「いっけなーい!遅刻遅刻選手権」にエントリーしました☆第2話
第2話
◯公園
京香、和樹に背を向けたまま立ち止まる。
和樹「俺は…今も好きだから」
京香「…」
京香、後ろ手に手を振り、和樹の前から去っていく。
× × ×
京香と和樹から少し離れた茂みの陰にいる瑞稀。
瑞稀「…(涙を堪える)」
瑞稀、足早に和樹と逆方向に向かって立ち去る。
〇ハンバーガー店・店内
入ってくる瑞稀、目元にハンカチを当てている。
× × ×
二人席を見つけ、荷物で2席分をキープする瑞稀。
瑞稀のスマホのLINEの着信音が鳴る。
スマホを取り出す瑞稀。
◯LINE画面
京香のメッセージ「終わったよ」
◯ハンバーガー店・客席
瑞稀、メッセージを打ち込む。
◯LINE画面
瑞稀のメッセージ「あ、そうなんだ。早かったね」
京香のメッセージ「うん」
瑞稀のメッセージ「おつかれさま。私も自分の用事を済ませて、今、店内に入ったところ」
京香のメッセージ「そうなんだ。りょ」
◯ハンバーガー店・店外
京香が現れ、店内に入っていく。
◯同・客席
待っている瑞稀の前に京香が現れる。
京香「(明るく)お待たせ〜!」
瑞稀「(平常心を装い、手をあげて)よっ!」
× × ×
バーガーセットを食べている京香と瑞稀。
瑞稀「正直、意外だった」
京香「何が?」
瑞稀「なんだかんだで和樹君と京香、お似合いだと思ってたから」
京香「…」
京香、沈黙を破り、
京香「瑞稀、あんたはどうするの?」
瑞稀「え?」
京香「遅刻遅刻選手権。今、彼氏いないんでしょ。出てみればいいじゃん」
瑞稀「…好きな人がいるんだよね」
京香「うそ!マジで!?教えて、応援するから!」
瑞稀「…向こうは向こうで好きな人がいるからさ」
◯フラッシュバック
和樹「俺は…今も好きだから」
京香「…」
◯同・客席
瑞稀「私にはチャンス、ないかも」
京香「そうなん?関係ないよ。アタックすればいいじゃん」
瑞稀「ん~でも…」
瑞稀、京香の顔をじっと見る。
京香「?」
瑞稀、京香から目を逸らし、
瑞稀「が、頑張ってみようかな…」
京香「そうしなそうしな!そっちのがいいよ」
瑞稀「遅刻遅刻選手権、応募してみる」
京香「そっちかーい!まあそれでもいいけど」
瑞稀「ライバルが増えるんだよ。いやじゃないの?」
京香「参加資格があるわけだから。持っている権利は行使したらいいよ」
瑞稀「そうなんだ。京香はそういうところフェアだよね」
京香「私はゲーム感覚というか…ま、こういうのって参加者が多いほど面白いからさ。ね?」
〇合陣高校・放課後の教室
T・202×年5月中旬(月)〈和樹を振った日の二日後〉
集まってる京香、瑞稀、渚、香織。
渚「京香参加するの?!え、瑞稀も!?」
京香、スマホゲームしながら
京香「(生返事で)んー」
瑞稀「…(こくんと頷く)」
香織「え?嘘?!二人ともこういうの一番興味なさそうじゃん」
渚「えーっと…彼氏がいない瑞稀はまだわかるけど、京香は彼氏いるじゃん」
京香「別れた」
香織「うっそ!結構ラブラブだったじゃん」
渚「飽きちゃったの?」
京香「(生返事)ん~…」
香織「え~結構応援してたんだけどな…京香」
京香「ん?」
香織「京香、本当に本当にシュウチンマジで狙ってんの?」
京香「あー、んー狙ってるっていうか…」
渚「そういえばさ、シュウチンって地元ここだよね」
香織「そうらしいね。今回の件で初めて知った」
渚「幼稚園までここに住んでたんだって」
香織「へえ~。私引っ越してきたから知らんけど」
瑞稀「京香はずっとここでしょ?」
京香「そう…だね」
香織「そうなん?」
渚「なんか知ってる?幼稚園時代のシュウチンのこと?」
京香「ん〜、い〜や〜…」
渚「あー、知ってるんだ京香!もしかしてその頃からシュウチン狙ってた?」
京香「ないない!ないって!」
瑞稀「んー、もしかして京香はお金持ちが好きなん?」
京香「…嫌いではないけど」
香織「(和樹を見つけ)あっ」
和樹が離れた場所からじーっと京香を見てる。
香織「哀れな元彼さんが見てる」
渚「ちょっと!…聞こえたかな。京香ゴメン」
京香「別に全然。別れたし」
和樹、京香らから目を逸らす。
気まずい表情でその場を離れる和樹。
心配そうに和樹を目で追う瑞稀。
渚「そういえばさ、京香は何でカズ君と付き合ってたの?」
京香「何で、とは?」
渚「だって…ほら…別に」
京香「金持ちじゃ無いのにってこと?」
渚「あ、いや、その…でもさあ特にイケメンでもないし。あー、ごめん。これも違った。言い過ぎた」
京香「別に…何となくかな。悪い人じゃないし」
渚「あー渚も彼氏欲しくなってきた。やっぱ選手権応募すべきだよね?」
香織「やめてよ、私も応募するんだから!これ以上ライバルが増えると困る」
菜緒の声「ハイハイハイハイ」
パンパンパン!と手を叩きながらド派手なギャルメイクの菜緒が入ってきた。
隣には取り巻きの同じく派手なギャルメイクの2人ーー琴李と麻希がボディーガードのように菜緒に寄り添っている。
自撮り棒付きのスマホを琴李から受け取る菜緒。
菜緒「(スマホに向かって)こちら、巷で話題の合陣高校の校内です。こちらは2年A組の教室であります」
渚「出た」
香織「当校一の有名人」
渚「フォロワー300万人、生意気系ちょいカワTIKTOKER」
菜緒「ちょいちょい!誰がちょいカワよ?めちゃカワでしょ?」
渚「ハイハイ」
香織「生意気系は否定しないんだ…」
菜緒「(無視して、スマホに向かい)そうです!私がめちゃカワTIKTOKER、菜緒でーす!」
京香「…」
京香、菜緒をじっと見ている。
菜緒、京香に向かって
菜緒「ねえねえ」
京香「なんだよ」
菜緒「今、冴えない女どもが冴えない顔でしょうもない話してなかった?」
京香、瑞稀の方を向いて、
京香「なんでこんなのが人気あるの?」
瑞稀「んー、生意気系TIKTOKERだから?」
京香「生意気系とか聞いたことないんだけど」
菜緒「おい!シカトかよ!…どうせあれでしょ。シュウチン主催の遅刻遅刻選手権に出るとか出ないとかあんたらみたいなシモジモの者がくっちゃべってたわけでしょ?」
京香「はいはい…ていうか聞こえてたんでしょ?…で、校内一の有名インフルエンサーが我々シモジモの者に何の用ですか?」
菜緒、京香に顔を近づけ、
菜緒「(京香にだけ聞こえるように)そ、そんなにツンケンしないでよ。半分キャラでやってるんだから」
京香「(呆れて)はあ…」
菜緒、元の位置に戻り、
菜緒「遅刻遅刻選手権、出るのは勝手だし、せいぜい頑張ればいいと思うけど…そんな皆さんには残念なお知らせがあるわ」
渚「残念なお知らせ?」
香織「どういうこと?」
菜緒「いっけなーい遅刻遅刻選手権、優勝は…私、菜緒ちゃんが頂きます!」
渚「ハイハイ」
香織「立派な意気込みだけど…わざわざそれを言いに?」
菜緒「いやいや。意気込みじゃなくて事実なんですけど」
渚「はい?」
香織「大会開始前だよ。事実って何?」
菜緒「(スマホに向かって)みんなごめん!都合によりここで中継は切るね!ありがとう。バイバイ!」
菜緒、スマホ画面の中継終了のボタンを押す。
渚「え、何ちょっとちょっと」
香織「何で急に終了した?」
菜緒「ごめんねえ~。生意気すぎた?悪気はないんだ。ごめんね」
瑞稀「悪気しかなかった気がする」
渚「なんで中継切ったの?」
菜緒、空いている椅子に座る。
菜緒「中継で喋ろうかなと思ったけど…途中で聞かれたらまずいかなって」
渚「誰に?」
菜緒「シュウチンに決まってるでしょ」
渚「はあ」
香織「何が言いたかったの?」
菜緒「んー…ちょっと場所変えようか」
周りには菜緒目当てのギャラリーがめちゃくちゃ集まってる。
京香「あんたが集めたんでしょうが」
渚「(手をパンパン叩いて)はいはい、見世物じゃないよ」
香織「散って散って!」
瑞稀「まあ見世物だけどね」
ギャラリーが散っていく。
が、牛乳瓶の底のような眼鏡をかけた茂手木宣子(17)が最後まで残っている。
宣子、京香を興味深く、じーっと見ている。
京香、視線に気付き、宣子を見る。
宣子「(我に返り)はっ!ごめんなさい!すいません」
宣子、慌てて去っていく。
菜緒「誰?」
京香「茂手木さん」
菜緒「モテギさん誰?」
京香「茂手木宣子さん」
菜緒「って誰?」
渚「茂手木宣子略してモブさん」
菜緒「モブさん?」
香織「クラス一影が薄いと言われている。だからモブ…ああ、別にいじめとかじゃないから」
渚「いつも単独で行動してるから接点がないんだよね」
菜緒「ふーん…菜緒と逆だね」
香織「いつも何やってんだろ」
京香、立ち上がる。
京香「さてと…どこ行く?あそこでいいかな」
〇カラオケボックス(夕)
バック席に座っている京香、瑞稀、渚、香織、菜緒。
瑞稀「取り巻きは連れて来なかったんだ」
京香「取り巻き?」
瑞稀「鳥越琴李と巻島麻希。菜緒にくっ付いてた二人。通称トリマキコンビ」
京香「あー…」
香織「かわいそ」
菜緒「結局さあ」
渚「(遮り)今はキャラなの?素なの?」
菜緒「どっちでも…私が言いたいのは…この大会は私の勝ちが約束されてるってこと」
瑞稀「どういうこと?」
菜緒の眼がキラリと光る。
(3話に続く)