夢でさえ遠いあなたの住む街へいまひたひたと満ちてゆく海
拝啓、浜田到様
高校の教科書に、もし浜田さんの<こんこんと外輪山が眠りをり死者よりも遠くに上りくる月>が載っていなかったら。耳が痛いほどの静寂、外輪山の濃く黒いシルエット、そして孤高に光る月。授業中、歌を読み返しては思い描いていた光景。テスト問題に出るような、作者の気持ちも、歌の意味すらよくわからない。わからないけれど、惹かれてやまない。あの一首の歌に出会った瞬間に、かちりと音を立てて人生が変わった。並行宇宙の、短歌を知らない私よりも、ずっとずっとこの私が幸せだ、と自信を持って言える。
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