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花柄のバッグとワンピース

目の前に並ぶ二人の外国人旅行客が目に入る。
女性は白地に線の細い花柄のバッグを肩から下げ、花柄のワンピースを着ていた。
涼しげな水色のカーディガンを合わせている。
バッグとワンピースの花柄は、同じデザインだろうか。
つい気になって観察してしまっていた。
絵柄の線の細さが、女性の繊細さを表しているような気もする。
そんな彼女に選ばれたバッグとワンピースが、彼女の身体をまとって自慢げに輝いて見えた。

その二人は老年のカップルで、キャッシャーの順番待ちをしていた。
女性が前のほうに並び、男性は女性のすぐ後ろに立っている。

この二人はどんな生涯を歩んできたのだろうか。
この年齢で共に外国を旅するということはかなり仲が良いのだろう。
一言も発さずにじっとしているが、静かに佇む男性からは女性を守るオーラのようなものが感じられた。
彼らのこれまでの人生について妄想を繰り広げている自分がいた。
長く見つめていたことに気づき、慌ててパソコンの画面に目を戻す。

次に顔を上げるまでの間、何をしていたのか全く覚えていない。
あっという間だった気もする。
彼らの存在を一瞬で忘れたような気もする。

お会計を済ませた彼らが出ていくのを感じ、顔を上げた。

花柄のワンピースがひらり。
彼らが自動ドアに向かって歩き出し、扉が開いたその瞬間。
彼女が手をすっと横に差し出し、コンマ一秒、男性がその手をしっかりと握りしめた。

私は椅子に座り、いつまでも彼らが出ていったあとの扉を見つめていた。
幸せだった。

何気ない小さな幸せのひとこまを。
手をつないで歩く老夫婦が大好きです。

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