”デジタルノマドを日本に” - 日経新聞「私見卓見」に寄稿させていただきました
10月5日水曜の日経新聞朝刊「私見卓見」にて寄稿させていただいた記事が掲載されました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB224XU0S2A820C2000000/
パンデミックをきっかけに、世界では欧米を中心に、長期滞在型の旅を楽しみながら旅先からリモートワークで仕事をする「デジタルノマド」が急増してます。デジタルノマドの人口は世界で35百万人以上いるとされており、今後3−4年で倍増、2035年までには10億人になるとの予想もあります。
彼らは主にエアビーアンドビーなどの民泊施設にて長期滞在を続けてます。僕らがここシンガポールで運営しているグローバル市場向け旅行情報サイト「Trip101」(https://trip101.com/) でもここ2年強、パンデミックの間でもサイト経由での民泊予約の伸びが止まりませんでした。過去2年でGBV(予約総額)は3.7倍に伸び、滞在の長期化に伴い、1予約あたりの単価は60%近くも急上昇しました。
デジタルノマドは旅先で長期滞在するため、①1滞在あたりの消費額が増える、②都市部に限らず地方にも滞在する、③1か所の滞在期間が長いため、飛行機などの交通機関の使用頻度が減り、オーバーツーリズム問題が緩和される、といった様々なメリットをもたらしてくれます。
(ようやく)国境が開放され、あらためて観光立国を目指す日本にとってはこうした世界のデジタルノマド需要を取り込まない手はありません。
さらに言うと、このデジタルノマドの取り込みは観光という枠組みを超えて地域活性化などの波及効果を生む可能性があると思っています。
こうした海外からの旅行者が長期滞在してくれた結果、その土地を気に入ってくれれば、将来に拠点の1つとしてその土地を継続的に訪問したり、拠点を構えてもらえたり、する可能性が出てくるからです。人口減に苦しむ地域にとって、こうした交流・関係人口の増加は経済の活性化につながるはずで、これらの人たちが外国人であってもいいはずだということです。
世界ではすでにこうしたデジタルノマドの獲得競争が始まっています。ポルトガルやオーストラリア、ドイツ、タイなど40カ国以上の国が相次いでデジタルノマド専用の特別ビザの発給を始めていますが、日本にはまだこの制度はありません。外国人が日本にきて長期滞在する場合、短期滞在ビザ(観光ビザ)の取得によって滞在はできますが、滞在期間は最大90日と制約があり、あくまでも観光を目的とした滞在という位置づけになってしまいます。
ハーバードビジネススクールのチョードリー教授は、ハーバード・ビジネス・レビュー誌で「デジタルノマドを取り込むことは、国家における移民に関する課題解決の一助になったり、新たな知識の共有が図られたり、イノベーションや新規事業創出の芽が生まれる」との研究結果も発表してます。
移民という観点では、日本は世界に遅れてようやく高度外国人人材の活用が議論されはじめた段階ですが、デジタルノマドの受け入れは、移民政策に対して慎重論が多い日本社会にとって「お試し移民」制度のような位置付けで有益な役割を果たせるようにも思います。
このテーマは観光という枠組みを超えた、日本が抱える大きな課題解決の一助になると思います。デジタルノマドビザ制度の早期導入、民泊普及のさらなる促進など積極的に取り組むべきだと思います。