インカ帝国でその昔に踊られていたダンスと、コールセンターのトークの違い
「この業務では『すみません』は使わないで、『申し訳ございません』と言ってください」
「通常文では、語尾は上げません。語尾は下げて、そっと置くように短く切ってください」
このようなことを言うと、「お客さんから何も言われてないんだからいいじゃないですか」と言う人や、口には出さなくともそう思っているらしい人が時にいます。
もしこれが、「インカ帝国でその昔に踊られていたダンス」というような、生まれてから一度もやったことがないようなことを習う場であれば、誰もが先生のやることを真似し、「手のひらは上に向けてください」と先生に言われたら、きっと全員が手のひらを上向きにするでしょう。
なぜトークだと業務指導を受け入れづらいのか
これは、“話す”という行為を、ほぼその方の人生にわたって行なってきているので、「私は普段から話しているし、それで誰かに文句を言われたことはない。私は話すことができる」と考えてしまうことが原因でしょう。
つまり、日本語を話すことなど“知っている”し“できる”、それは“私の話し方”であり”個人の領域”である、と思っていると、単なる業務指導が個人攻撃に感じられます。
業務としての会話と日常会話
しかし、電話を使った仕事としてのトークと、日常会話は違います。
どれくらい違うかというのを、業務上のトークで日常会話をして試してみましょう。(文字情報でしかお伝えできないので、想像力をフルに働かせながらお読みください)
・お母さんから明日空いているか聞かれて…
「明日でございますね。お母様、スケジュールを確認させていただきたいので少しお待ちいただいてもよろしいですか。」
・ランチが美味しかった、という話を、会社の休憩室で…
「本日、会社から300メートルほどのところにある、レストランに行ってまいりましたが、味が大変よろしくて、それはそれはリーズナブルでございました。」
「さようでございますか。あなたがお幸せそうなので、わたくしも嬉しゅう存じます。実はわたくしも昨日そのレストランに行ってみたのですが、あいにくと定休日でございました。」
どうでしょう。日常生活でこんな会話をしている人を見たことありますか?昔の華族ならそのような会話が実際に行われていたかもしれませんが、今は太宰治や三島由紀夫など昔の本を読んで想像するしかありません。
ともあれ、日常会話としては、かなり違和感があることをご理解いただけたと思います。
ひるがえれば、仕事で電話に出ているにも関わらず、普段どおりの話し方をするということのギャップは、上記の例と同じだけあるのです。
そうすると、(これがこの仕事の面白いところでもありますが)、普段の話し方が雑な人のほうが逆に電話対応はうまい、ということが起きます。
「リィーダァー、あのさぁ、この漢字わっかんない。ねぇ、読めないんだけどぉ」という話し方の人が、電話に出ると上品に明るく対応していたりするのです。
これは、日常会話と仕事としてのトークが違うということをかえって理解しやすいからでしょう。
違う、ということが分からない人にやってもらうこと
それを理解しづらい人に、やってもらうことがあります。
電話を取った時に、企業ごとに最初のセリフが決まっているかと思います。それを、まずは普通に言ってもらうのです。例えば「お電話ありがとうございます。◯◯株式会社でございます。」というようなものですね。
それを録音して本人に聞かせます。例えば「お電話、ありがとうございまぁす↑◯◯株式会社でございまぁす↑」とサザエさんのように語尾が伸びて上がっていても、本人は不自然だとは感じませんし、言い方を変える必要も感じません。普段からそのように言っていて、自分の耳がもうそれに慣れているからです。
そこで、次に◯◯株式会社を別の会社名に変えてもらいます。例えば一流ホテルの名前でもう一度言ってもらいます。
そうすると、言う前から本人が笑ってしまいます。「そりゃ、変ですよ」と。自社名だと自分が電話を受けるイメージしか持てず、入電者の気持ちになれませんが、他社名だと自分がかけるイメージを持てます。自分の言い方を客観的に聞けるのです。
その時に、“サザエさんのように語尾の上がった人が出てきたら変だ”と気づくのです。
※もし、あなたの職場がまさしくその一流ホテルなら、ブライダル関連など、ブランドイメージが似ている別の会社を選んで行ってください。
この作業ひとつで、その方がすっかり変わってしまうということはありませんが、そのようなほんの少しの気付きを積み重ねていくことが大切です。
さて、今回は、年内最後のコールセンターブログです。
(敬語ブログは今度の金曜日が最後の更新です。)
私がnoteに書き始めたのは今年7月でした。
これまでお付き合いくださった皆さま、誠にありがとうございました。
また来年も、お役に立つ情報をお届けしたいと思いますので、こんな記事を書いてほしい、コールセンターのこんなことで困っているなどありましたら、コメントをお寄せください。
来年は、安心できる年になるといいですね。
では、また。
世界や自分自身をどのような言葉で認識するかで生き方が変わるなら、敬意を込めた敬語をお互いに使えば働きやすい職場ぐらい簡単にできるんじゃないか。そんな夢を追いかけています。