『カムイ外伝(2009)』を観ました。(途中からネタバレ)
「全然よくできてるんじゃないかな」が最初の感想でした。
というのも、あまりに今作についての不評が多くて見るのが怖かったのでした。
演者さんも違和感なく演じてたし、CGもそんな違和感なかったし、漁村のセットもしっかり作ってあったし、映像も鮮やかだったし、ワイヤーアクションも楽しめました。なんといっても『(いい意味で)見るものを絶望させる白土三平ワールド』を実写で体験できるんですから、これは見るしかないと思います。
原作の白土三平の漫画を、私はかなり小さい頃から読み込んでいて、少年忍者『サスケ』から入り、『忍者武芸長』も読んで、『カムイ外伝』や『ワタリ』を読み、最後の方に『カムイ伝』も読みました。
白土三平作品はいくつかアニメにはなっていても、実写はまともな作品はなかった(『ワタリ』は忍者赤影風だし)と記憶しています。
だから、「白土三平ワールドが実写化される」ことに楽しみにしていたのですが、公開してみるとあまりの不評で、「私の白土三平ワールドが壊されてしまうのではないか」と怖くなって見れなかったのです。
今でもネットで感想を読むと「CGがヒドい(もしかして公開時はヒドかったのかもしれないです)」とか「お話がダメだ」とか多いのです(監督が韓国人というだけでの攻撃とか)が、これってなにかネガティブキャンペーンでも行われたのかってくらい埋めつくされている印象です。
崔洋一監督もこの作品以降は映画を作っていないので、「今作で相当なダメージを負った」ような感じがなんとなくしたりしますが、事実はわからないです(私は崔洋一監督作品で『月はどっちに出ている(1993)』が大好きです)。
カムイ外伝ってのは、カムイという名前の抜忍(ぬけにん)のお話です。
わかりやすく言えば『ジョン・ウィック(2014)』のジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が抜忍ですね。
そんな追っ手の忍者と、毎回一話か二話でカムイが闘って相手を倒す。まるで一話完結のヒーローものみたいな話がカムイ外伝なのでありました(『カムイ伝』は全然違います)。
そんなカムイ外伝のお話の中でも、スガルという女性の抜忍が出てくるお話は特によくできていて、コミックだと二冊(持ってます)にわたってのお話になります。
【※ 以下、ネタバレ注意です。観てない人は、観てから読んで下さい。】
カムイも抜忍ですがスガルも抜忍であって、スガルは「カムイは組織から来た殺し屋ではないか」という疑念がずっとある。しかし、そんなスガルの娘(サヤカ)はカムイのことを好きになったりして、かなり複雑な人間模様が展開するのでした。
ここで白土三平ワールドについてですが、お話の中で『かなり救いのない皆殺し』が行われることがあります。たぶん『大きなものに、個人が潰される無念さ』を描きたい人なんだと思うのですが、そんなお話を読んでる私なんかは「結局最後には、個人なんてものは大きなものに勝てないんだなあ」と、逆のようなあきらめを感じてしまったりするのでした(これって矛盾している)。
今作でも忍者の大頭(おおがしら=かなり上の方の強い人)が出てきて、スガルもカムイもまとめて追い詰めます。この大頭だって失敗すれば処分されるんで必死です。こういう設定で『組織という奇妙な集合体VS自分らしく生きる個人』というテーマ的なものが浮き上がってくるのでした。
今回あらためて白土三平ワールドを体感してみて、いくつか思ったことがありました。
やはり後味が悪くないと白土三平ワールドとは感じられないのだろうか?
今作で白土三平ワールドにはじめて触れるような観客には、『絶望感というものが』が少し不快に感じられたのかもしれない。
だったらもう徹底的に笑ってしまうほどに悲惨に描くと、なんか吹っ切れて見やすくなったりするかもしれない。もしかしたら『ジョン・ウィック』的な容赦ない殺伐アクション寄りの作りは、白土三平ワールドと相性がいいのかもしれません。
なにしろ、せっかく実写白土三平ワールドに挑んだ今作が、よくなかったという扱いを受けたことが残念でならない。
「まあ、CGもなかなかがんばってるんじゃない」とか「はじめての実写白土三平ワールドとして、よくできてるなあ」くらいでよかったんじゃなかろうか。この作品に対する世の中の反応が『大衆に小さな作品が潰されるという白土三平ワールド』になってしまったような感じだ。
できたら「次回作はCGなんかがもっとよくなっていくんじゃないか」とかで、次に繋がっていって欲しかったし、この先の実写白土三平ワールドをもっと見てみたいのでした。
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