ためごろうと乳姉弟だったはなし
私がまだ乳飲み子で、広い座敷にコロリとほっぽり出されていたころ。
きこりだった祖父が、山からまだ目も開くか開かないかの子ウサギを拾ってきた。
死んだ母ウサギのそばで一羽だけ、母のお腹にもぐりこんで体温を保って助かったんだと。
人間の赤ん坊よりはだかんぼうに見える子ウサギを前に、
そのころ私の育ての親だった二十歳の叔父は途方に暮れて
ただうようよとうごく子ウサギを赤ん坊のお腹の上にのせてみた。
と、ウサギはするりとすべり落ち、赤子のわぎばらへスポッとおさまり動かない。赤ん坊はぼんやり天井をながめながら、うーだかおーだかつぶやいている。
そのうち2匹?ともそのまま眠ってしまった。
目が覚めると赤ちゃんは泣く。
ひとりが泣いて、みるく瓶で乳をもらう。
うようよの一羽もほしがるけれど母ウサギはいない。
ふと、ひとりのほうがぷいっと乳首をはなした。
いやおまえ全然のんでないじゃない…と、ふくませるも
ぷいっとはきだしてしまう。
うようよが何かを察してちかよってきた。
もうなんでもいいやと、叔父がふくませた乳首を
子ウサギはごっきゅごきゅと音を立てて飲み始めた。
ちいさなお腹がみるみるふくらむ。
小食の赤ん坊とおなかをすかせた子ウサギは、
こうしてお乳を一緒に飲んで一緒にねむった。
叔父はあっとおどろいたかどうかは知らないが。
ウサギをためごろうと呼んだ。
子ウサギは半年後、すっかり大きくなって山へ帰った。
赤ん坊はもうすぐ1歳になるころ。
ひとりと一羽がさびしがったのか…どう思ったかはわからないが、
その後の赤ん坊の人生には、いつもうさぎが付かずはなれず一緒にいる。