猫の声を聞きに行く
クロミの粗相は解決するのか
旦那に話すと自分も行きたいというので、二人で聞いておいた方がいいだろうなと思い、予約した。写真を持っていって、その子の話を聞くスタイルということで、今いるコハク、クロミ、大豆、そして、一応、亡くなってしまったにゃーちとフクちゃんの写真も持っていった。
金額は、特に決まっていなくて、その人が払いたいだけ払うシステムだった。どれぐらいが適当なのか、検討もつかなかったが、まあ、3000〜5000円ぐらいかなと思って、封筒に一応、二種類入れておいた。
当日は、二人ともなんだか気持ちが高ぶっていて、やたら早く着いてしまった。話は、施術室の手前の細長い窓から庭が見えるところで行われるようで、そちらのソファに座るように案内され、飲み物をいただき、ノートを持った店主さんが向かいの地べたに座った。
我々は、低めのソファに座っているので、どうしても目線が下を向くようになるが、間のテーブルも細長く、初めて話をするのに、よく知った友達と話をしているようにリラックスできた。
まず、クロミの粗相の話をして、写真を見せ、粗相の理由を知りたい旨を話し、現在の同居猫であるコハクの写真も見せて、「多分コハクとの関係性が影響しているように思う」と話した。
クロミがベッドでくつろいでいる時に限って、コハクが「どけっ」とでも言うように襲いかかってクロミをベッドから追い出すのが原因じゃないかと思ったのだ。粗相は、縄張りのしるしだともいうし…。
店主さんはクロミの写真を見てから、それを机に置いて、目をつむって何かを感じているような仕草をした。私たちはこれから何が起こるのか、ジッと店主さんの方を見ていた。店主さんによる、クロミの話が始まった。
動物の声を聞くといっても、具体的にどうなるのか全く予想できなかったが、いきなり店主さんがクロミの声真似で話し出したので、びっくりした。しかし、普段私たちがふざけて話しているクロミの声真似に言い方がそっくりだったので、それにもびっくりした。
「お兄ちゃんが、私がトイレしている時にジッと見てくるから嫌なの」
あまりの突然のことに、「えっ!」と私たち二人はしばし固まった。お兄ちゃんが見てくる…?どういうこと?
しかし、そう言われてみると、その頃、クロミのトイレをコハクはいつもジッと見ていた。また、コハクは目が大きいから、めちゃくちゃ気になるのだろう。人間だったらめちゃくちゃ怪しい。
結局、トイレに入っている時に外から見えないようにしてほしいという事で、「そうか、帰ったらなんかカバーをつけよう」とあっさり解決した。
それで直るならお安い御用だ。そういったことは全く考えてなかったので、何か手掛かりをもらえただけでもありがたかった。その当時は、とにかく、粗相に効くと聞けば、ベッドにまたたび水を振りかけてみたり、猫のフェロモン水をスプレーしてみたり、手当たり次第に試さずにはいられなかった。今から思えば、私たちのそういう必死さが、余計クロミを粗相させていたのかもしれない。
大豆とコハク、クロミの関係性
それから、他にも気になっていることを聞いた。まず、外にいる大豆を室内に入れるかどうかということ。
大豆の写真を見せた。大豆の言葉は、「(私に対しては)いつも環境を整えてくれて感謝している。寒くなると中に入りたいけど、うろうろするのが好き。好きなところでいたい」ということだった。
室内にいるコハクやクロミのことをどう思っているのか聞くと、「自分はよそ者感があった。クロミが受け入れてくれるならOK。コハクはいかついヤツ」ということだった。大豆よりだいぶ細い体のコハクがいかついっているのはよくわからないが、コハクのことは嫌いらしい。
当時、大豆はまだ若い盛りで、体力も有り余っていたので、快適でも退屈な狭い室内に適応するのは、なかなか大変だろうと思っていたので、納得した。
コハクは、「飼い主は自分を理解してくれている。そばにいてくれている時が好き。うるさいのは嫌い、クロミのことは、よく動く、気になって見てる。嫌いじゃない。大豆とは正直一緒にいたくないが、話しかけてきた」ということだった。
クロミは、「もっとかまってくれたらいいと思う」とも言っていたので、もっと遊んであげないとと反省して、毎日遊ぶようにした。
亡くなった子たちのこと
どうしようか迷ったが、どうしても聞きたくて、亡くなったにゃーちやフクちゃんの写真も店主さんに見せてみた。店主さんは猫好きらしく、次々に出される猫の写真に喜んで、「眼福です」とおっしゃっていた。眼福とか普通に言う人に初めて会ったなあと思った。
にゃーちとフクちゃんは、まだ空にいるということだった。にゃーちは、いろんな経験をして何度も生まれ変わっているらしかった。私が、にゃーちに何もしてあげられなかったと話すと、にゃーちになった店主さんは、私には「とても感謝している。幸せだった」と言った。
フクちゃんは、1歳になる前に亡くなったこともあり、まだ子どもで、いろんなことを知らないので、にゃーちが心配して一緒に付いていてあげているらしかった。にゃーちとフクちゃんが都合よく一緒にいるなんてと一瞬思ったが、店主さんは、セラピストでもあるので、目的はお客さんの心のケアなんだろう。だから、言うなれば、優しい嘘をついてくれているのだろうと思った。
その証拠に、私たちは、二人ともオイオイ泣き出して、不思議なことに、それまで、心の中でモヤモヤしていたことも、にゃーちやフクちゃんが幸せで楽しくやっているということが嬉しくて、帰りの車の中で、「来てよかったね、すごかったね」と言い合いながら、にゃーちやフクちゃんの思い出話をしながら帰宅したのだった。