Golden Slumbers (The Beatles)
僕が所属している読書サークルの学祭の企画で、伊坂幸太郎作「ゴールデンスランバー」をレビューする機会を頂いた。この本は僕に非常に思い出深く、僕が本に無縁の人間から、小説の世界へどっぷりハマるきっかけとなった本である。そんな本を読み直すに当たって、ふと、本のタイトルにもなっている、本家ビートルズのゴールデンスランバーを一度味わっておこうと思い、日本語訳してみることにした。
かつて、故郷へと帰る道があった。
かつて、自分の家へと続く道があった。
私の愛しい人よ、眠りたまえ、泣かないでくれ。
私は子守唄を歌おう。
黄金の微睡みが君の瞳を包む。
君が目を覚まして、微笑む。
私の愛しい人よ、眠りたまえ、泣かないでくれ。
私は子守唄を歌おう。
現代の取るに足らない出来事や、会話ばかりに神経をすり減らしている僕に、最早この歌詞を理解できる能力はないようにも思える。それとも、子供の頃の僕なら、この歌詞を感じ取れるだろうか……。
この曲は、囁くような落ち着いた声に旋律を乗せて、軽やかな曲調となっている。一見、幼い日々を顧みて、懐古し、ノスタルジーに浸っているようにも思える。
しかし、すぐそれだけではないと分かるのは、「Once there was a way to get back homeward」や「do not cry」といった、歌詞の一節による。
かつて故郷に続いていた道、自分の家に通っていた道は、今はもうないのだろう。それはまるで、「時間を遡って、昔の思い出にありつくことはできない」ことを象徴しているように思える。
さらに、なぜこのような平和な雰囲気の中で、「泣かないでくれ」と言わなければならないのか。きっと、泣きたくなるような悲しい出来事があったのだろう(安い表現で申し訳ない)。あるいは、どうしたって過去に戻れない悲しみか。この一説があることにより、「君が目を覚まして、微笑む」と言う描写も、単なる「微笑み」ではないと感じ取れる。
これはあくまで僕の考察に過ぎないが、きっと眠っている間に見る夢だけが、僕たちを過去の世界へ導いてくれるのだろう(過去の世界に浸っていられる)。そんな魔法のような時間、歪みの正体こそ「黄金の微睡み」であり、「黄昏時」と似たもののような気がする。
伊坂幸太郎の「ゴールデンスランバー」にも、度々主人公の青柳雅春が昼下がりに微睡む描写がある。彼はその時、大学時代の旧友に思いを馳せ、おそらくその旧友たちも思いを馳せただろう。首相暗殺という濡れ衣を着せられながらも、旧友たちの力を借りながら、彼は劇的な逃亡劇を繰り広げる。
皆さんも、是非読んでいただきたい。本当に素晴らしい作品。
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