Ω-V / AINSOPH
AINSOPHは、オランダのアンダーグラウンドシーンから現れたエクストリームなメタルの要素を多分に内包したバンドだ。このデビューアルバムは、今年の2月2日にリリースされている。日本のプログレバンドアイン・ソフとは無関係である。
アムステルダムを拠点とするワンマンレーベル『WOLVES OF HADES』からの発売であるため、当然のように日本での発売などなく、その存在も多くが謎に包まれている。メンバーは男性2人とヴォーカル担当の女性1人の3人編成で、彼らの名前はI.V.(vo)、T.D.(g)、M.T.(dr)とイニシャルのみで詳細はわからない。それでいて、Facebookなどではバンドメンバーの写真なども積極的に公開してセルフプロモーション展開している。
また、海外のマニアックなサイトではレビューが散見され、ブラックメタル、ポストパンク、プログレッシヴ、ジャズの要素が絡み合ったサウンドなどと評されている。
ぐしゃっと押しつぶしたような輪郭のはっきりしないディストーションサウンドと、その中を浮遊するように奏でられるリフは、ときにシューゲイザーのような音作りでもあり、ドゥームメタルと表現しても差し支えないサウンドのようにも聞こえる。それでいて、曲によってはトレモロピッキングを駆使し、ツーバスの突進するリズムとあわせてブラックメタルの様相を呈している。
アルバム全編を通して、楽曲の雰囲気は物悲しく陰鬱な闇の世界を描き出している。楽曲の大部分がインストゥルメンタルで構成されているのだが、ときおりポイントを押さえるように現れるI.V.のヴォーカルはメロディを決して失わない。全体としては柔らかい歌声を保ちながら、ときに扇情的にむせび泣くような盛り上がりを見せる。それに呼応するようにドラマティックな展開で切り込んでくるギターは、自在で奔放なスタイルを感じさせる。多様なジャンルを取り込みながら、表現したい感情に合わせて様々に姿を変えるイリュージョンのようなサウンドがこのバンドの魅力だ。
個人的にはプログレッシブなイメージの複雑な展開と、メランコリックなメロディセンス。そして悲しみに満ちたヴォーカルの美しさが楽しめるアルバムのように感じた。