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着物の柄をつくる"図案師"として日本人の心を伝える 古城里紗さん

伊勢型紙との出会いをきっかけに、図案師として、日本人の根底に流れている美しさを残していきたいという古城里紗さんにお話を伺いました。

プロフィール
経歴:ニューヨークのSchool of Visual Artsにて、グラフィックデザインを学び、多文化のなかでのVisual Language(視覚言語)によるコミュニケーションの面白さを知る。

卒業後、フリーランスデザイナーとして活動するも、長く国際舞台で仕事をしていくためにも自国日本の文化への理解を深めるため2009年に帰国。

日本を知る旅で訪れ、約6ヶ月に渡り滞在した伊勢で、着物を染めるための和紙でできた型紙であり国の重要無形文化財「伊勢型紙」と出会い、精緻な美しさはもちろん、その道具としての無駄のない美しさに魅了される。

数年後には、すべての工程が100%職人の手で作られた着物づくりが途絶える可能性を知り、伝統染織に関わる職人らとともに《図案師》として創作活動を始める。

2018年2月には外務省の《日本ブランド発信事業》にて南米3カ国4都市へ派遣され、影響を受けた「伊勢型紙」と自身の切り絵作品の展示とワークショップ、講演をおこない、各地でキャンセル待ちとなるなど大きな反響を呼んだ。

本来の《着物の柄を生み出す》図案師の仕事の枠を超え、同世代の職人や海外アーティストとのコラボレーションをはじめ、『伝統文化を通して感性・想像力・創造性を豊かに育む』がコンセプトの企画運営では、延べ1500人以上、3歳から70代まで、幅広い年代の日常的に着物に触れることがない人たちにも体験を手渡し、リピーターやイベントをきっかけに職人体験や産地訪問をする人を増やし、好評を得ている。

『ひとつの体験が、知識を超える』を信念に、教育の場づくりから、次世代にバトンを渡すプロジェクトなど、国内外問わず幅広く活動している。

座右の銘:突き抜けた先は無重力

記者 よろしくお願いします。

古城里紗さん(以下、古城) はい。よろしくお願いします。

「伊勢型紙との出会い」

記者 図案師とは、どんなお仕事をする人ですか?

古城 簡単に言うと、着物の柄をつくる職人です。着物は、和紙でつくられた型紙を使用して染めるんですが、柄の図案をつくる「図案師」のほかにも「型彫師」や「染師」など、たくさんの職人さんが関わっています。

記者 図案師になられたきっかけを聴かせてください。

古城 私は高校から、父の仕事の関係でアメリカに行き、ボストンの高校を出てニューヨークの美大を卒業し、グラフィックデザインやアートディレクターとして活動していました。帰国後、伊勢神宮の「式年遷宮」に合わせたお仕事で伊勢に半年間住んでいたことがあったんですが、その時に、伊勢の伝統工芸品である伊勢型紙をよく見かけたんです。当時、私は切り絵の作品をつくっていたこともあり、とても興味を抱き、その流れで、内田勲さんという型を彫る職人さんにお会いする機会があって、そこで「図案師になったらええ」と言っていただいたのがきっかけです。

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「伝統文化が消えてゆくのが許せなかった」

記者 どんな心のあり方や認識の変化が今の活躍につながっていますか?

古城 グラフィックデザイナーになったときは「私がやりたい」という思いが先行していたんですが、図案師になったときは「私がやらなければ!」という気持ちだったんです。

記者 「自分のため」から「世の中のため」に変わったということですか?

古城 そうです。客観的にみたら、図案師って別に私がやらなくてもいいじゃないですか。よく周りの人にも「なんで急に伝統の世界に入ったの?」って言われたんですが、でもやっぱり私なんです!!私がやらずして誰がやるのって思うくらい、自分でもよくわからないけど、すごい熱くなったんです。

記者 そのポイントはどこだったんですか?

古城 一番最初に、伊勢型紙に出会ったとき、職人さんにこんなことを言われたんです。「全てを職人さんの手でつくっている着物って、もう4、5年でなくなっちゃうんだよ」って。繭を育てる人がいて、最後、私たちの手に届くまで、そのプロセスには本当にたくさんの職人さんが介在していて、その道具をつくる職人さんもまたいるんです。道具が一個なくなってしまうだけで着物はつくれなくなってしまう。私は今までそれを知らなかったし、周りにそれを知っている人もいない。それなのに消えていくって、すごく悔しかったんです。日本の伝統衣装である着物が、目の前でなくなっていくのがすごく嫌だったんです。

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「中と外の橋渡しをしたい」

古城 その事実を広めるために、最初はデザイナーとして関わって、職人さんにつくってもらえばいいと思っていたんですが、グラフィックデザイナーを名乗るよりも、図案師と名乗ったほうがいいと思ったんです。図案師って何ですかって、みんなに聞かれるから、そこから話ができるチャンスだと思いました。それと、私のように、もともと外側にいた人間が発信することによって、より興味をもってもらえるんじゃないかと思いました。私だから伝わるものって絶対あると思うし、その方が面白がってもらえるかなと思って。今まで職人さんがやろうと思って出来なかったことも、外にいるからこそ、みえてくるし、できることがある。そこの橋渡しができたらいいなって思ったんです。

「目に見えない美しさを残していきたい」

記者 どんな美しい時代をつくっていきたいですか?

古城 それぞれの人が、持っているものを心地よく発揮できることが大前提にあると思っていて、そのためには「理解してから、理解される」関係性が重要だと思っています。まずは理解すること。できるか、できないかは別として、そのスタンスが大事だと思っていて、それが根底にあれば、相手を受け入れることもできるし、受け入れてもらえることもできる。その安心できるコミュニケーションの土台があれば、自分を心地よく発揮できると思うんです。より豊かに、美しくって、そういうことなのかなと思います。

例えば、キリスト教の人と、イスラム教の人が出会いました。全く違う価値観だけど、ああ、こういう人もいるんだねっていうスタンスで向き合うことができれば、殴り合うこともなく、否定し合うこともないと思うんです。そうなったらすごい美しいなって思います。

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記者 これからの夢ビジョンを聴かせてください。

古城 日本の伝統文化を通して、有り難いなぁと思ったり、美しいなぁって感じたり、おもてなしの心もそうですが、目に見えないものが、千年とか、二千年近い時の中で、着物とともに育まれてきていると思うんです。そういったものが根底に流れているからこそ、日本の教育水準って本来は昔からすごく高かったと思うんです。着物の柄ひとつとっても意味があって、言葉に出さなくても通じ合える、何か"含み"みたいなものがあったりする。こんなに賢くて、ユーモアにあふれている人種ってすごいなぁって思います。

一つひとつの所作にしても、心遣いがあるからこそ美しくみえるし、そういったものを着物や職人さんの文化と一緒に未来に残していくことができれば、私は未来って明るいのかなって思います。

なので、私は、子供の教育に伝統文化をとり入れることができれば、感性や想像力、創造性を育むことができると思っていて、それをやっていくのが私のビジョンです。

記者 素晴らしいですね。伝統文化を取り入れた教育がどのようなものになるのか早く見てみたいです。これからも応援しています。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

古城さんに関する情報はこちら
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◇ホームページ

◇フェイスブック

◇個展情報

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【編集後記

今回、インタビューの記者を担当した、見並、口野 です。

着物や伝統文化のみならず、日本人の心に脈々と受け継がれている大切なものを残したいという古城さんの日本に対する愛情と、人間に対する愛情、そして、全てを尊厳として捉え、生き方を貫いている姿勢には、とても感動しました。


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