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16.アンチロマンティック
平野よりもほんの少し早く、山がちなキャンパスの景色が秋の色を見せ始めるころ、夏休みが終わり後期の授業が始まる。
その朝も、いつものように次々とバスが到着し、運んできた若者たちをキャンパスに向けて吐き出していた。
バスターミナルから教室棟へ向かう若者たちの列の中に、イチがいた。
イチは周囲に目を向けることもなく、ひたすらに内部に潜って考えていた。
イチはどうすればよかったのだろう。
あの日、教
15.サティスファクション
フミがイチのことをわからないのと同じぐらい、イチにも自分自身のことがわからなかった。
フミがイチに説明を求めていたとき、イチとしても同じ思いだった。
現状と気持ちをきちんと説明して、フミにわかるように伝えたかった。
ところが、何がどうなっているのかがイチにも全然わからなかったから、何も言えなかった。
イチとしても誰かに説明を要求したいところだった。
このひと夏のあいだ、フミはイチの喜びの源泉
9.2007年デート事情
イチとフミがデートの行く先に困るという事はなかった。
二〇〇〇年代の東京に生きている十九歳の若者が退屈するなど、まったく道理に合わない事だ。
たとえば山。
キャンパスの裏手には東京のほとんどの人々が一度は足を踏み入れた経験がある山がある。
東京という都市は地理上において一個の平面で、その平面の端から、山々が盛り上がっている。
盛り上がっている最初の山に登って見わたせば、東京という平面が一望で