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3-2.変化


 気持ちが、心が、俺について来ない。
いや、俺を置き去りにしていると言うべきなのか。
どんな景色を女と見ても、どんな酒を飲んでも、心が喜ばない。
心が、俺のもとにいない。


 エステティシャンとしてのキャリアをスタートしたばかりの二十一歳の女。
身長150センチ、若さの奔放な愛嬌と気立てのよい気遣いのブレンドが絶妙で、芯にある気の強さが彼女を決して軽く見させないため、おのずと敬意を抱かせる。
これから彼女の人生にも訪れるであろう苦労の中でも、彼女は彼女なりの力で未来を切り開いていくだろうと予測させる素質がある。
それでいて、まだ成熟前のあやうさがその女をとてつもなく美味しそうに見せている。
そして何より、後ろに髪を束ねた丸顔が、吸い付きたくなるほど愛らしい。
この女の人生の二十一歳の時点に、誰もが男根を突き立てたいと思うだろう。

 一度目のデートの別れ際、キスを避けられて頬に口づけし、軽く抱きしめ、手を振って別れた。
その後のやり取りから二度目のデートにいたる流れも、完璧だった。
しかし俺は結局、彼女を抱くのに失敗した。
ある瞬間、瞬間に、俺が本気でないのがバレたのだ。
迷いを、見透かされた。
どんなに完成された夜景を見ても、音楽と照明と調度品と食事と酒のブレンドが絶妙でも、俺の心のどこかが、そこにいない。
彼女と共有するその時間に全身を浸して、楽しんでいない。
どこかで、俺がしているべきなのはこれじゃない、俺がこの景色を一緒に見るべきなのはこの女じゃないという声がする。
全身で彼女を求めていないから、言葉が、体が一瞬こわばる。
それは秒で計る事すらできないほど微かなためらいだ。
それが彼女に警戒心を抱かせる。
オスの求愛行動が十分だと感じられないとき、メスは体をゆだねるのをためらう。
終電間際の赤坂で、俺は彼女を抱きたいと思ったが、それは彼女の愛らしさと肉体に血が引っ張られるようにして求めたのではなく、今夜つくることのできる実績を求めたに過ぎなかった。
俺は本気の口づけも、本気の誘いも、彼女に向けて差し出す事ができなかった。
彼女はもう俺に会わないだろうし、俺はもう彼女に会えない。

 人生において同じ瞬間は二度とない。
ある瞬間におけるまぎれもない真実が、別の瞬間にはまるで通用しない事がある。
状況が変化し、自分自身に置いていかれた時、人にできることと言えば、かつての真実にもとづいて自分自身を再び呼び戻す事ではなく、今ある場所を捨てて自分自身を探しに行き、新たな真実を見つけ出す事だ。
俺があらゆる景色をミエコちゃんと分け合いたいと思った時、俺はその心、その欲望に抗う事はできなかった。
抗う力も、抗う権利もなかった。
自分が自分に対して望んでいる事に逆らうほど、俺は傲慢でも無教養でもない。
そこで俺は自分自身に対してできる限りの誠実な態度で臨もうとした。
つまり、自分自身を理解しようと努めた。

書く力になります、ありがとうございますmm