
☕投稿短歌不採用置き場②
信号をまるで離れて病院の影へすっぽり入ってしまえ
6時半イオンのベンチ仄暗く人の出入りに夏が終わろう
シャンデリアに電球ひとつ生きておりむかれた足の皮を照らせり
胸襟をひらきかけたる町蒸して台風あとをしばらく歩く
後方に大声出して盛り上がるライブの客に好感をもつ
図書館の本を開けば割りばしの袋に店名お好み焼きの
ひと月後なくなる店のスタッフの心わからず黙々動く
工場を終えて信号待つ人ら私と比べ生気に満ちる
42
たまにしか書かぬ日記に三ページ使って書いたドアノブのこと
一年をかけて散りたるカレンダーいわさきちひろの淡き色彩
午後二時のペットショップに子犬らのぴんくのおなか膨らむを見る
スーパーに踊る子どもは女子ばかり母無きごときステップを踏む
ヒット曲そこそこ上手いカラオケにげに良質な睡眠を得る
ささくれて眠れない夜ベーコンのポートレートに鬼の面見ゆ
紐を張られた最前席に滲んだ自分を座らせているバス
エレベーター前の自販機が目に入るうれしさ買ったことはなく
ピンホールメガネに虫めがね2枚重ねて見るコルトレーンのサンダル
採光豊かに自動支払機「お大事に」のイントネーション
うら表紙を上にしたまま置いてある少し間があり表に返す
店内の電気が消えたローソンへ 体感が丘を越える感じで
雨降りのモスバーガーのブラインドその一枚の角度が違う
ブライアン・イーノ側にも布団側にもつけず身悶える年明け
石塀に吹きつけられたスプレーのくすんだ色も記憶の中にだけ
騒音と寒さは無関係に存在し遠く地面を打つ音
遠くからスポーツカーがやってきて家が崩され道路が伸びる
アイデアが浮かばないまま買ってきたシュークリームの底が濡れてる
テニスの審判台に座るとき目から太腿までの距離に感じ入る
イオン二階のソファに深く老人のタブレットには将棋が映る
「冬の道を歩けば暖かくなる」「庭にただ立っていると寒い」
からっぽのショーウインドウの白壁に区切られぽかんとドアひとつ
瀬戸物のコップにはさみ近づける(差すときコツンと鳴るんじゃないか)
会釈するシスター握るハンドルのキミドリの軽、車道へすべる
驚いてプールを蹴ったアオサギが奥のあるごとすうっと飛べり
「いぬのきもち」「仏教読本」「宮部みゆき」コインランドリーの本棚的情緒
真夏から便器の内へすべりこむ乾いた白の質感を見る
明日には貨物列車の脱線にふるえた紙の雑誌がとどく
炎昼の郵便受けにかたむいた本の厚みの包みにふれる
でっぱりにぶら下がるときでっぱりに空いてる穴をふさいでる指
レジを待つときいらだちを漏らさないよう眉間の穴を意識している
🍉
手袋をとる必要はあったのか入店のとき「ひとり」と指を
草原にヤカンが爆発するまでを映す昭和の教育テレビ
風船も引っかかる木も女の子も私もいない コロッケがある
アスファルトのはがれた粒を一箇所に集めたのはだれ小山がひとつ
雨が降る予報がどんどんずれ込んでろくなダジャレを思いつかない
制服の女子高生がはま寿司のバックルームへ風のはやさで
つまらなく生きるいまだにこの命収まる箱のリボンも解かず
ひたすらに塩分を恋う紙袋の底に落ちてるマックのポテト
大谷翔平としては野球を頑張る カステラとしてはお菓子を頑張る
悲しみと時間と私追い越してまた追い越されトラック巡る
Shazamから煙出てきてまだ粘るドラムの音が小さな洋楽
以上。