見出し画像

尻を揉まれる

「あとでいっぱい揉んであげるから。」
  あははははっ。
「言葉にすると卑猥だね」
  


私の仕事は接客業。飲食店。
注文を受けてから1分以内に商品を提供することが求められるから、頭も使うけど、かなりの体力勝負。

前日は朝から過去イチと思われるくらいバタバタと走り回って、お昼前にはクタクタで、次の日のお休みは自分の身体を労わろうと心に決めていた。


* * * * * * * *

私は娘を産んで直ぐに椎間板ヘルニアの手術をした。手術をした場所は治ったものの、椎間板ヘルニアとは、そう簡単に治るものではない。何せ、骨と骨の間の軟骨がズレている訳だから。このヘルニアと関係あるのかは分からないけれど、その後ぎっくり腰を起こしたことは数知れず。

疲れが溜まればだいたい腰にくる。病名は椎間板ヘルニアから来る坐骨神経痛。

神経痛なんて、前はおばあちゃんがなるものだと思っていたから、20代で発症したのはその頃ショックだったなぁ。笑

最近は、仕事の疲れが溜まれば腰じゃなくて、お尻の骨が痛くなる。
この臀部痛は、坐骨結節というお尻の下の方(とんがっている所)で炎症が起こっているらしい。原因は主に使いすぎと書いてあった。スポーツ選手に多く見られるらしい。左右どちらかが痛くなる人もいるそうだけど、私は両方が痛くなる。でもスポーツは嫌いじゃないが残念ながら全くしておらず、仕事のみで痛くなっているのが悲しいところ。

知り合いの整体院に行ったらあっさりと「坐骨神経痛だね」と言われた。

お尻が痛くなるということは、最初、筋肉痛だとばっかり思っていたので、坐骨神経痛と聞いて、そっちかー!と笑ってしまった。でもそれからは自分の腰痛に更に気をつけるようになった。

いつも施術をしてくれるのは、我が子が小学生の頃に、一緒にPTAの役員をしていた男性。柔道整復師で整体院をされている。

一緒に役員をしていた頃は、わたしを見ては「可愛い」といつも言うため、何だか気持ちが悪くて遠ざけていたけれど、飲み会の時に一度自分の腰の話しをしたら、
「一回うちにおいでよ。見てあげるよ。」
と、それはそれはプライベートでなく整復師の顔で言われたため、意を決して行くことにした。

色んな整体院があるけれど、ここはかなりオープンで、身体に触る、ということにとても気を使っているところが安心できる。

『てもみ』という彼の整体院の名前の通り、機械に頼るのではなく、結構な時間をピンポイントで手揉みしてくれる。何より彼の手が大きくて、揉んでくれる力が弱くもなく、強すぎもなく、とても気持ちが良い。更には保険適用という、ケチな主婦にピッタリ。

* * * * * * *

 
ということで、またこの整体院に来たのだった。

そして、受付をしてくれた女性(これまた前からの知り合い)が言った、
「けいさん、尻が痛いんだって」

彼女の性格を体現するような、あけすけな言い方にも笑うけど、整復師の彼が返した言葉がさらに笑う。

「わかったわかった。
あとでいっぱい揉んであげるから。」

  あははははは!
「言葉にすると卑猥だね!」
最初に肩を揉んでもらっていた私は、うつ伏せのまま笑い転げる。

「そうだねぇ。
この仕事を始めて最初は考えたよ。けど、すぐ慣れた。」
と真面目な顔で彼は言う。

最初は、友達から色々言われたそうだ。
「この仕事っていわゆるアレだろ?揉んだりするんだろ?」と。

「だけどな、やってると感じなくなるんだよ。これが。1週間で全く考えなくなった。」

この日は眼を腫らし、疲れた様子で言葉を続ける。

「どうしたの?なんか今日すごく疲れてない?わたしは揉んでもらいに来てるけど、何もしてあげられない。」

「気にしないでいいよ。ただの寝不足。オリンピック見てたら寝れなくって。昨日は寝ようと思ったのが3時だったよ。やっと柔道が終わったから、今日から眠れると思う。」

そして彼は、疲れなどものともせず、自慢の大きな手で遠慮なく私の尻をグリグリと揉む。

流石だなぁ。
あぁ気持ちよかった〜。
ありがとう!

そう言って整体院を後にした私は、眠そうな整復師を尻目に、足取り軽く本屋へと向かった。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?