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18 ぐだぐだの駐車場
ユースホステルの玄関ホールから団体が退出していく。
「また明日」
フィリップが受付のモニカに声をかける。ちょうど電話対応中だったモニカが、受話器を押さえて英語で聞いた。
「フィリップ、あなたユースに嫁さんか妹連れこんでる?」
「オレは女は連れこまん。どっちにしてもどっちもおらん。ついでに言うと子供もおらん!」
胸を張って断言し、女の子たちが沸き立つ。モニカが手まねで私たちを追い払う。
火に油を注いで酸素を送る技ですか?
ユースの駐車場で運転担当陣がカーナビをセットする。車の周りでは女性たちがもめている。誰がどう乗るか、話がまったくまとまらない。
「あいつら置いて行こうぜ」
とアントニオ。
二コラが
「じゃ何か、俺らは誰があれと乗るか揉めんといかんのか」
投げやりな言い方だ。悪かったね。
ユキがキムの車の助手席後部ドアを開けた。私を奥に詰めさせて自分は真ん中に座ってきた。
「ひとつクリアにしておきたいんだ。ハルヒはあいつとつきあってるの?」
あいつって、フィリップ?
「ないわあ」私は奥のドアを開けて片足を外に踏みだした。
「俺は男が好きなんだ」英語で言い放ってフィリップがユキの隣に乗って来た。
フランス語は分からないと言うけれど、フレンチ・ユース生活でヒアリングが格別のご上達をとげている。
私は前のめりになって笑いながら言ってみる「モニカが好きなくせに」
「えっ」
いつもの分別臭そうなフィリップが消える。23才の男のコになる。
この人自制してそうで、不意打ちに無茶苦茶弱い。
笑い転げる私に「モニカってだれ?」とユキが聞く。
「ユースのう」
「言うなあああ」
フィリップの巨体で視界がふさがれる寸前、他の車が外から入って来た。勢いをそがれたのか、女性陣は三々五々に乗車しはじめた。
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