ジョブローテーションの進化形:「やってみなはれ」が変革型リーダーを生む
「やってみなはれ」のサントリーならではの施策だと思います。
記事の冒頭に以下の記述があります。
「ジョブ型雇用」とあるのですが、専門性を優先することがジョブ型の目的ではないはずです。会社の中でなんとなく出世していくのではなく、ビジョンをもって仕事をして、自らを磨き、貢献を重ねていくことが本質的な目的です。
記事には修羅場という言葉も出てきます。これは、神戸大名誉教授の金井先生がおっしゃっていることです。優れたリーダーは自らの持論を持っている。それは、修羅場ともいえる経験をし、それを乗り越えたことで生まれる信念のことです。
この記事、これまでもジョブローテーションという考えはあったわけで、何が新しいのだろうと思った方もいると思います。また、記事の出だしのニュアンスもこれまでの考えに戻る…のような書きぶりにも思えます。
これまでのジェネラリスト前提でのジョブローテーションは、営業だけしか知らないのでは経営判断ができないといった考えのものです。各部の立場を踏まえて意思決定をしていくという意味で、調整型のリーダーシップが期待されているようにも思います。あるいは、偉くなればなるほど、種々の提案が各部から上げられるので、その内容を理解するために複数の部署を経験しておくべきだ、くらいのことなのかもしれません。
もちろん、それではこれから生き残れないといった危機感はどの企業でも大きくなっています。現状に満足せずに、変えていこうとチャレンジする変革型のリーダーが求められています。すなわち「やってみなはれ」ですね。サントリーの場合は、この組織風土があるのが大きいように思います。「10年3職場のジョブローテーション」をやろうとしているのではなく、自らもがき変わろうとする「やってみなはれ」を仕組み化したのではないでしょうか。
同じ仕事をやり続ける、たとえば、ずっと営業の仕事だけをやることで、その分野の仕事に熟達することはできます。それが、実際、大きな貢献になることもあります。その結果、より大きな貢献が求められるようになります。自部署だけでなく、他部署と連携するような仕事がそうです。だから、他部署も経験した方が良い。他を知らないと偏った見方になるからです。加えて、どの職場に行っても求められる汎用的な力も高まります。課題設定力や実行力、他者と共同するコミュニケーション力などです。
繰り返しになりますが、これが今までのジョブローテション論でしょう。ここへ「やってみなはれ」が入っているというわけです。自らもがき続けることで、自分でも想定しなかったような成果が得られたり、もがくことが苦しみではなく、ある種の楽しみになっている状態を目指しているように感じました。
鶏か卵か…のようになってしまいますが、「やってみなはれ」という組織風土がない中でこの施策を表面的に真似るとどうなるでしょうか。若手に異動を伝える上司は「きっと勉強になるから」程度のことしか言えないはずです。修羅場を経て、自らの仕事のあり方、信念を言語化できてない、つまり、持論のない上司から何を言われても説得力がないように思います。加えて、自分の部署の戦力である部下を異動させたくないというマネジャーもいます。
若手というよりも、ミドルマネジャーが現状を変えようともがく機会がセットになっているかどうかも見ていく必要があるように思いました。