「家族マンガ」が好き(『鬼の子』1・2)
「自分は自分」と認める。『鬼の子』を通して伝わってきたのは、このメッセージでした。
昨年の12月、cakesで連載を終えて2冊の単行本として発売された、『鬼の子』の1巻と2巻。
連載に合わせて読んでいた頃は、登場人物の動きを見て、その時々で「頑張れ」「良かったね」などと思うことが多かったのですが。
今回改めて単行本を流れるように一気に読んで、あっ、と自分の中で思うことがありました。
それが、「自分は自分」と認める、ということです。
あらすじ
夏休み前日。野球部を退部した中学生のみのるくんは、グラウンドで練習を眺める、ひとりの男の子に出会う。思わず「野球の見学?」と声をかけたみのるくんに、男の子は……。みのるくんと男の子、そして周りの人たちとのあたたかな交流を描く、「cakesクリエイターコンテスト」の入賞者・ながしまひろみさんの連載です。
ひとりの男の子=オニくんは、さみしさや孤独を持って家出をして、ひとりではできない野球をやりたいと望む。
みのるは野球部を辞めた後ろめたい気持ちもありつつ、オニくんたちに教えることで野球を続けていく。
その中で、オニくんもみのるも家族や友だち、クラスメイトなど、色々な関わりと、悩み考えることがあって・・・・・・。
というのが『鬼の子』のあらすじです。
実はオニくんは、連載が始まる前から、著者であるながしまひろみさんのTwitterにしばしば登場しています。
その時は、マンガではみのると同級生のゆきちゃんと、オニくんが同じくらいの背格好。Twitterの中ではオニくんは喋っていなかった(と思う)ので、オニくんが喜怒哀楽を出して物語が展開していくのが嬉しいです。
そのゆきちゃんは、『やさしく、つよく、おもしろく。』『そらいろのてがみ』といったマンガ・絵本に出ていて。
『鬼の子』からながしまさんの作品に出会った方は、是非ながしまさんの過去のツイートや、既出のマンガ・絵本に触れて欲しいです。
そうすると、『鬼の子』の感じ方がまた変わってくると思います。
誰もが悩みを抱えてる
オニくんは、自分が鬼であることに悩んでいるように見えました。自分が鬼だから、悪者として見られているんじゃないか、恐ろしい心を持っているんじゃないか。だから、自分のツノを見られるのが嫌だったし、悪いことが起こると、必要以上に責任を感じてしまうところがマンガの中でも描かれています。
みのるは、周りの人たち、そして自分自身とどう接していけばいいのか、悩んでいるように見えます。突然家にやって来たオニくんと、どうコミュニケーションをとるのか。家を出て行ったお父さん、その帰りを待つお母さんと、どう接していくのか。何より、野球部を辞めてしまった自分自身のこれからと、どう向き合うのか。自分の周りの状況がどんどん変わっていく中で、自分はどうする?という葛藤も、ストーリーから感じ取れます。
じゃあオニくんやみのる以外の人たちは、順風満帆に日々を過ごしているのかというと、きっとそうではなくて。
ゆきちゃんは、野球を続けている自分が普通じゃないと悩んでいる。
みのるのお父さんは自分のキャリアや成績、そして家を出て行ったことに悩んでいる。
オニくんの友だち・みどりちゃんは、お母さんと上手く接することができなくて悩み、てっちゃんはオニくんと素直に仲良くできなくて悩んでいた。
大なり小なり誰もが悩みを抱えて過ごしている。やわらかい、温かみがある絵で進むストーリーのそこかしこに、切なさを感じてしまう部分がいくつもありました。
「自分は自分」と認めて進んでいく
でも、オニくんはみのるの言葉や周りに支えられて。
みのるはオニくんと接したり、お母さんの言葉を受けたりして。
他の人たちも、周りにいる人の言葉や振る舞いで。
まずはどんな自分も自分だと思ったり、それを認められたりするようになっていきます。
そうすると、悩みが晴れていって、一歩踏み出せるようになって。明るい方向に進んでいく。『鬼の子』の中では、そんな場面も多く見られます。
一度通して読んだ後、改めて各話のタイトルを眺めてみたのですが。
・ぼくは、ぼくです!
・みのるはみのるなんだから
・だってぼく、鬼だもん!
と、自分は誰でもない自分だと受け入れるようなタイトルがありました。
最終話を読んだときに、一番最初はあれ?話がちょっと飛んだかな?と感じていたんです。
少し時間が経って考えてみると、きっとそうじゃなくて。いろんな悩みがあったけど、それも自分だと認めて、今は自分らしく過ごしているよというメッセージなのだと、受け取っています。
これからも、オニくんにはオニくんの、みのるにはみのるの、みんなにはみんなの、悩みや壁が何度も出てくると思います。
それは前にも出会った悩みかもしれないし、新たに立ちふさがってくる壁かもしれない。
でも、まずは「自分は自分」と認めてあげる。周りが悩んでいるのなら、「あなたはあなた」と認めてあげる。すると、また自分を受け入れて進んでいける。きっとオニくんやみのるたちは、そうやっていけると感じています。
難しいこともあるけれど、「自分は自分」と認める。
自分自身が、今後いろいろな場面でそうできるといいな。と同時に思いました。
温かい絵の中に、切ない悩みもあって、でもやっぱり温かく進んでいく。
『鬼の子』、読み返すごとにいいなという気持ちが増していくマンガです。
この先も色々な場面で、読み返そうと思います。