テクノロジーにはロマンが欲しい
何か、少し寂しい気がしてしまいます。
記事にはこのようにあります。
サッポロビールは日本IBMと連携し、人工知能(AI)を使った缶チューハイの開発を始める。商品のコンセプトを入力するだけで、チューハイのレシピをAIが自動で作成する。レシピの開発時間は半分程度になる。2022年内に本格的に導入し、23年にはAIが開発した商品を販売する考えだ。
ねらいは、「消費者の嗜好が多様化する中での効率化」のようですが、こういうことを「開発」と呼ぶのだろうか、というのが率直な感想です。試行錯誤を重ねる中で発見があり、美味しいものができる。そこが開発する喜びなのではないでしょうか。AIにゆだねてしまうと、自らが世に出す製品に対する思いや物語がありません。
これは、開発というより、「製造」なのかもしれません。レシピを決めてバラツキがないようにしていく過程をAIがサポートしている、ということでしょう。
これが、例えば創薬であれば、AI活用に違和感を感じません。量とスピードで掛け合わせてみることで発見があります。人間では考えつかなかった組み合わせが価値を生むわけです。その効率化がもたらすインパクトは、測りしれません。
しかし、味わうもの、楽しむもの…となると、人間が考えつくことに意味があります。もちろん、コンセプトを考えるのは人間なので、そこに人間らしい創造性があるでしょう。とはいえ、レシピを微妙に変えて、試行錯誤したり、誰かと話し合うことを通じて、コンセプトも育ちます。私たちは、言葉を交わし、解釈を伝え合うことで思いを深めあう存在です。
では、こちらの場合はどうでしょうか。「日本酒ソムリエAI」です。
インターネット上の膨大な言語表現と、人々の香りの感じ方を学習した、香りを言語化するAIシステム「 KAORIUM (カオリウム)」に、日本酒の風味情報とユーザーの1万以上の感性データ、酒ソムリエ・赤星 慶太氏の感性を融合させることで、日本酒ソムリエAIとして進化しました。
日本酒の独特の香りを言葉にするのが、素人には難しい。それを感性情報と日本語表現のデータベース、プロの感性を融合させることで、お酒選びをサポートしています。
KAORIUM for Sakeが導き出すキーワードを見ながら、言葉を意識して味わうことで、今まで感じることのできなかった風味や味わいに気付くことが出来ます。また、十人十色である香りの感じ方を他の人と共有することで、新たな体験を提供します。
この場合、新しいお酒の楽しみ方を「開発」しています。AIの特性と人間らしい感性が組み合わされた素晴らしい商品です。多様化する嗜好に、業務の効率化で応えようとするのとはまるで違います。
効率化を否定するわけではありませんが、やはり、商品開発にはロマンが欲しい。そうでなければ、どんなにテクノロジーが発展しても、本当の意味で豊かにはなれないのではないでしょうか。