ご集金に参りました~#気になる敬語23
取引先の信用金庫の職員が集金に来たときに「積み立てのご集金に参りました」と言っていたが、この「ご集金」はいいのだろうか、と知人から質問があった。そこで今回は、この「ご集金」について考えてみよう。
気持ちは分かる
たぶん、というか確実に、集金に来た職員は金を払ってくれる知人を立てるために「ご」を付けている。その気持ち自体は十分に分かる。
これは、「費用についてご質問があるのですが」とか、「今回のご依頼は」などと同じ使い方だ。(「受け手尊敬」という)
しかし今回違和感がある理由は、集金という単語の中に「を」が含まれてしまっていることなのだろう。(集金=「金を集める」)
それがなぜ問題かというと、受け手が文中に出てこないのだ。
受け手は特定できるか
先の例との比較で説明しよう。
「納期について(あなたに)ご質問がある」
「今回の(あなたへの)ご依頼」
例文では便宜上(あなた)としたが、ここは(彼)でも(〇〇さん)でも置き換え可能である。この例文で説明したいことは、受け手がこの一文の中で特定できるということだ。
次の例を見てみよう。
「積み立てのお金を集め(=集金)に参りました」
ここに(あなたから)とあってもいいかもしれないが、あえて限定する必要性がない。必要なのはお金であって、人ではない。必要性がないものをあえて書くと、そこには別の意味が生まれる。あえて書いてみよう。
「あなたからお金を集め(=ご集金)に参りました」
どうだろう。なんか怖くないか。
今日は絶対に逃がさないぞというような気迫が伝わってくるようだ。
職員はお金を持って帰ればよいのであって、知人の代わりに部下が出てきて払おうと、奥さんが出てきて払おうと、その場にいた第三者が太っ腹なところを見せて払おうと一向に構わないはずだ。なんなら玄関に置いてあったって構わない。
そして、文法上受け手が特定できないのに受け手を立てる敬語は使えない。
言い換え
いやしかし、「積み立て」は「お」を付けられない言葉だから、せめて「集金」に「ご」を付けたいという気持ちも十分に分かる。それでなくとも敬語が過剰になっている今の流れの中、「お」を全く使わずに顧客と話をするのはかえって勇気がいることだろう。
そこで、こんな言い換えはいかがだろうか。
積立金をお預かりに上がりました。
これなら敬語として問題はない。
ただ、ここまで書いて、気になることがある。
もしかすると知人の意図としては、毎回来るのにそんな敬語を使われちゃぁ堅苦しいじゃないか、と言いたかったのかもしれない。
そうだとすると、私が書いた言い換えは、もっと堅苦しいかもしれないなぁ……。
正解は、過剰敬語を省き勇気を出して
「積み立ての集金に参りました!」
と元気よく言うことかも。
いやぁ、敬語は難しい。
それでは、また。
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