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【書評】「22世紀の民主主義 選挙はアルゴリズムになり、政治家はネコになる」
YouTubeで面白い人を見つけた。
ひろゆきと討論している成田悠輔という人物が凄いインパクトだった。なんと、少子高齢化の解決策は「老害となっている高齢者の集団自決だ」と大真面目に言っているからだ。誤解を恐れずその時の私のリアクションを言うと、普通に爆笑した。
その辺の人が言ったら「ヤベー奴」認定されて終わりだが、成田氏はイェール大学助教授。忖度しないという意味では、ホリエモンやひろゆきと同じカテゴリーに入るのだろう。
ホリエモンやひろゆきとの最大の違いは、ユーモアの高さだと思う。成田氏が出ている動画を一通り視聴したのだが、ホリエモンとの対談でN国党の政見放送に対して下記のようなツイートをしていることが分かった。
日本はもうダメなのかもしれない pic.twitter.com/yCJDgoRv2z
— 成田 悠輔 (@narita_yusuke) October 25, 2021
これも爆笑した。
にわか成田ファンとなった私は、彼が執筆した本を買うことにした。それが物凄く面白かったので、紹介していきたい。
内容紹介
1.民主主義の現状
経済と言えば「資本主義」、政治と言えば「民主主義」。勝者を放置して徹底的に勝たせるのがうまい資本主義は、それゆえ格差と敗者も生み出してしまう。生まれてしまった弱者に声を与える仕組みが民主主義だ。暴れ馬・資本主義に民主主義という手綱を掛け合わせることで、世界の半分は営まれてきた。
若者が選挙に行って「政治参加」したくらいでは何も変わらない。今の日本人の平均年齢は 48 歳くらいで、 30 歳未満の人口は全体の 26%。全有権者に占める 30 歳未満の有権者の割合は 13.1%。 21 年の衆議院選挙における全投票者に占める 30 歳未満の投票者の割合にいたっては8.6%でしかない。若者は超超マイノリティである。
今世紀に入ってからの20年強の経済を見ると、民主主義的な国ほど経済成長が低迷し続けている。
インターネットやSNSの浸透に伴って民主主義の「劣化」が起きた。
平時でも、有事でも、張るべきところにすばやく張れない民主国家の煮え切らなさが浮かび上がってくる。(中略)振り返ってみれば、数千年前の起源から一貫して、民主主義は不自然な思想であり奇妙な制度である。一体誰が、人の生活どころか生命さえ左右する致命的な決断を、どこの馬の骨ともしれない街頭の一般人アンケートに委ねようと思うだろう?
問題は、情報通信環境が一変したことそのものではない。それは、人類の避けがたい進化だ。本当に問題なのは、情報通信環境が激変したにもかかわらず、選挙の設計と運用がほとんど変化できていないことだ。
重症の民主主義が再生するために何が必要なのだろうか? 三つの処方箋が考えられる。 民主主義との闘争、 民主主義からの逃走、そしてまだ見ぬ民主主義の構想だ。
2.民主主義との闘争
第1の闘争は、民主主義の現状と愚直に向き合い、その問題と闘って呪いを解こうとする営みだ。
具体例としては
①ある世代だけが投票できる世代別選挙区を作り出す
②投票者の平均余命で票に重みをつける
③未成年など選挙権を持たない子の親に代理投票権を与える
④政治家や政党ごとに投票するのではなく、不妊治療の保険適用化や年金支給年齢の変更、LGBT法制といった個別の論点ごとに投票する。さらに、有権者、それぞれにたとえば100票を割り当てる。1人1票ではなく、「自分にとって大事な政策への投票には多くの票を投じられる」ようにする。
3.民主主義からの逃走
民主主義を内側から変えようとするのではなく、民主主義を見捨てて外部へと逃げ出してしまうのだ。
地球最後のフロンティアは、世界の海の半分を占める公海だとよく言われる。どの国も支配していない公海の特性を逆手に取って、公海を漂う新国家群を作ろうと言う企てがある。「海上自治都市協会」と呼ばれる新国家設立運動だ。
4.民主主義の構想
必要なのは、民主主義を瀕死に追いやった今日の世界環境を踏まえた民主主義の再発明である。特に、世界と民主主義を食い尽くすようになったアルゴリズム技術環境を逆手に取った選挙の更新だ。
そんな構想として考えたいのが「無意識データ民主主義」だ。無意識民主主義= エビデンスに基づく目的発見 + エビデンスに基づく政策立案 と言える。こうして、選挙は民意を汲み取るための唯一究極の方法ではなく、 エビデンスに基づく目的発見で用いられる数あるデータ源の一つに格下げされる。
意思決定アルゴリズムは不眠不休で働け、多数の論点を同時並行的に処理できる。人間が個々の論点について意識的に考えたり、決めたりする必要が薄れる。「無意識」民主主義たる所以だ。人間の主な役割は、何かおかしい場合に、それに異議を唱え、拒否する門番の役割となる。
どこかに本当にまっさらで透明な「民意」や「一般意思」があるという幻想を捨てる必要がある。私たちにできるのは、選挙やTwitterや監視カメラのような個々のチャネル・センサーへの過度の依存を避け、無数のチャンネルにちょっとずつ依存することで、特定の方向に歪みすぎるのを避けることだけだ。
アルゴリズムが間違いを犯したらどうするのだと思われるかもしれない。だが、人間もしょっちゅう間違いを犯す。叩かれてばかりの政治家や自分自身の日常を振り返れば明らかだ。アルゴリズムより人間が優れていると思い込まなければならない理由は何もない。そして、残念なことになかなか変われない人間と違いアルゴリズムは、猛烈な速度で学習し進化している。
書評
★★★★★
目から鱗が出るような意見の数々で、視野を広げることができる良本。
今の政治に不満を持ってない人は、ごく少数だろう。問題を先延ばしし、既得権益にしがみつく政治家。一方で我々有権者にも問題がある。無関心であったり、ストレスの捌け口かのように政治家をSNSでバッシングしたり。
政治家にも有権者にも共通して言えることは、生産性が低く建設的ではないということだろう。
本書の提案は「常識」で考えるとぶっ飛んでいるものかもしれない。だが閉塞感が蔓延している状況を変えてブレイクスルーできるのは、いつだって異端者と呼ばれたぶっ飛んだ考えと行動なのだ。
投票に行くのが民主主義唯一の意思表示であることは、簡単には変わらない。しかし、本書で書かれているような「革命」が起こったらどうなるんだろうと少しワクワクするような気持ちになる一冊だった。
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