11.蚊帳【沖家室】思い出備忘録
沖家室の蚊は生命力に溢れている。
サイズも大きくて、刺されると痛いと感じる時もあるほどだ。
夏の夜、2階の部屋にへあがると、蚊帳が張られている。
この部屋で家族みんなで雑魚寝するのだ。
蚊帳のまわりには蚊取り線香がまるで結界のように置かれている。
付属の金属の受け皿だけでは足りなくて、
少し欠けた取り皿にもY字の金属の支えを置いて活用している。
部屋は蚊取り線香の煙でいっぱいだ。
蚊帳を張った部屋は、いつもの部屋と違った雰囲気を醸し出していて、
なんだかワクワクしながら端をめくり上げて、中へ滑り込む。
布団に寝転がると、昔ながらの和風の照明が蚊帳越しに見える。
祖父の周りの家はとうに寝静まって、島は静かさに包まれている。
時折、じじじっと蝉が外壁にあたる音が聞こえる。
しばらくすると弟の寝息が聞こえてくる。
弟は寝入りが早くて、私はいつも置いてけぼりにされてしまう。
私は家から持参した愛用のまくらで何度も寝返りを打ちながら
眠たくなるのを待っている。
鼻まで引き上げたタオルケットは蚊取り線香のにおいがする。
天気予報では明日も晴れると言っていた。
暑い1日になるに、違いない。