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【小説】みぃちゃんの友達

あのひはおそらがあかかった。
まだ、みぃちゃんはめがしょぼしょぼしてて、ままのおひざでねてるとおもってたの。

ままがいなくなってて、おへやのそとにでたら、ままがいた。
ままだっこっていったのに、ままはだっこしてくれなかったの。
ままのおなかがおっきくって、あるいたりたったりたいへんなんだって。
ままのおなかにはあかちゃんがいるの。

「まりちゃんが生まれたら、みぃちゃんがお姉さんになるんだよ」

ままは なんかいも そういってた。
ままうれしそう。
あかちゃんはやくうまれてこないかな。
おなかをさわったら、あかちゃんがね、うごいてはやくでたいよーっていってる。
みぃちゃんも、はやくあいたい。
みぃちゃん、おねえさんになるんだ。

ままとあかちゃんのおようふく や くつをかってきた。ぱぱもうれしそう。
ままとぱぱとてをつないで、おひるにはおみせでオムライスをたべた。

それから、ままがおうちにいなくなって、さみしかった。ぱぱとふたり。
ままがあかちゃんをつれて、かえってきた。
やわらかくて、いいにおい。
にこにこしたり、てをにぎったり、いちにちじゅうねてる。

まりちゃんがはやくおっきくなって、あそびたい。いっしょにおいかけっこやおにごっこしたい。

ままはまいにちうとうとしてた。
ねむねむなのかも。みぃちゃんがこえをかけてもおきない。
あそんでほしいのに。

ままがひさしぶりにだっこしてくれた。
すりすりして、いいこいいこしてくれた。
でも、あかちゃんがないて、すぐにいってしまう。
「まま、これきらい」
「ちゃんとたべて」
あかちゃんにみるくをあげて、みぃちゃんのことみてくれない。
まるいおかしはくちにいれたら、しゅわしゅわする。
ままがまりちゃんのおかしはたべたらだめだっておこるの。

ままのおひざにはまりちゃんがねてるの。
いつもおかあさんはまりちゃんの相手ばっかりする。だっこはしてくれない。

「まま、くつしたはけない」っていったのに。
じぶんでしてね。おねえさんなんだから。
って、みぃちゃんおねえさんじゃない。

「おえほんよんで」
「ごめんね、まりちゃんねかせてからね」
「いまがいい」
「わがままいわないで」

あかちゃんってうるさい。
ままがおこるの。
いじわるしちゃだめだって。
みぃちゃんいじわるなんてしてないもん。
でもちょっとだけ、おもちゃかくしたり、わざとおはなをつかんだりした。

おかあさんなんてきらい。
まりちゃんもきらい。
ぱぱだけでみんないなくなっちゃえ。
わーんわんって、へやのすみっこでないてた。

ねぇ、どうしてないてるのってかたをたたかれた。
かなしいことがあったの?ってきいてくる。こえがして、そこに"ともだち"がいた。

『おなまえは?』
「みぃちゃん」
『みぃちゃんなんでないてるの?』
「ままがみぃちゃんのことおこるの。
ままがね、だっこしてくれないの。あそんでくれない。まりちゃんばっかり」
『そっかぁ、かなしくなっちゃったのか』
「あなたはだぁれ」
『んー、ぼくはね。なまえはないよ。
みぃちゃんの"おともだち"』

そのこはふわふわできもちいい。
じゃあ、もふもふだからモフちゃんでいい?
『いいよ、いっしょにあそぼうよ。
何して遊ぶ?』

おままごとのキッチンセットをだしてきて、モフちゃんとたまごやきをつくったり、おちゃかいをしたの。
ぬいぐるみたちもおきゃくさんによんで。

ままがへやにやってきた。
「みぃちゃん誰と話してるの」
モフちゃんをかくしたら、ままがさがしてた。
おとなにはみえないんだよ。
そっか、おとなにはみえないんだ。
「おとなにはぼくのことないしょね。
あしたはあそこにいこう」
「うん、わかった」

モフちゃんといっしょにこうえんや、うらにわ、たくさんのきのところにいった。
かえってきたらままがないてた。
「勝手に外に出たら駄目でしょ。ママ、心配したんだから」
「も、あそんでたの」
いけない、モフちゃんのことはままにはないしょだった。

あしたは、はいしゃさんとおでかけだ。
いきたくない。
くるまのかぎをみつけた。
『かくしちゃえ』
モフちゃんといっしょに、ままのわからないところにかくして、しらないふりをした。
ままはこまってた。
「ねぇ、みぃちゃん。ままね、鍵をなくしちゃったみたいなの。知らない?」
「みぃちゃん、しらない」
モフちゃんとおみせやさんごっこをしてた。

かべからふたつのめがこっちをみてて、なんだろう。
めにみえるけど、ふたつのあなだった。
モフちゃんがぼうをもってきた。
つっこんでみなよ。
モフちゃんがこっちをじっとみていった。
ままがよぶこえがする。
「ちょっと手伝ってくれる」
「うん。いいよ」

まりちゃんがねつをだして、びょういんにいった。
モフちゃんはまりちゃんのクスリをすてちゃった。
「ままにおこられるよ」
「大丈夫だよ、少し困らせるくらい」
ままはおくすりをさがしてた。
まりちゃんがくるしそうだった。
おねつとせきがとまらないんだって。
ゴホ、ゴホっていってる。
「まりちゃんの大事なお薬なの。
一緒に探してくれる?」
ねむたいのに、モフちゃんがすてたっていおうかな。
「あのね、まま」

みぃちゃんのてをぎゅっとにぎってきて、モフちゃんはだめだっていってる。
なんで、いったらだめ?なのって
ちいさなこえできいても、モフちゃんはくびをよこにふった。

ままは、ごみばこからおくすりをみつけて、みぃちゃんに「みぃちゃんがすてたの?こんなことしたらだめでしょ。ごめんなさいは」
っていうの。

―ゴミ箱は蓋がついていて、意図的に開けないとゴミは入りません。
私が間違えて捨ててしまうってこともあるかと思いますが、吸入器と錠剤のどちらも捨てることはないと思います。

あの時、ちゃんと確かめずに怒ったのも悪かったと思います。
しかし、病院から帰ってすぐのことでしたから。
旦那は仕事でしたし、薬の存在を知っていて、動けるのは美香だけでした―

「ねぇねぇ、みぃちゃん」
モフちゃんがちいさなこえでよんでた。
「どうしたの」
「これ、おいしいよ」
モフちゃんがぼとるをもってた。
「あかちゃんのみるくにいれてあげたら」
「そんなに、おいしいの。みぃちゃんものみたい」
のもうとおもって、てをのばしたら、
モフちゃんはちょっとだけ、くびをかしげた。
「だめだよ。あかちゃんののみものだから」
そうなんだ、けちだなぁとよこでみてた。
むこうでままがよんでて、むこうにいったらモフちゃんがいなくなってた。

―漂白剤の蓋が開いていて、哺乳瓶の横に置いてありました。
まさか、美香が持ってくるとは思えません。
子どもが触らないように、高い棚に置いていたので―

「いえでしちゃおう」
「いえでってなぁに」
「ままからかくれて、たびにでるんだよ。
ちょっとだけ」
「とっても、すてき」
モフちゃんといっしょにおやつをリュックにつめて、たびにでた。

こうえんのブランコにのったり、おはなをみたり、きのうえでねたり。
モフちゃんが、こっちおいでしてる。
くるまがぶんぶんはしってて、たかくてこわい。
「ジャンプしてごらん」
「こわい。みぃちゃんできない」
「大丈夫」
がんばって、とんでむこうについた。
ころんでひざからちがでてた。
いたくてなきそうになった。
「みぃちゃん、かえりたい」
「まだ、たのしいことがあるから、いっしょにいこう」
フワフワのてがにぎりかえしてきて、あたたかい。

きのみをひろったり、やまにのぼった。
ひみつきちにふたりで、おほしさまをみた。
すごくきれいだった。
でも、まわりがまっくらだった。
もう、くらくなったからかえろうよ。

「ねぇ。みぃちゃん、おねがいがあるの」
モフちゃんがおほしさまをみていった。
みぃちゃん、まりちゃんほしい。っていうの。
まりちゃんはあげられないの。
みんなのだから。

おともだちでしょ。
うん。おともだち。
じゃあ、ちょうだい。
まりちゃんはいもうとなの。
ままにきかないと。
みぃちゃんのいもうとだからみぃちゃんがきめていいよ。

うん、まりちゃんあげる。
みぃちゃんいらない。

おきたら、まりちゃんがいなくなってた。
ままとぱぱは、あっちいったりこっちいったりしてた。
じいじとばあばもいえにきてた。

たくさんのおとなとおはなしをした。
みぃちゃんがどこにいったのかって、みんなおなじことをきくの。
そんなのわからない。
きづいたらいなくなってたんだから。

みぃちゃん。ねぇ、おきて。
ままとおやつたべよっか。

ゆめでもみてたのかな。



奥村真莉さん生後3ヶ月が失踪したという事件を受け、警察が母親から聴取した内容と姉の奥村美香さんの日記と聴取から再編集したものです。

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