伝える、そこから先のこと。
「テノヒラタンカ」という、自然。 天野 慶
伝える、そこから先のこと。
忘れてしまいそうな風景があります。
大切に憶えていたい、でも時間がたてば必ず忘れてしまうことがわかっている風景。
通学路にいた犬。放課後の人気ない廊下。二人乗りの自転車から見た夕焼け―――。
これから歳を重ねるにつれ、生活のなかに埋もれてしまいそうな、あやうい記憶たちです。
そんな記憶を保存することのできるメディア。小説・映画・写真・漫画。
たくさんのジャンルから私たちは「短歌」と「イラストレーション」のコラボレートというかたちを選びました。31音で切り取られたイメージと、イラストレーションで切り取られたイメージ。それは20代の私たちにしか描けない、伝えることのできない、花火のような一瞬の風景です。
3人の歌人と、9人のイラストレーターという、スポーツや演劇のように「みんなでひとつのものを創り上げる」作業は、ひとりでは辿り着けなかった遥か彼方の風景まで見せてくれました。
メディアを超え、本、インターネット、そして動画配信へ。空間を超え、あなたのもとへ。
私たちの新しい表現の世界へ、ようこそ。
(テノヒラタンカ 1Stイベント「ウタハジメ」 リーフレットより)
(短歌+イラストレーション+音楽)×フラッシュアニメーション。言葉より、こんな数式で説明した方がしっくりくる、それが「テノヒラタンカ」です。製作に携わる人たち(今、数えたら総勢21名!)すべてが、20代。小学生の頃からパソコンが、高校生の頃から携帯電話があった世代です。テレビや電子レンジのように、日常生活に欠かせないツールとして。そんな私たちにとって「テノタン」は奇を衒った新しい場所ではなく、いつのまにか流れついた場所。「いつも持ってるケータイで短歌が見られたらいいよね」といった感じ。それは短歌総合誌や歌会、結社よりもずっと身近で、馴染みのある場所でした。
現在は毎日新聞のホームページ「Women interactive カモミール」(http://www.mainichi.co.jp/women/index.html)での連載、携帯電話での動画配信(http://www.sansara.co.jp/i/ )、歌集『テノヒラタンカ』(太田出版)の出版、青山のギャラリーやカフェではイベントも。マスコミにも取り上げていただき、たくさんの方に親しんでいただけるようにもなってきました。私たちの世代なりの、短歌を表現する場が育ちつつあるように思えます。
2002年表参道「共存」イベントにて
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