攻め手を欠いたポルトガルを下し劇的決勝T進出を決めた韓国。見え隠れした両者の課題と戦略的駆け引き
こんにちは。
"W杯アーカイブ化計画"にお誘いいただき、抽選の結果グループH第3節の韓国対ポルトガル担当に割り当てられました。noteで執筆するマッチレビューは久々で、かつレアル・マドリー以外のチーム同士の試合をレビューする機会もなかなかないので新鮮な気分です。まずは状況の整理とスタメンの確認から。
順位表とスタメン
第2節終了時点での順位表はこちら。
韓国はポルトガルに勝つことが必要条件となっている。その上同時キックオフのもう1試合でウルグアイがガーナを相手に勝利を収め、さらにそのウルグアイを得失点差で上回ることができれば、決勝トーナメント進出が決まるという苦しい状況。
そして両チームのスタメン。フェルナンド・サントス監督率いるポルトガルは首位通過がほとんど確実であったため、多くのメンバーを入れ替えて試合に臨んだ。
ディフェンスは左CBルベン・ディアスのところにベンフィカ所属の期待の若手アントニオ・シウバ、怪物ヌーノ・メンデスが負傷してラファエル・ゲレイロを温存する左SBにジョアン・カンセロを回し、それにより空いた右SBにはマンチェスター・ユナイテッドで評価を上げているディオゴ・ダロトが起用された。
両インサイドハーフ(IH)にはここまで控えだったウルヴァーハンプトンのマテウス・ヌネスとパリ・サンジェルマンのヴィティーニャの組み合わせ、そして両翼はジョアン・マリオとブラガ所属のリカルド・ホルタ。ゴールが欲しいクリスティアーノ・ロナウドはこの日もスタメンに名を連ねた。
一方前節の退場処分によりスタンドからの指揮となったパウロ・ベント監督率いる韓国は、右CBにナポリで活躍中のキム・ミンジェに代わって左利きのクォン・ギョンウォンを起用。CBは新旧ガンバ大阪コンビとなった。攻撃的な選手には前節ガーナ戦でそれぞれ2ゴール、1アシストと結果を残したチョ・ギュソン、イ・ガンインが抜擢。後者はバレンシアの下部組織出身で現在マジョルカでプレーしており、そのプレースタイルや左利きという共通点から日本代表の久保建英とよく比較されている選手だ。ソン・フンミンのロナウドとのエース対決にも注目が集まる。
あっさりと動いたスコア
ポルトガルはボール保持を得意とするチームで、その中心選手の多くは温存されたものの、基本的にはポルトガルのボール保持で試合が進んだ。勝たなければいけない韓国だが序盤はまずは守備から、[4-1-4-1]のゾーンディフェンスによるミドルプレスでより深い位置への前進を阻むゲームプランで臨んだ。
しかし、試合は立ち上がりに動きを見せる。
前半5分、最終ラインでフリーでボールを持ち運ぶペペが同サイド(右サイド)の背後へとロングボールを出すと、幅と深みを取っていたダロトがスピードに乗りながらスペースでボールを受ける。これに対し左SBのキム・ジンスが軽い対応でかわされエリア内への侵入を許し、マイナスから走り込んだホルタがダイレクトでゴールネットを揺らした。
サイドでの守備対応のミスが生んだ極めてシンプルなゴールに見えるが、この失点には韓国のミドルプレスに潜む問題が顕在化したシーンと言って良いだろう。時系順にこの問題を整理すると
最終ラインが高いにも関わらずボールホルダーへのプレッシャーがかかっていない
ボールホルダーがフリーの状態なのにも関わらずロングボールの予備動作に対するダウン(ライン下げ)のタイミングが遅い
キム・ジンスがボールに対してチャレンジしてしまい、一発でかわされる
ボランチのプレスバックが間に合っていない
となる。1が起こらなければ2は起こらず(以下略)、また4に関しては3が起こってしまった時点で既に手遅れだったと言えるかもしれない。
韓国のハイプレスへの移行とロングボールによる前進
痛すぎる先制点を浴びた韓国だったがやることを大きくは変えない。17分にはショートコーナーからフリーで上げたクロスをチョ・ギュソンが頭で逸らし、キム・ジンスが汚名返上となるゴールを挙げたかと思われたが、オフサイドで取り消しとなった。背後のスペースを気にしながらもミドルサード付近で待ち構え、ポルトガルの中盤が後ろ向きでボールを引き取りに降りたタイミングをトリガーに時折ハイプレスを繰り出し、後方でボールを回収し始める。ポルトガルは中盤がポジションチェンジを多用するが、ルベン・ネベスの必要かどうか怪しいサリーダ・ラボルピアーナに合わせて全体が後ろに重たい配置をとり、相手を引き連れてきてしまうシーンが見られた。
ハイプレスはIHを1列前に押し出しCBに噛み合わせる形がメインだが、高い位置に残る左SHのソン・フンミンがチョ・ギュソンと並列になるシーンも。徐々にスペースを制限しながらGKまでプレッシャーをかけてロングボールを蹴らせる。
韓国のビルドアップはアンカーのチョン・ウヨンが底の位置に留まり続けるというよりは、捕まえにくるヌネスとのずれを生むために移動し、右IHファン・インボムがサポートで降りてきて2-2の形となる。ロナウドに対して両CBは位置的優位を得られるものの、ボールを持ち運びリスクを負ってライン間に縦パスを差し込むといった意識は見られず、シンプルに背後に走るソン・フンミンや188cmの上背を武器にターゲットとして活きるチョ・ギュソンに向かってロングボールを蹴り込み、セカンドボールを回収する方法で前進を図った。
高い位置をキープするイ・ガンインを含む中盤3枚はゴール方向に向かっていくインテンシティの高さがW杯の舞台でも水準以上で、ウルグアイやこの日のポルトガルを相手にセカンドボール奪い合いのデュエルで互角以上に戦うことができていた。
崩しの局面は韓国のボトルネックとなっている。ソン・フンミンは内と外の両方を自由に使い、幅と深みを取っている場合はキム・ジンスの気を利かせたインナーラップでアイソレーションを活かすといった工夫は見られるが、そのエースと成長株であるイ・ガンインのアイデア、ドリブルによる打開に大きく依存している。彼らが封じられれば崩していない状況でもゴール前にクロスを放り込む。ぺぺほどの百戦錬磨の実力者にとってあまり怖い攻撃ではないだろう。
しかしそのイ・ガンインが倒されて得たFKの流れ、CKからロナウドの肩に当たったボールがキム・ヨングォンの目の前に転がったのは幸運と言うべきか。韓国が追いつき、試合は振り出しに戻った。
押し込むも攻め手を欠いたポルトガルの崩し
韓国が追いついた後に15〜20mほどラインを後退させたこともあり、ポルトガルの崩し対韓国のブロック守備という局面が前半終了まで続くこととなった。結果として、ポルトガルはこの時間帯に勝ち越し弾を奪うことができなかった点が痛かったと言えるだろう。
ポルトガルの崩しの問題点は大きく分けて3つあると考える。
右サイドの配置と役割が時折曖昧になる
背後へのランニングの絶対量が少ない
ライン間で仕事のできる選手の不在
1は立ち位置の問題である。左サイドはマリオがライン間のハーフスペース、カンセロが大外レーンで幅と深み、ヴィティーニャが後方でのサポートという配置の循環と役割が明確であったのに対し、右サイドは曖昧でホルタとヌネスの立ち位置が被って幅を確保する選手がいなくなるなどといったシーンが散見された。右→左のペペ→カンセロというサイドチェンジが頻繁に行われていた一方で、左→右への効果的なサイドチェンジの回数は限られた。
2は文字通りで、動きの問題である。仮に配置が整いサイドチェンジを繰り返したとて、相手が粘り強く横スライドを続け、サイドでの対人守備でエラーを起こさない限りは攻略できない。どこかでブロックの内部、それから最終ラインの背後へと侵入していく必要があるのだ。
ポルトガルは背後のスペースとライン間を圧縮しコンパクトな[4-1-4-1]のブロックを組む韓国の守備に対し、先制ゴールのようなボールホルダーがフリーになったタイミングでの背後へのランニングが鳴りを潜めてしまった。こうした動きは価値の高いスペースに選択肢を作ることができるだけでなく、ボールと相手選手を同一視野に入れられないため守備者に認知負荷がかかり、結果的に陣形の縦方向への歪みを生じさせてブロックの内部へと侵入していくためのスペースを作ることができる。しかし、ポルトガルにはその絶対量が少ない。
3は選手のクオリティによる問題である。2の問題があることに加えこの試合で顕著だったのは、ライン間の狭いスペースでも相手のプレッシャーを引き受け、プレーのテンポと方向を変えることによってでも相手守備陣の認知負荷を高めることのできる選手がいなかったことである。よって中央レーンを使った崩しは皆無に近く、唯一あった38分のシーンではテンポが上がり過ぎてしまいパスがずれて決定機には至らなかった。中央をより使うことは相手の守備組織を収縮させサイドにより大きなスペースを作り出すことにも繋がる。そうした取り組みが乏しくても、サイドチェンジを受け独力の仕掛けによって脅威となっていたカンセロはさすがであった。
ここまで起用されているベストメンバーであれば、このチームで上述したようなライン間でのクオリティを有しているのはジョアン・フェリックスだと考えている。ベルナルド・シウバもその一人だが、どちらかと言えば中盤ラインの手前でアジリティとターン技術を活かしテンポと方向をコントロールする役割を担って価値を発揮している。
ガーナ戦でも同様の問題を露呈したポルトガルはウルグアイ戦でレイオフを駆使した崩しの再現性を高めるなど改善を見せていた。テンポをコントロールしてじわじわと押し込むというよりもむしろテンポが上がり技術負荷の高い中でタイミングを合わせて背後を狙おうという解決策である。落としを受けるサポートのタイミングが抜群だったウィリアム・カルバーリョ、彼にしか出せないタイミングでの絶妙クロスで脅威的な技術を見せつけたブルーノ・フェルナンデスの2人が活躍したのは偶然ではなさそうだ。韓国戦では彼ら全員が不在であり、その影響がピッチ上に色濃く反映されていたと言えるだろう。
ただ、ベルナルドの役割をこなすことのできる選手はピッチ上に立っていた。名はヴィティーニャ、パリ・サンジェルマンでマルコ・ヴェラッティの隣のポジションを勝ち取った選手である。よって必然とも言うべきか、彼がブロックの手前1stDFの圧を感じない位置でタクトを振るうことによりポルトガルはゴールに大きく迫ったが、韓国はここを凌ぎ切って前半終了のホイッスルを迎えている。
流れを引き寄せた選手交代
後半は前半のレビューで指摘した戦術的な部分よりもむしろ、より大枠の戦略的な部分、すなわちゲームプランの妙に焦点を当てるべきだろう。
韓国は前半30分頃からソン・フンミンと右SHのイ・ジェソンのポジションを入れ替えている。これはダロトと比較してはっきりと背後にスペースを空け高い位置をとるだけでなく対人守備に難があるカンセロに対し、韓国で最も質的に優位性のある選手をぶつけたいという狙いだと考えるのが自然である。
両者そのほかに変更せず仕切り直した後半はほどよくポルトガルがチャンスを迎えるも、ゴール期待値の高いシュートは打つことができず。試合は膠着したまま時間が過ぎていった。
65分にポルトガルはルベン・ネベス、ヌネス、ロナウドを下げてラファエル・レオン、ジョアン・パリーニャ、アンドレ・シウバを投入。これは決勝トーナメントを見据えての采配という意味合いが強いだろう。
一方の韓国は66分に左サイドに回っていたイ・ジェソンを下げウルヴァーハンプトン所属のファン・ヒチャンを投入する。勝たなければならない韓国の攻撃に転じる合図は、この選手交代だった。
韓国は散発的に披露していたハイプレスをここで改めて復活させる。直後の67分には高い位置で引っ掛けてショートカウンターを発動すると、ファン・インボムが左足で強烈なミドルシュートを放つ。70分にはファン・ヒチャンのドリブルによる突進のこぼれ球を回収したチョン・ウヨンが左のキム・ジンスに散らし、逆の大外へのクロスにソン・フンミンがダイレクトボレーで合わせるなどポルトガルのゴールを脅かすシーンを生み出していく。
その後はオープンな展開が続く中、81分にはイ・ガンインを下げ最後の切り札としてガンバ大阪でプレーしたファン・ウィジョをピッチに送り込む。中盤を1人削り、[4-4-2]に変更してさらに攻勢を強めた。
ドラマが待っていたのはアディショナルタイム90+1分だった。CKからのロングカウンターで、この日はトッテナムでのプレーに比べれば精細を欠いているように見えた、アジア最高のストライカーことソン・フンミンがタイミングを外して相手の股を抜く技ありスルーパス。これに反応したファン・ヒチャンが決勝トーナメント進出を大きく手繰り寄せる劇的な決勝ゴールを奪ったのだ。
そのまま試合は2-1で終了。2-0でガーナを破ったウルグアイと得失点差で並ぶも総得点で上回った韓国が、3大会ぶりの決勝トーナメント進出を果たした。一方のポルトガルもこの試合には負けたものの首位通過ということに。
互いに課題を抱えつつ、韓国は相手のターンオーバーというピッチ外の部分での運を味方につけ、さらに後半の的確な選手交代によりゲームプランを正しく遂行した。見応えのある好ゲームだったと言えるだろう。ベスト16では韓国はブラジルと、ポルトガルはスイスと対戦する。
試合結果
韓国2-1ポルトガル
キム・ヨングォン(27分)、ファン・ヒチャン(90+1分)
リカルド・ホルタ(5分)
最後までお読みいただきありがとうございました!