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山陰の旅 鉄と蕎麦と珈琲と 

 昨年、知人が暮らす隠岐を訪ねて島に渡ろうとしたが,風が強く高速船は欠航.彼は翌日のフェリーで本土にやってきたので,会うことはできたのだが…….そのリベンジの旅を計画した.見学に加え包丁づくりも体験する.


☆今回のテーマは3つ:鉄(たたら)・蕎麦,そして珈琲

 変なホテル羽田に前泊し、旅は始まる.フロントのロボットはハロウィーン仕様だ.

変なホテルのフロント

初日の蕎麦と珈琲

2024/10/28(月) ホテル発7:45→羽田発9:15→米子着9:15→七類港発15:45→隠岐西郷港着16:54 →ホテル

 米子鬼太郎空港からレンタカーで出発.まずは,昨年お世話になった珈琲自家焙煎店「フィンシャレー」を目指す.久保田明氏へのインタビューに同店が登場したのでプリントをお渡しする.

 初日の蕎麦

 さて,昼食はもちろん蕎麦だが,車を走らせてもラーメン店しか見つからない.勘を頼りに細道を右へ左へ,すると街中の観光案内所を発見,蕎麦屋を教えてもらおうと車を止める.看板をみると「珈琲 抹茶 ぜんざい」その下に「上代 蕎麦」の文字を発見.ここで,頂くことにする.
 メニューにあった郷土料理「いただき」をなんだろな? と追加注文.

郷土料理「いただき」は(お膳の右上)

 案内所所長に聞けば「上代」は名店とのこと.私の「日本蕎麦」の発言に,彼は「出雲蕎麦」を強調される.
 近くの自家焙煎カフェについて尋ねると,古い蔵をリノベーションした店を紹介してくれた.

 珈琲舎 en

 善五郎蔵をリニューアルしたカフェのコーヒーは,竹炭で焙煎した珍しいものだった.2階に上がり天井を見上げると梁がすごい.

三棟の蔵がつながっている
蔵は文化庁から登録有形指定
1階店内
2階はゆったりと寛げる.(若い二人の承諾を得て撮影)
立派な梁は隣の眼鏡屋さんへと続いている

 高速船で知人の住む隠岐へ

いざ,高速船レインボージェットで出航
ジェット噴射だ
さすがに速い
隠岐の島が見えてきた
ホテルの窓からは西郷港が見える

 夜釣りの男性

 ホテルはフェリーターミナルとつながっているので釣り人の姿が見えた.
 今の時期はイワシだが,太刀魚,シロイカなども釣れるという.沖に出ればクジラにも遭遇.ただし,住み着いているわけではないのでめったなことでは出会わない.

イワシを吊り上げた瞬間
20cm以下はリリース

旅の2日目 隠岐島内観光

2024/10/29(火) ホテル発9:00→島内観光→西郷港発15:10→七類港着17:35

 ホテルの近くを朝の散歩

「出雲大社西郷分院」はホテルのすぐ裏だ
カモメたち
カモメが飛ぶ
こいつはカラス
カモメ


 知人の案内で名所めぐり

「玉若須命 (タマワカスミコト) 神社」
871年創建
八百杉 (国の天然記念物,幹径11m)

天健金草神社 (アマタケカナカヤ)

神社につづく石段

 鳥居をくぐりながら私は呟いた

・「参道は神が通るものではない」
  人が通るところ,どこを歩こうが勝手
・初詣は鉄道会社の営業戦略!
 大晦日の集金のための深夜運転

島田裕己(2019)
苔むす石段
狛犬『阿』
拝殿
天健金草神社拝殿
本殿(八幡流造り)を奥に見る
修復後
出雲型狛犬『吽』

 舟小屋群

舟小屋群

 牛突き

 隠岐モーモードームでは伝統の牛突きが開催されるのだが,今の時期立ち寄っても建物を見るだけ.牛の散歩を見ることはできないか観光協会の方に尋ねたが,子供たちの登下校を避けた,朝と夕の二回.出会うことは難しいだろうとのお話.

「牛突き」の像

 牛の散歩

牛の散歩(写真提供:石井昇)

 隠岐ローソク島

 「とって隠岐のようかん」として土産物にもなっている
が,展望台に行って地上から見下ろすと巨大な岩のようである.

羊羹の包み紙
「ローソク島」と書かれている

 岩か? 島か?

こんな時こそ,AIの出番だ.
以下,AIは答え(一部改変).
- 「自然の成り立ち」の視点から:岩は地殻活動によって形成される一方、島は海洋地殻の隆起や火山活動などによって形成される。岩と島の違いは、その成り立ちにあります。
- 「生態系の違い」の視点から:岩は一般的に生態系を形成しませんが、島は一定の面積を持ち、土壌や植物が存在することで生物の生息地や交流の場となります。岩と島の違いは、生態系の存在の有無によるものです。
- 「人間の利用の違い」の視点から:岩は一般的に利用価値が低いですが、島は観光地や漁業の拠点などとして人間に利用されます。岩と島の違いは、人間の利用の違いによるものです。
- 「景観の魅力の違い」の視点から:岩はその形状や地層などが美しい景観を作り出すことがありますが、島は周囲を海に囲まれた風光明媚な景色を提供します。岩と島の違いは、景観の魅力の違いにあります。
- 「自然災害への影響の違い」の視点から:岩は地形や土壌の安定性によって自然災害の影響を受けにくいですが、島は津波や崩壊などの自然災害による影響を受けやすい傾向があります。岩と島の違いは、自然災害への影響の違いによるものです。
 うむ,「岩」のほうが近いような気もするが…….

AIの回答
ローソクに火が灯る景色は,計算された時間に観光船で眺める必要がある

 水若須神社

時間も限られているので外から撮影

奉納相撲のため立派な土俵だ

旅の3日目 菅谷たたら山内

2024/10/30(水) ホテル→雲南市たたら山内10:00頃→包丁づくり体験開始14:00~16:00→ホテル着20:00

 鉄師・田部家の中心的な施設.江戸時代(1751年)から大正12(1932)年まで操業されていたという.高殿 (たかどの:たたら製造の中心 )は,日本で唯一現存している (国の重要有形民俗文化財).

「菅谷たたら山内」の案内
山内:作業場,住居をふくめた集落
高殿
高殿内部
操業は「村下(技師長)」と「炭坂(副技師長)」それぞれが責任を持って行い,リスクを分散する
ここに木炭と砂鉄を入れて玉鋼を造る
「天秤ふいご」を踏む「番子」がそれぞれに配置され,時間で交代する
これが「替わり番子」の語源だ
湿気を取り除くため地下構造に工夫が凝らされている
近くを小川が流れる
砂鉄の採取は山を崩し,水路に流し,比重で選別する
ここを鉄穴 (かんな) 場という
砂鉄と土砂,質の評価はキセルを用いて行う
炉から出された鉄の塊は池で冷やされた後,
水車を動力とする巨大な鏨で砕かれ,
炭素の含有量によって選別される
「玉鋼」
施設長がグラインダーで磨いたものを見せてくれた
山内 (集落)を後に
割り子蕎麦を喰らい

 包丁づくり体験

師匠がやって見せ
助けを受けながら叩き
師匠が削り
反りを直し
土を塗り,焼きを入れる
焼き鏝で穴の大きさを調整し,柄を刺しこむ
貴重な天然砥石で砥ぎ
試し切り
最後は師匠が刻印を入れて完成
箱に入れて持ち帰る

旅の4日目 日本刀鍛冶見学

2024/10/31(木) ホテル→奥出雲たたらと刀剣館10:00頃→雲州そろばん伝統館→JR出雲横田駅発13:10→三井野駅14:00→三井野バス停14:02→出雲横田駅14:28→ホテル着20:00

 日本棚田百選に認定されている「大原新田」へ

早朝,暗闇の中出かけたので,案内板を通り越してしまう
「大原新田」展望台より
「大原新田」は後に出てくる
絲原家の採砂跡地を整備した場所
宿に戻ると雲海が……

 奥出雲たたらと刀剣館にて

 この施設は,昨年,教育委員会の方が閉館時間を延長してまで,
開設してくれた施設で,懐かしくもある.

玉鋼
刀匠はコーヒー好きだった
遠赤外線で珈琲を手焙煎しているという
鍛冶仕事は常に火が傍らにあるので,
仲間は珈琲,魚,焼き鳥などを焼いているらしい
玉鋼を薄く延ばしてゆく
焼き入れ
鋼は粘りがなく折れやすい
刀の持ち方の説明
この後,実際に日本刀を持たせてもらう

 雲州そろばん伝統産業会館

出雲そろばん伝統産業会館は
出雲横田駅のすぐ脇にあった
長いそろばんそろばんの軸はどれも奇数らしい
TVでみた珠刺し
私の仕事は手前
奥は案内をしてくれた方

 Café シナトラで昼食

刀匠の話でハリウッドでフランク・シナトラにコーヒーを振舞っていた日本人男性が
開いたカフェとのことだったが,現在の店員の方に確かめるとバーテンダーだったらしい

 JR木次(きすき)線スイッチバック体験

出雲横田駅駅舎
木次路線
2両編成で到着した列車は切り離され,ここから1両で運行される
スイッチバックの案内板

 下車駅からバスで,車を駐車している駅へ戻る.
 乗り換え時間はわずか2分.奥出雲観光協会の担当者,乗車駅駅長さんともバス会社に電話しておくからと,親切な方が多い.

  木次線は陰陽連絡線として活躍し,木炭,木材を始めとした地域の産物は都市部へ運ばれ,地域の人々が各地に出かける足となった.
 この路線の始まりは,絲原武太郎(第12代)が地域の発展を願い計画し,息子の武太郎(第13代)らが中心となり「簸上鉄道」として実現,発展していった.
 他の計画鉄道案を含め,「鉄師御三家」と呼ばれる田部家,櫻井家,絲原家が運動の中心にいたという.

 福頼の棚田

「鉄穴流し跡地にひろがる棚田と鉄穴残丘」
「奥出雲たたら製鉄及び棚田の文化的景観」
鎮守の社や墓地などは手を付けず残している

 追谷棚田:卜蔵(ぼくら)家の本拠地

展望台から棚田を望む

 絲原記念館

絲原記念館
絲原家大殿
「珈琲舎15代」
16代の奥様がカフェを営む
(許可を得て撮影)
店内
建物に入ると巨大な梁が
16代が測ったところ70cmの厚み,長さは10mほど

 ここで鉄とコーヒー(カフェ)がつながった.

製鉄業で有名な絲原家.奥にある広い庭園を見学することもできる.

 ワタシが砂鉄に関心を持ったのは大工道具の本を読んでいたとき,鋼の分類が「白紙」「青紙」といった名称でよばれていることに興味をもち,砂鉄から造られる鋼が良質と知ってからだった.

 棚田は砂鉄採取で山を切り崩した跡地である.
 製鉄に必要な砂鉄と木炭を運搬した役牛の排せつ物を肥料にして,豊かな土壌が生まれる.
 蕎麦が植えられ,コメは今では東のコシヒカリ,西の「仁多米」としてその名を誇っている.「しまね和牛」もブランド化されている.

 これで鉄と蕎麦がつながった

旅の5日目 「海のたたら」と「ヨシタケコーヒー」

2024/11/1(金)  ホテル→超堂たたら跡→Gallary & Café FUN →JR浜田駅16:27→出雲市駅17:33→同駅18:57→東京駅07:08→自宅

 越堂たたら跡

 田儀櫻井家たたら製鉄遺跡

2024年4月
ガイダンス施設が開館
発掘調査の結果
製鉄炉の地下構造(床釣り)が明らかに
地下の湿気を逃がすため
当時の最新技術である土管が使われた
国道9号沿いに再現された高殿
田儀川がそばを流れ,港も近い

 「ヨシタケコーヒー」を尋ねて

 「ネル・ドリップを極めた男」三浦義武は島根県浜田市の出身である.「カフェ・ド・ランブル」の故関口一郎氏は学生のとき,銀座白木屋デパートで開催されていた「三浦義武のコーヒーを楽しむ會」で,初めてネルドリップを見たと語っている.

 三浦は珈琲の研究に熱心で,1965年,世界初の缶入り「ミラ・コーヒー」を発売した.それ以前にはコーヒー牛乳,コーヒーソーダなども考案している.

 各界の著名人が集う「コーヒーを楽しむ會」で提供される濃厚なコーヒーは,アルコール好きが食事はせず飲むことだけで満足するようなものだったらしい.

 「ヨシタケコーヒー」の淹れ方を見てみたい,飲んでみたい.
 浜田市では「コーヒーの薫るまち」を目指し,正しく提供できるよう認証制度を設け,合格者が「ヨシタケコーヒー」を提供しているという.

Gallery & Café FUN は折居駅に隣接
現在の駐車スペースには駅職員の宿舎があったとのこと
ここで,「ヨシタケコーヒー」を味わうことができる
築150年の建物
元は料理店
海を眺めながら

 三浦義武の生家跡地

カフェのオーナー田中氏は
多数の客でにぎわっているにもかかわらず
義武の生家に案内してくれた
跡地に向かう階段
四男の肆玖樓は東京農業大学の学長をつとめた
三浦家はたたら製鉄で財を成し,
生家の正面に位置する砂鉄採取の跡は室谷棚田となっている
その後ろは大麻山,山側からは棚田を広く見渡すことができるとのことだが,
今は工事で通行不可
義武の開発した「ミラコーヒー」缶を模した羊羹
今気づいたが,「羹」と「缶」

まとめ

 旅のテーマ,鉄と蕎麦と珈琲はつながった.

 昨今の目標を定めて持続可能性をうたう動きとは異なり,永い年月を掛けて,代々生活を営んできた結果が棚田として残され,結果として自然が守られ地域の産業,特産品を生み出している.

 歴史を感じた「神話」の国の人びとは,出会った人すべてが親切で「神話」は「親話」だ.

 今回の旅計画では,出発前から奥出雲市観光課の職員の方にお世話になった.出雲横田駅の駅長さん,観光課の担当の方は,タイトなバスへのとの替えのためにバス会社に電話まで掛けいてただいた.

 カフェ&ギャラリー FUNのオーナー田中昭則氏にはカフェが込み合うなか三浦義武の生家まで車を出していただいた.体験,見学コースの職員の方々もカフェに関する情報など親切に教えて頂いた.

 土産品

上段右:福祉作業所で作られた牛のコースターと家にあった牛の鼻輪
中段:雲州そろばん伝統産業会館で頂いた「珠」抜きの残り,下は以前東急ハンズで購入したもの
下段:作製した包丁とその原材料

 参考資料

  • 神 英雄(2017):三浦義武 缶コーヒー誕生物語.松籟社.

  • 神 英雄(2013):三浦義武―コーヒーに人生を捧げた石見人.コーヒー文化研究 19.コーヒー文化学会.

  • 森光宗男(2002):ネル・ドリップの魁 三浦義武を追って.コーヒー文化研究 9.コーヒー文化学会.

  • 島田裕己(2019):神社で柏手を打つな! 日本の「しきたり」のウソ・ホント.中公新書ラクレ, 中央公論新社.

  • 稲田 信・沼本 龍(2017):簸上鉄道の開通と木次線.八日市地域づくり会.

  • 奥出雲町文化協会編(2018):大地に刻まれた たたらの記憶.奥出雲町文化協会.雲南市産業観光課部観光振興課.

  • うんなん観光ネットワーク協議会(2024):うんなん 神話と鉄の源流.

  • 各観光パンフレット





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啓示 園田
こんなワシに……。