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葛藤を超えて:組織と個人のレジリエンスと成長のダイナミクス
マラソンのトレーニングをしていると、走りが変わったことに気づく瞬間が訪れます。「ああ、こういう動き方をすれば良いんだ」と実感するわけです。それまでは、「こういう風に動かそう」と体の特定の部分を意識しながら走るわけですが、すぐには思うようになりません。頭では分かっていても、身体は今までのままだからです。それでも、意識して繰り返しているうちに、無意識の領域で身体が変わっていき、いつしかできるようになります。
経営も似たようなところがあります。
たとえば、管理職がいつまでもプレーヤー目線でいる、というような問題があるとしましょう。そこで、研修で組織マネジメントを教えたり、人事評価の項目に部下育成を加えたりなどの手を打ちます。そのようにして意識して、問題を変えようと取組むわけですが、すぐには結果がでません。施策を繰り返したり、何度も伝えたりしているうちに、少しずつ何名かの行動が変わって、組織全体に良い影響を及ぼしてゆきます。
大切なのは、意識して手を打ちつつも、無意識の作用にまかせて、変化が起きるのを待つことができるかどうか、です。機械ではなく、人が事業を営んでいるわけです。OSをアップデートしたり、アプリを入れ替えたりすることとは違います。相手の変化を信じて待つことができるかどうか。本人たちも無意識の部分で学び、変化をしていきます。焦らずに、ある意味で結果は手放しつつも、手を差し伸べたり、フィードバックをしたりしていくことが大事です。
再びマラソンに戻ります。
今までできなかった足の運び方ができるようになると、もっと欲が出てきます。それに現状維持のままでは、再び限界が見えてきます。できるようになったその先に、次のできないが現れるのです。その積み重ねによって、私たちは自分でも思いもしなかった境地に立つことになります。
これまた経営も同じですね。
たとえば、グレイナー教授が提唱した「企業の成長モデル」というものがあります。
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詳細な解説は検索すると日本語のものが出てくるので、そちらを参照いただければと思います。
内容をざっくりいうと…
企業の成長は5段階ある
節目ごとに危機があって、それを乗り越える変革(Revolution)によって次の段階に行く
その繰り返しによって組織は進化(Evolution)していく
という内容です。ステージごとに何によって組織が成長し、どんな危機が訪れるのか、論文のなかで詳細に定義されています。
読み返していて、目に飛び込んできたのは、”Realize that solutions breed new problems.”という言葉でした。「解決策が新たな問題を生むことを悟る」ということですね。これは、解決策の副作用のことではありません。節目を越えて、次のステージに行けば、次の課題が見えてきます。そのように変わりつづける組織能力を獲得しなさい、ということです。
私たちは、良くも悪くも変わっていくし、時に矛盾し、葛藤します。それでも進むから、節目が生まれます。これは、人も組織も同じです。無意識での変容を意識的に受け入れ、節目をつくることで、その組織のありようが作られていきます。人の顔も、苦労を重ねた人の方が味わいがありますよね。それに、そういう人には、葛藤を力に変えるレジリエンスがあるものです。
自分の組織が、いまどのような段階にいるのか。いまの課題を乗り越えた先にどんなチャレンジがあるのか。そして、葛藤しながらも変わろうとすることを受け入れるレジリエンスがあるか。時に立ち止まって考えてみましょう。