門 さくら

あらカン。パート。あら独身。 さながら未熟年離婚といったところです。 反面教師にしてく…

門 さくら

あらカン。パート。あら独身。 さながら未熟年離婚といったところです。 反面教師にしてください。

最近の記事

わたしたちはまだ…16だから♪

駅を降りて自宅へ向かうなだらかな坂には、40年近く続く洋菓子屋さんがあって、いつもやわらかな甘い香りで辺りをつつんでいる。 その日は雨で、でも傘をさすほどではなくて、わたしは折りたたみ傘を出さぬまま坂道をあるいていた。 ふと、耳にぽつぽつと音がひびいて雨がやんだ。 ふりむくと背の高いやせた女の人が、心配そうにわたしに傘をかたむけていた。 「あめですよ」 「ぬれてしまいますよ。おちかくですか?」 ちょっと驚いてだまっているわたしに、傘はないの?と話してくる。 見ると傘には駅

    • 身は滅ぶのかしらどうかしら

      あんた、よう聞きなぁよ。 旅芸人にはぁ、ぜったいについていったりしちゃぁいかんのよ。 身を滅ぼすんだからね。 菜っ葉を採りながら、ようやく幼稚園になじんだわたしに、 なぜ祖母はそんなことを言ったのか……。 ただその時の祖母のこわい顔と、返事もできずにじっと立っていた 小さかった自分をとてもおぼえています。 還暦も前になって、旅芸人の一座が好きになりました。 人と人とのつながりの中で芸が受け継がれていく、そのところに惹かれました。 舞台と客席がとても近くて、役者さんと客

      • 父のあれ

        父のあれというと、パチンコ麻雀、女の人に酒、さけ、酒。 いいところまでいったアマチュア将棋も、 お酒にまみれて大会へ臨むものだから、出禁になってしまいました。 そのうち自転車に乗るにもお酒の力が要るようになったその秋に。 亡くなりました。 黒のジャージと酒焼けの首元。脂ぎった髪の毛。 父を思うと、芋のツルのようにでてくる感覚的なもの。 そしてにおい。どんなに逃げてもにおいはついてくるものですね。 まだ赤ちゃんだった子を連れて歩いたその町のにおいは、父と同じにおいがしま

        • ためごろうと乳姉弟だったはなし

          私がまだ乳飲み子で、広い座敷にコロリとほっぽり出されていたころ。 きこりだった祖父が、山からまだ目も開くか開かないかの子ウサギを拾ってきた。 死んだ母ウサギのそばで一羽だけ、母のお腹にもぐりこんで体温を保って助かったんだと。 人間の赤ん坊よりはだかんぼうに見える子ウサギを前に、 そのころ私の育ての親だった二十歳の叔父は途方に暮れて ただうようよとうごく子ウサギを赤ん坊のお腹の上にのせてみた。 と、ウサギはするりとすべり落ち、赤子のわぎばらへスポッとおさまり動かない。赤ん坊

        わたしたちはまだ…16だから♪

          桜吹雪いて…

          今年の初夏、ひょんなことから大衆演劇に出会いました。 「劇団花吹雪」という劇団です。 お友達のつきあいでゆるりと観劇したのですが、まさかこんなにはまるとは思ってもみませんでした。 夢中になって4か月…かけのぼる自分の心を少し落ち着かそうと、娘目線でつくった短歌が前半の3選。心のままに書いたものが後の2選です。 も、ものすごく恥ずかしいです…が。よろしくお願いいたします。 娘目線の短歌 ・ねぇきいて 推しが私を 見つめるの それはよかった 元気でいてね ・どうしましょう 推

          桜吹雪いて…

          戦争で死んだ祖父へ

          敵国から降ってきた手榴弾を、両手で受け止めて海へ走る。 投げようとしたその瞬間に爆破。祖父は御年25歳で満州にて戦死しました。 「トヨミさんのおかげで僕らは帰ってこれました。」 「トヨミさんが命を救ってくれました。」 「あそこでトヨミさんが受け止めてくれなかったら全員死んでました」 「ありがとうございます。」「ごめんなさい。」 「僕が死んだらよかった…」 日本で祖父の帰りを待ちわびる家族のもとへ、妻のもとへ 遺骨を届けた部下たちは、そう叫んで男泣きに泣いたそうです。 遺

          戦争で死んだ祖父へ

          へびがでた

          にわの垣根にへびがいる 細くてうす白いからだをくねらせて するりと上手に竹垣をわたっていく へびがでたよと ひとりごと ちいさくいきをのみながら きっとこちらにはこないはず     だれにともなく ひとりごと こわさと 見おくる安ど感 迷わないでおかえりよ… こちらをむけば怖いだろうに うしろすがたに 声をかける ながいしっぽが しゅるしゅるまがって おまえもな…と、聞こえたようで たしかにわたしはへびといる だいじょうぶ…わたしのうちはここだから

          へびがでた

          カリンバを鳴らして

          胸がせりあがって息がしにくい、 とりあえずなにか飲むのだけれどすぐに喉が渇く 甘いものを食べ続けるけれど、味がしない じぶんのことをしようとするも からだもあたまも動かない 何がしかが脳みその中を支配していて それは自分の思考ではなくて誰か彼かの思考である そんなことはありえなくてダレカカレカは自分なのだが それが認められない 辛くて辛くて辛くてつらい 死ぬかもしれないなぁ と思う 死ねたらなぁ とも思う ところがほんとうに死ぬとなったら、いきなり生が恋しく

          カリンバを鳴らして

          だいじょうぶ

          悪い人じゃないねんな。あぁでも私には無理やわ。 神経を逆なでするんよねぇあの人。 良い人そうに見えて、あれはそう見せてるだけやね。 なんか怖いとこあるもの。 二人だけでは会いたくないやんな。 最初だけ。会っていくうちにややこしくなってくる。 かかわらんほうがええよね。 友達おおへんと思うよ。 まちがいない。 なんか病気なんとちゃうかな。 そんな感じするよな。 そんなこといったい誰が言うてるん? みんな。 みんなて? みんな。 みんなはいじわるやね? そんなことない。

          だいじょうぶ

          あずき日記

          わたくし黒猫、御年5歳。 多頭飼いでいるところを保護された、保護猫です。 小さくて小豆みたいだったからあずきちゃんって呼ばれてます。 いまはボランティアさんのところで里親になってくれる家族待ちなの。 5年間、何度も譲渡会へ行ったわ。 でもね。いくらどうぞわが家へ!ってなってもわたしにその気がないと…… ごめんなさい。むりなんです。 その家は、初老のシングルのお宅だったわ。 子どもたちは独り立ちして、10歳になるうさぎと一緒に住んでた。 うさぎはいつも、水の皿をくわえてひ

          あずき日記

          35歳のあなたと58歳のわたし

          マッチングで出会った。 色黒の小柄な容姿…初めてのタイプ。 目をまっすぐに見てくる。 緊張しているのが伝わるが、嫌ではない。 少し話してみることにした。 プロフィールにはシャイと書かれていた。 わたしはどうも距離が縮まるまでに色々やらかしてしまう。 初めて泊まったホテルで地震が来て、相手を守ろうとするあまり 眠る相手めがけて大の字でダイブしたり。 優しくされることに慣れなくて、居心地たいそう悪くなり 相手の靴だけをずっと凝視していたり。 内緒話に呼び出され、舞い上がって

          35歳のあなたと58歳のわたし

          さびしいとわたしはどうなるか

          まずは、そのことに気づかない。 元気がない時はさびしいこととかどうでもよくなっているので、 さびしい時は元気だ。 さびしくて元気なわたしは、動き始める。 練習会場へ行くだけでも片道4時間かかる朗読発表会へ申し込む。 猫を飼おうとする。 傷んだ梅を買う。  きれいな梅は買えない。 読み聞かせボランティアへ行くも、下手くそへたくそへたくそと、自分へのダメ出しの声が脳みそ中にわんわんひびく。 出来ないことを脳みその中へ並べ始める。 だれかのために必死で動こうとする。常に笑顔だ。

          さびしいとわたしはどうなるか

          母を看取る

          桜はまだとおく、だがしかし店頭にはちらほらと並び始めたころ。 娘と孫たちに看取られて母は逝った。 桜が咲いたなら、それは美しく見下ろせただろう施設のひと部屋であった。 ひとり孤独に死ぬ人ではないだろうとは思っていたが、 ここまで身内にかこまれ、最後のひと息までも皆で重ねながら旅立つとは なんとしたことだろう。 母と目があった記憶がほとんどない。 「おかあさん?」 と呼んでも 「なに?」という顔でこちらを向けど いつもどこか遠いところを見ていた。 母はいじめられっ子だった。

          母を看取る