温泉の注意書きを見ながら考えたこと
日々戦争のニュースが流れています。
今から11年前の2011年3月11日、この日は東日本大震災がありました。
ウクライナの人々にとっては恐怖におびえ逃げ惑う日々が続いていますが、世界中の多くの人も不安と脅威を感じていることでしょう。
旅行して宿に着いて温泉につかって「あぁ…」と思わず声を漏らす、あの平和な頃を懐かしく思い出します。
それでなくても、緊急事態措置だのまん延防止法だのと言われ続けて、何年も旅行してないなという人は私だけではないでしょう。
一体いつになったら普通に旅行に行けるのか、目途も見えません。
旅行する側も困りますが、ホテルや旅館などの受け入れ側は、振り回されるばかりで本当に大変です。以前私の講座を受講してくださったホテル勤務の方は「私たちのことなんて誰も考えてくれないんじゃないかと思ってしまうときがある」と落ち込んでいました。
楽しく旅行できる日はいつ来るのだろう……。
そんなことを思いながら今回は、以前行った温泉の浴室で見掛けた注意書きについて取り上げます。
ひとつの風呂にだけ入るのは悪い。
浴室には、種類の異なる複数の湯船があり、その壁に書かれた古めかしい注意書きの文章が気になりました。
その注意書きの一文が
というものです。
客としてこの文章を見たときに、“悪い”という言葉に軽くショックを受けました。
もし私が書くなら、
“良くありません”とするか、いやいや、”いろんなお風呂にお入りください”と言ったほうが肯定的で印象が良いかもしれない、などと考えることでしょう。
私に限らず最近のサービス業なら、そんな言い方を選ぶと思います。
それに対して、これはなんと直截な言い方でしょう。
しかし、直截な言い方、ということは裏を返せば分かりやすい明瞭な言い方、ということでもあります。
このようなはっきりとした言い方を避け、曖昧に曖昧に話そうとしていないだろうか、それは本当に相手のためなんだろうか。
そんなことを考えさせられました。
正しい日本語を、ただ正しく使う
そしてもうひとつ感じたことがあります。
それは“これは正しい日本語だ”ということです。
というのは、つい丁寧に言おうと思うと、間違っていると分かっていても
「ひとつのお風呂にだけ入るのは悪い“です”。」と言ってしまうのです。
“悪い”“良い”というのは形容詞ですから、“悪いです”という言い方は、本来あり得ません。
この注意書きのように“悪い。”と言うのが正しい用法です。
もしくは“悪い入り方です。”などと、名詞を形容して用います。
現在は、「悪いです」も正しい用法として認められていますが、どこか違和感の残る言い方であることに変わりはありません。
昔の人は、正しい言葉をただ正しく使っていたのだなと思うと恥ずかしい気持ちになりました。
言葉遣いは文法という一つの軸に照らして正誤が判断できますが、行動には多くの思惑や利害が絡み、思ってもいない方向へ進むことがあります。そんなとき、引き返すのは進むより勇気が要ります。
かつて戦争へと突っ走ってしまった日本は、今なにをすべきなのでしょうか。
それでは、また。
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