生きている|佐内正史
写真集について書くマガジン、3冊目は佐内正史さんの「生きている」。
これまで何度か写真を始めたきっかけは?と尋ねられたことがあります。
その時は、『写真はもともと見ていたが、自分で写真を撮るようになったのは佐内正史さんの「生きている」がキッカケです。』と答えています。
高校生の頃に友人が趣味で写真を撮っていたので、その頃から写真には触れていました。自分で写真は撮らなくとも、リバーサルもモノクロも、レンジファインダーから中判カメラ、アラーキー(荒木経惟さん)から藤井保さんまで、薄く広く写真について知識を蓄えていったように思います。
また、私の大学時代というのは日本の写真界隈はとても盛り上がっていて、”リクルートのひとつぼ展”があり、”キヤノンの写真新世紀”があり、その先に"朝日新聞社の木村伊兵衛賞"がありました。
ホンマタカシさん、HIROMIXさん、蜷川実花さん、長島有里枝さん、川内倫子さんなど次々と新しいタイプの写真家が現れ、ロモグラフィー(クロスプロセス&トイカメラブーム)、カメラ女子ブームとその後2005年くらいまでは銀塩カメラもフィルムも気軽に入手できる、まさに写真の黄金期だったように思います。
そんな中、2002年頃にある古本屋さんで見かけたのが佐内正史さんの写真集「生きている」でした。
その時の衝撃をどのように言葉にしたら良いのか未だわかりませんが、「これがありなら、わたしも写真を撮ってもいいんだ」と思ったのを覚えています。
そんな私にとって特別な一冊、写真集「生きている」。
ペンタ67にコダックのポートラ、カラー現像機で自身でプリントした独特の色合いの作品。
処女作にして、実質的にはこの写真集で木村伊兵衛賞を取ったと言われるほど凄みを感じさせる一冊(正確にはMAPで受賞)。何気ないものにレンズを向けているにもかかわらず、写真からはヒリヒリするほど緊張感を感じます。
佐内さんや川内さんの登場により、写真評論家の飯沢耕太郎さんが「日々の泡をすくいとったような写真」と表現していた"半径5mくらいの日常生活を切り取った写真"が広く若い世代に浸透し、今もそのスタイルは受け継がれているように感じます。
以上、私がもっている写真集3冊目の紹介は、佐内正史「生きている」でした。