謎解き『江雪』(柳宗元)
二年前(2022年)の1月21日、河南省鄭州に住む友人が雪景色の写真を送ってきてくれました。
彼の家は黄河のすぐ近くにあり、彼の家を訪れた際、川岸までサイクリングしたこともあります。
写真を見た時、なぜか柳宗元の『江雪』を思い出しました。
(『江雪』は柳宗元が湖南省永州に左遷されていた時の作ですから、黄河とは無関係なのですが。)
江雪 柳宗元
千山鳥飛絶 千山 鳥飛ぶこと絶え
万径人蹤滅 万径 人蹤滅す
孤舟蓑笠翁 孤舟 蓑笠の翁
独釣寒江雪 独り釣る 寒江の雪
【口語訳】
山々には飛ぶ鳥の姿がなく、すべての道にも人の姿はない。
蓑笠姿の老人が小舟に乗って、雪の降る川で釣り糸を垂らしている。
しばらく眺めていたのですが、突然、この詩は「谜语诗(謎かけの詩)」ではないかと思いました。
縦書きの詩を横に読んでみます。
千万孤独
山径舟釣
鳥人蓑寒
飛蹤笠江
絶滅翁雪
第一句「千万孤独」は、文字通り「おびただしい孤独」を言います。
この孤独は、一人ぼっちで寂しいというニュアンスではなく、世俗から隔絶されたイメージです。
「孤高」の「孤」、「独立」の「独」ですね。
第二句「山径舟釣」は、「山中の小道を通り抜け、人里離れた川で舟に乗り釣りをする」という意味になるでしょうか。
第三句「鳥人蓑寒」は、「鳥人は蓑を着た寒士」であるということ。
空を飛び回る「鳥」は自由の象徴です。
「鳥人」は、柳宗元は自由人だということです。
「蓑」は清貧の象徴、「寒士」は貧しい知識人の意です。
第四句「飛蹤笠江」は、「鳥が飛んでいった行方」と「笠をかぶって川にいる」の二つの意味を並べています。
前者は心象風景、後者は現実の風景です。
現実の作者は小さな舟に乗って魚を釣っているけれど、心は大空を駆け巡っているということです。
第五句、「絶滅翁」は「このような翁はもういない」という意味、「雪」は「白髪」の比喩です。
全体の意味は、次のようになります。
私は川のほとりで隠者のように暮らしている。
衣食は不如意なこともあるが、心は自由で、何事も思いどおりだ。
世間の人は白髪頭になるまで贅沢を求め続けているが、私一人は何事にもとらわれず、ゆったりとした生活をしている。
周りを見ても、残念ながら同好の士は見当たらない。
それでも私は、この「絶対孤独の境地」が好きなのだ。
『江雪』は柳宗元33歳の頃の詩なので、白髪頭の隠者というイメージには合いません。
それでも、自分の思いを詩に託したと見れば、可能な解釈だと思います。
中国人の友人に見せたのですが、けっこう喜んでくれました。
外国人にしては、よく考えた解釈だ、ぐらいの気持ちだったでしょうが。
『江雪』からは、作者の隠された挫折感や寂寥感を読み取ることが多いのですが、このようなポジティブな解釈をしてみても面白いのではないかと思います。