結馨インタープリター講座で学んだこと
転機なのでしょうか。これまで森林整備ボランティアや里山活動ボランティア、あるいは一市民として環境NPOの生態調査ボランティアに参加してきましたが、誘われるまま参加してきた(あるいは開催されるから行ってみた)というのではなく、これらの行動の動機をもっとはっきりと言語化し、自然の中で生きることについて自分の信念を持ちたいと思いました。
自然相手の整備活動はレクリエーションと違い、荒れた状態が目に入り、それを汗を流して整えていくわけです。やってしまえば体を動かした後の充実感、整備された姿の爽快さがあります。
最近では日本の森林資源がうまく活用されていないとも聞きます。また自宅周辺で小規模な田んぼはやっていけない状況にあるなどの話も聞きました。さてこの先、どのような活動が必要で、どういう考え方が求められるのか、その拠り所を見つけたいと思っていました。
受講のきっかけ
間伐作業中に、ある一本の木の切り口からとてもいい香りがしたときから始まったように思います。それはおそらくヤブニッケイではないかと他の参加者は言っていました。それからグリーンウッドワークに出会い、生木を削るときの手触りとか香りとか耳に聞く心地よい音、そこに集中できる感じがとても心地よいことを知りました。そこで、里山や森での整備活動などこれまでしてきたことの意義、この香りとのつながり、森の役割や多様性の不思議さなどをもっとしっかり知らなくては!と気づきました。
yuicaインタープリターとは
yuica(結馨)は馨で人と人を結び、人と自然を結ぶ精油です。この精油を産生する樹木と森の性質、精油に含まれる成分とその性質、現代社会に多い自然欠乏症候群の症状とその原因を勉強し、人と自然のつなぎ役となる日本産精油の実践的解説員(=インタープリター)です。
環境保護団体の活動とは違う
数年前、環境NPO「特定非営利活動法人 アースウォッチ・ジャパン」(https://www.earthwatch.jp/)の事務局に勤めていました。この法人は理念として、「環境問題は、環境を守ろうというプロパガンダでは解決しない」と謳っており、大事なことは周囲の自然の状態をつぶさに科学的視点を持って把握、理解することであり、一般市民がその科学的調査に参加する機会を提供する、というものでした。
確かにボランティアとして野外調査に参加することは、身の回りの環境を科学者の視点を学びながら、メディアのフィルターを通さず、実体験として体得するということに、他では得られない大きな意義があります。ただ、このボランティア活動に回数多く参加するだけでは、たしかに研究の成果にはなっても、自分の行動が環境保護という大きな成果につながっているというのは期待感に過ぎず、自分が貢献した実感は薄れていきました。自然の中での活動は楽しかったという感想で終わり、さて日常に戻って自分として何ができるか、それは人それぞれにゆだねられているわけです。
それから数年経った今「yuica日本産精油インタープリター」の講座を受講することにしたのですが、その産みの親である稲本正代表の著作『脳と森から学ぶ日本の未来』の中に、私の中でわだかまりとなっていたこの点が明白に論じられていました。野外調査への参加はとても意義ある経験であり、そうした体験の上にこそ、主体性を持った自然への考え方が構築されると。
『脳と森~』の第4章で、近代化前の日本人の身体と精神から始まり、明治維新後の近代化や戦後復興に見られる日本人の特異性とすごさ、1960年代の学生運動の契機といったことから、日本の新しい哲学を探るための土台を論じています。この本にも「自然保護」という概念に対する日本人の大部分がもつ違和感は書かれていました。
アースウォッチは米国で生まれ、英国、オーストラリアに続き、4番目の拠点としてアースウォッチ・ジャパンが設立されています(※1)。アースウォッチの理念、科学的根拠と個人が得る体験を重視するという点は共感できます。ではその体験が持続可能な環境の維持にどう結びつくのか、この点は参加者個人にゆだねられています。ただ、参加経験者ならば、日本の自然に対して主体的な関わり、人間社会が及ぼす影響の大きさなどをより実感を持って考察できるのではないかと思います。
さらに『脳と森~』で、日本人は「自然を人間が保護する」という考えは受け入れていないが、近代化以前から「人間が自然の一部であるという認識」を持っていることから、環境学が非常に向いているとあります。おそらく、既存のローカルな生態系に外来生物が侵入してきたときにどう対処するかというところでは考え方、文化の違いがでるかもしれません(※2)。
では、保護しようと声高に発信せず、周囲の自然と生きてゆくにはどうすればいいのか。筆者が提示するその一つは、「日本の独自性と問題を整理し、プリンシプルを確認し、美しい文化を取り戻すことだ。」
第4章までの中で私の心に強く刺さったキーワードは、「日本の文化の奥底にある恐ろしいほどの美」「またそれを表現し、日本人の多くの人が本当にその価値を理解しているか」「日本の美の原則」。そして「森にまつわる民族の各階層の人に会ったが(中略)ある約束のようなもの」、この文化や美学を、哲学というより環境保全手法として上手に蘇らせることそがその答えかもしれないと思いました。
ちょうど今朝(R3年9月25日)、2年前の台風で屋根のトタンが吹き飛び、その下の茅葺きの屋根が出てきたという写真がfacebookに投稿されていました。写真は実に見事で、そのキャプションの文章もまた、日本の美をストレートに表現したすこぶる興味深いものでした。引用しますーーーーーー
2年前の台風被災後、我が家の屋根にかけてあるトタンがすべて吹き飛び、茅葺屋根が現れました。それは、まるで缶詰に保管されていた「里山の遺跡」のようでした。台風一過の翌日、青空のもとに里山に佇む茅葺屋根のあまりの美しさに息を呑み、先人の知恵と美意識に感動しました。
その時、うまく言葉で表現できないのですが、茅葺きのある里山風景の美しさに突き動かされ、心の奥がざわつき、直感的に茅葺きを再生しようと決意したのです。
天水棚田、炭焼、藁細工、茅葺きなど僕が次世代へ手渡そうとしている暮らしの知恵と美意識は、僕らの社会では価値のないものとして消えようとしています。
しかし、里山の知恵を引き継いぎ、再創造することは、過去にもどるのではなく、未来を開くことなのです。
是非、一緒に美しい未来の風景をつくりましょう!
(写真は元投稿者の林 良樹さんです)
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思いを伝え、伝わるまでの距離
もう1つ、時間が有限であることもインタープリター講座で学びました。香りはそのうちに薄まって嗅ぎ分けられないほどになっていく。だから行動するならば香りの効果があるうちに、この枝の香りが感じられるまでの間に、次の香りの元がちゃんと傍で香るように、そういう気持ちのもと行動していきたいと思いました。
こうした有限性や、輪廻転生の話も、私なりの言葉で腑に落ちる表現にして後輩や知人に伝えていきたいと思います。
インタープリターを取得したらやりたいこと
「自分を健康を保ち、自然を観察する気配りを身につけようとする心の状態を作る。」そのための実践を以下の具体例で私と周囲の人に波及させていきたいです。
その① 木の香り(精油)が感じられる空間作り
①-1 手始めとして、近所の自家焙煎コーヒー店にyuicaの精油を置いてもらう。ここには香りのお試し用として外国産精油が数本置いてあり、聞いたところ、これを取り扱っていた方は故人になられているそうです。yuicaの日本産天然精油を購入することが日本の森を守る一助になることを伝える場にできそうです。
①-2 里山の木を利用して、木工で芳香ディフュザーを作る。
①-3 香りを簡単に試せるリラックス空間づくり。精油の瓶をあけて嗅ぐのとは違う、ふわりとした、それとなく香る空間に。小枝で直射日光を遮り、涼風が入る、木漏れ陽の中で体験できる(待庵?)なんて。
その② 木をすぐ身近に感じられるように
②-1 里山のどんぐりの苗や種を、縁のあった方に渡していきたい。大きくなりすぎたときに戻せる場所も考慮しながら。
②-2 遊びの道具(将棋の駒など)を作る。立体の美、種類の美、なんてものを考えつつ。木の種類を、遊びながら知る。手を器用に使うことを体験する機会に。
②-3 周囲の木の名前を知る。判別できるようにする。それから木の性質を四季を通して知る。また、里山の木を活用する上での障害を知る(扱いにくさ、乾燥させる時間と場所、運搬、製材など)
その③ 森や里山に足を踏み入れたくなる、光の入る空間、足に優しい踏み心地
③-1 所有地に隣接して公有地(半分平地半分竹林)があり、これを悪影響が発生しない程度に整備する必要がある(今すぐ)。入口を開放的にし、竹笹のふかふかした足元の気持ちよさを感じたい(※3)。散歩途中に涼を取ったり、遊び場、生活に持ち帰れるお土産があり、木を知る場所にも。
③-2 森を体験する機会、活用の仕方を考案してやってみたい。奥の方に待庵が見える。ツリーハウスも夢。
③-3 無農薬、減農薬で稲作をしている農家さんのところで、ライスキャリアオイルができないか。
③-4 「田んぼの学校」を通じて、農家さんが大切にしているつながりの意義をしっかり伝えていく。自然や本能が感じるよろこびを迷っている人には脳でも腑に落ちる伝え方で。田んぼを続ける農家の一家言が子々孫々を超え、地域や協力者に代々受け継がれていくように。
③-5 千葉は林業家が育林するスギ林が多いので、つながりができた際に間伐材の利用、枝葉の利用など提案できそうなことを考える。
その④ 木を育てる
④-1 自分のこの初心を忘れないために榧の木を育てる。ともすると部屋にこもりPCに浸る楽な生活を選ばないためにも、成長が遅く、香りがよくて(野生動物に食べられやすく)目をかけてあげる必要のある榧の木を実生から育てる。
④-2 今住居の敷地内にあるヒマラヤザクラを絶やさない。殖やすため種ができる方法を試す。
その⑤ グリーンウッドワークを知ったときに思いついた「栗の木を苗から育て、栗の木で一膳に必要な道具(椀等)を作り、栗ご飯を食べる」を実現する。
番外編 『脳と森から学ぶ日本の未来』を読んで、知らないことを実践してみる。SNS上で読書会する。里山の木を活用する上での障害の解決を探る。
その後の抱負
こうした活動と五感を使った生活がより多くの人に波及した際には、平均寿命など栄養状態の尺度ともいえるもので豊かさを測るのではなく、健康年齢や生産年齢が伸びていき結果として幸福度が増していくのではないかと思っています。バイオリン製作家のアントニオ・ストラディバリは1644年生まれ1737年他界とのことですが、驚くべきは黄金期が56歳~81歳、「アルトー、アラール」の製作が84歳ということです(https://www.nipponviolin.com/instrument/detail/vn031/)。
ストラディヴァリが80歳を超え、黄金期(1700年 - 1725年頃)に素晴らしい作品たちを世に送りだしたのちもなお自身の創作意欲は衰えることなく、黙々と製作に力を注いでいました。
おわりに
自然に関わる活動を、対価が得られる労働として生活のために参加してこなかったため、だからこそ柔軟に、暇ある限り健康である限りやってこれたのかもしれません。今はこの森を守り自然とともに生きるため天然の精油を買って使うことがその一つの手段として必要なことと思います。多くの方に知っていただきたいと思います。
これを教えていただいたyuicaスペシャリストの鉢呂先生、稲本会長の言葉を代弁していただき、そして森のそのままの小枝と香りを届けてくださいまして本当にありがとうございました。これからも一緒に活動させてください。よろしくお願いします。yuica関連の皆様よろしくお願いします。
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なお、冒頭の写真はnoteクリエイターさんの写真集から借りたものでyuicaとは関係ありません。
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※1 日本事務局の設立者は、『成長の限界』を発行したローマクラブの会員であった難波菊次郎(故人)。
※2 田んぼには外来種のナガエツルノゲイトウと昔からのヒエなど両方が生えていて、手作業での稲刈りでは、ナガエツルノゲイトウは邪魔ではあっても稲とは全然違うのでやりやすくヒエの方が性質が似ていて取り分けにくいなんてことも実感しました。
※3 ふかふかを維持するのがよいのか維持できるのかというのは調べる必要があるかもしれない。
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