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投稿不採用短歌置き場①

やり直す起点にしたい雑踏にもたれかかった壁のくぼみを

亡くなった叔父のガラケー届けられ食卓の隅にしばらく置かる

看護師に二人がかりで軟膏を塗られるあいだなにかに耐える

街路樹が車窓に流れ重なった女の顔がついに見えない

平日の朝のコンビニレジ横のポットの下にスープ粉散る

ただひとりエレベーターに固まって押す階がまだわからずにいた

病室の窓に朝日新聞社見ゆフロアの端へ歩みゆく人

大学の病院今日も寄る辺なくあまたの事情渦巻いており

野良猫のけんか瞬間極まって無音ののちにまた唸りだす

目に見えぬかぼちゃ浮かんでいるようなボートラ前の長い無音は

プラごみでぱんぱんにした三袋見せびらかしてくだる自転車

スーパーに犬つながれてお互いをなにも知らずにただ見つめ合う

刑務所の作業製品売られたりこくりとひかり放つ革靴

指先に突起をとらえでたらめにシャマラマディンドンなぞる点字を

短歌にはワン・ツー・スリー・フォーがないパンクみたいに叫んでみたい

相槌をうつ(うってない)テーブルの丸い手鏡すごく大きな

通るたび吠えまくってた屋上の犬もついには空に吸われる

自らの身体の中をさすらって墓石の前へたどりつく旅

8時間きょうも1日頑張っていた工事現場の籠の花たち

びしょ濡れのバスのベンチへ空想のハンカチを敷く白いハンカチ

「精算」のボタンの文字が破れてる駐輪場のバイクひきだす

穏やかな話し方する医者(せんせい)のネット口コミ酷評多し

改装の郵便局のポスト周りが板で囲まれ個室の気分

眼科にておおきく映る眼球と目が合うけれど見えない自分

シンナーの香る昭和のMOVIEのマクドナルドの店内暗し

イオンまで5分の道を往復す宇宙のしくみ解き明かすまで

じりじりと近づいてくる二重跳び帽子のつばをついにかすめる

茶の間に安心感を与えたと訃報を受けてアナウンサーは

何枚も印刷された「癌」の字を背に貼りつけて並ぶ図書館

エスカレーターはずっと無人だ降り口にポップコーンがくるくる回る

ひとりでにガードレールがコンと鳴る夜の端まで続くこの道

恋人のまつ毛を蹴って歯科医師の小さな鏡に向けて飛び込む

三千円の本を迷っているうちに涼しくなって気分いいよね?

顔面を殴る強さがわからない一生喧嘩はできそうもない

粉振った白くて丸いパンを見て3階の端まで歩き下まで降りる

現実のタモリというもの永遠につかみきれずに明るい夕方

遠く夜をぽつんと灯るプレハブの中にはだれもいない気がする

二十年近所に見つつはじめての花屋の奥に下る地下あり

帰宅して自分の部屋に「うっ」となり「ああ」となりつつ座りのち寝る

ピンク色の服を着ているおばあさん向こうから来ててのひらに乗る

沈む鳩女との距離公園は日曜のあさ土は湿った

まさか今カラオケ上手くなりたいと思った自分にこみ上げる笑い 

笑ってるカーネル・サンダースの看板の黒い部分を味わっている

挟まれて部屋の扉に丸い目のちいさきヤモリ命あるごと

飛行機の窓に見ている日に汚れ熱い翼に四つ這いのわれ

夢聞かれ子供が答える「ケーキ屋」はいまだこの世に一軒もなく

ケーキより色とりどりのろうそくの細いねじれが心に残った

店先で緑茶を盆の上にのせ勧める人を今日も無視する

熱々の湯豆腐のくず飲み込めば細き喉頭焼きながら過ぐ

先輩のラケット壁に立っていてふと手にとって軽く振ったり

六層だというスイーツの三層しか見て取れず週の真ん中

宝くじ売り場のドアにたっぷりと青いペンキの行くあてなき身

枯葉散る秋のプールはふかみどり鴨の親子のその顔はなに

部屋にいた大きな蜘蛛が数日後折りたたまれて風に吹かれる

小さすぎて神々しい赤ダニを振り向く前に叩き潰した

バースデーケーキはロウソクの味ロウソクは雲にしびれた月の味

床屋から同じ髪型の男たち告白を終えたあとのように

泣き声もなにも聞こえずカーテンの裏に陰茎切除後の夜

うれしいうれしいと鉄柱は細くカステラ色に錆びてゆきたり

迷いなくカゴに入れてた人を真似買った菓子パンなるほど不味い

愛犬にとってわたしは最後までただのご飯をもってくる人

バス停へ道狭まりてぽつぽつとスマホの画面灯るかはたれ

店外で待っていた人どっさりと弁当両手に店を出て行く

歩道への段差に傾ぐ乳母車赤子の首が前から揺れる

腎病院の大部屋に黙々と透析患者らお菓子を食べる

前に立つだれかの傘のたたみ方朝のひかり唾鳩キオスク

方形にラミネートの熱は冷えゴシック体のひらがな一字

転校の初日に50メートル3本走って友達になる

静まった夜の国道できるだけ渡りきらないようにななめに

更新の講習を終え階段の掲示物には顔とまゆげ

バスのなからみる夕陽はめちゃくちゃに鉄橋をぬけ横へ横へ 

筆ペンで買った日付が書いてある昭和の犬のしつけの本に

きみはそれ食べられるのかぼくたちは野菜嫌いだったはずだろう

パチンコと水鉄砲をかいくぐり南へむかうジャンボジェットは

塾のまえ雑におかれた自転車たちは飛行機よりもたかくとぶ 

まひるまの固く乾いた浴槽にきみどり色のくつ下の立つ 

昼下りボート場前バス停にだれもいなくてデヴィッド・リンチ

おにぎりの海苔のかけらが絨毯にひっかかりつつ少し浮いてる

すぐにでも休まなくては公園でキリンジの兄みたいな顔で 

病院にいるがたいのいいサラリーマンはみな同じひとに思える

訓練で強盗役が殺すぞと思わず言ってしっぽが生える

捨てられたビニール傘に雨水と空き缶透けて芝居じみてる

散歩していて気づいたらデパートの中まで右手にあった猫じゃらし

窓からの風に羽音は変わること説明書にはない扇風機

ゆっくりと梨のかけらを飲み込んで微妙に違う顔に戻った

絶えず遠ざかる

砂が舞い粒がとがった日は一日どこにいたとしても惨め

顔面を殴る強さがわからない一生喧嘩はできそうもない

そのあとの話は全て心中に喧嘩の記憶まる子とたまえ

坂道をバスとかけっこして笑う小学生が素に戻る秋

以上。



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