつでも検査をしている。ここ数日は発熱だけ、風邪だけ、咳だけ、というようなひとつの症状しかない者も検査を受けることができる。」
実際の感染者はもっと多いはず、ということは、イタリアでも前から言われていましたが、この記事を読みながら、感染者数の曖昧さというものを再認識しました。
同じ新聞の別の記事の動画で、ミラノ市長がこう発言しています。
「とても奇妙なことではあるが、これらの数字(感染者数)は公式のものであるにもかかわらず、本当の数字ではない」
そして、マリオ・ネーグリ薬理学研究所所長の言葉を借りて、こうも発言しています。
「数字の発表は3、4日に一度で良いのではないか。毎日発表するのは、人々に不安だけを巻き起こす。」
確かに、毎日一喜一憂するのは精神的にとってもしんどいです。
この「公式だけれど本当ではない」感染者数が世界的に見てとても低い日本では、今もこの数字をめぐって様々な隠謀説や仮説が飛びかっているようですね。でも、この数字に固執することから少し意識を外すことは大事なのかもしれません。
さて、これから書くことは、私の完全な個人的意見と、そしてお願いです。
日本の医療は質が良く、日本人の衛生観念は高いと思います。さらに、日本人は命令や法律がなくても自粛してしまいます。きっとそのおかげもあって、クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応という他国とは違う方法によって、これまで感染を押さえ込んでこれたのだろう、と私は考えています。だからこそ、他国に比べて死亡者数も低いのではないか、と。
「死因をコロナウイルスにしなければ死亡者数の隠匿は出来る」というメールが日本の友人から来ました。ただ、ヨーロッパをパニックに陥れたコロナウイルスの威力にもかかわらず、日本政府や病院が死亡者数を隠し通せてきたというのであれば、それはやはり死亡者数が相対的に少ないということにならないでしょうか。
しかし今、(公式だけれど本当ではない)指標としての感染者数が増えてきました。つまり、これまでの方法ではおさえられないほど、感染の裾野が広がったということなのではないかと、私はとても心配しています。
政府が信じられないのなら、これまで患者と対峙し、実際に日本での感染拡大をおさえこんできた医師や感染症対策の専門家の声を聞きましょう。
国際感染症センター長の新型コロナウイルスに関する説明は、端的でとてもわかりやすいと思いました。
・(感染者のうち)80%の人の症状は本当に軽い。歩けて、動けて、仕事にもいける。(つまり、どんなに感染が広がっていても、80%の人は感染している自覚がない)
・20%は確実に入院が必要。
・5%の人は、集中治療室に入らないと助けられない。
・悪くなるときのスピードがものすごく早い。今まで話せていたのが、数時間で人工呼吸器をつけないと助けられない状態になる。それでも間に合わなくて、人口心肺をつけないといけなくなる。
・特に持病のある方には、そういうことが起こる。
厚生省の公式サイトには、専門家会議の状況分析と提言が更新掲載されています。
最新のものは先の連休直前、3月19日に出されていました。誰もが読める形で出されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000610566.pdf
「専門家会議としては、現時点では、社会・経済機能への影響を最小限としながら、感染拡大防止の効果を最大限にするという、これまでの方針を続けていく必要があると考えています。そのため、「①クラスター(患者集団)の早期発見・早期対応」、「②患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「③市民の行動変容」という3本柱の基本戦略は、さらに維持、必要に応じて強化し、速やかに行わなければならないと考えています。」
「オーバーシュート(爆発的患者急増)が始まっていたとしても、事前にはその兆候を察知できず、気付いたときには制御できなくなってしまうというのが、この感染症対策の難しさです。 もしオーバーシュートが起きると、欧州でも見られるように、その地域では医療提供体制が崩壊状態に陥り、この感染症のみならず、通常であれば救済できる生命を救済できなくなるという事態に至りかねません。」
「オーバーシュートが生じる可能性は、人が密集し、都市としての人の出入りが多い大都市圏の方がより高いと考えられます。」
「これまでに明らかになったデータから、集団感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという3つの条件が同時に重なった場ということが分かっています。」
「もし大多数の国民や事業者の皆様が、人と人との接触をできる限り絶つ努力、「3つの条件が同時に重なる場」を避けていただく努力を続けていただけない場合には、既に複数の国で報告されているように、感染に気づかない人たちによるクラスター(患者集団)が断続的に発生し、その大規模化や連鎖が生じえます。そして、ある日、オーバーシュート(爆発的患者急増)が起こりかねないと考えます。」
こうやって読むと、予防のための指針はすでに示されているかと思います。ここまで分かっているのです。政府の命令がなくとも自粛できてしまう日本人であればこそ、感染爆発(爆発的患者急増)が起きないよう、これらの提言を参考にした「自分たちにできること」を、個人で、家族で、会社などで考えてすぐに実行していただくわけにはいかないでしょうか?
イタリアでは感染爆発が起きて、重症者が余りにも大くて病院が疲弊し、国をあげて家にこもることになりました。国内初感染者が見つかってから、3週間足らずの間にこれが起こったのです。経済的な損失なんて計り知れません。いつまでこの状態が続くのかも分かりません。ただ、人々がこれまでの生活でしてきたのように自分勝手に動きまわってしまうと、今の状況が更に悪化し、もっと多くの方が亡くなってしまうであろうことは想像に易いです。私の夫は、もう長いこと彼のお父さんに会っていません。もし夫が無症状感染者だとしたら、80歳を越えた高齢のお父さんの命を危険にさらすことになるからです。
お年寄りや持病を持っている方が次々に亡くなってしまうようなことを。
知らない間にウイルスを体内に取り込んで家に持ち帰り、自分のお父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんを死なせてしまうようなことを。
お願いですから、どうか日本で起こさせないで下さい。