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エンジョイ・ヘル!【Wuah日報】

ノワールというジャンルがある。ココアビスケットでバニラクリームを挟んだオレオ的なアレではない。それはそれで美味しいし牛乳と一緒に食すと最高だが、ここでいいたいのはフィルムノワールパルプノワールといったジャンルの作品群だ!

ノワールは日本語で言うと暗黒モノ。フィルムノワールなら暗黒映画で、パルプノワールなら暗黒小説。社会や人間の暗部──犯罪や裏社会を描いた作品のことだ。

ただでさえ日常生活が地獄だってのに、そんな、犯罪や裏社会とか、そんな、ダークで重そうな作品読みたくないよ!と泣きじゃくる人もいらっしゃるだろうが、そんな御仁にこそ見てもらいたい!きっと、最高の体験ができるはずだ!

たとえば戦後!満足に物がなく、食べるものにすら困った時代…カストリ雑誌というものが流行った。雑誌のクセに3号も続かないという理由から「カストリ」と呼ばれた(諸説あり)なこの雑誌、主に載っていたのはエロ・グロ・ナンセンス!不倫や犯罪や猟奇の世界だ!

オレは戦後の時代を生きていないが、オレのばーちゃんは戦争を生き抜いたグレートなババアだった。そんなばーちゃんから聞いたところによると、戦後のモノを食えねえ状況は相当ヤバかったらしい。こんな飽食の時代に生まれたオレには「絶対に理解できない」とまで言われたくらいだ。

まあ、一言でいえば地獄!そんな地獄の時代において、人々が求めたものがカストリ!エロ・グロ・ナンセンス!地獄の時代にあって、地獄の様相に娯楽を求めたわけだ。

──それは何故か?

常識を破壊してくれるからだ!たいていの地獄は、今の時代が壊れることから生まれる。戦争終結によって戦時中という時代は壊されたし、平成末期の今、昭和に作り上げた日本が壊されていっている。カストリ!エロ・グロ・ナンセンス!

そんな中、前時代の常識にこだわっていると、超キツイ。地獄としか思えない。しかし、前時代のクソみたいな常識にこだわらなかったらどうだろう?これがもう、ウッヒャウッヒャ、楽しくなってきちゃうことウケアイよ!

たとえばノワール小説のひとつ「Mr.クイン」の主人公、Mr.クインは犯罪プランナー。フツーこういう悪役が主人公だと、「ネズミ小僧」とか「ルパン三世」みたく、義賊的なものか、より強大な悪に立ち向かう…というものを想像しちゃうでしょ?…でも彼ったら、どっからどうみても善人ばかり陥れていくからね。それでいて、読み口にユーモアが溢れているので憎めない!それどころか感情移入しちゃう。このアンビバレンツな感覚が、我々の常識を揺り動かすわけだ!今こだわっている常識に、本当に守る意味があるのか!?と。

あるいはノワール小説のひとつ「ポップ1280」の主人公、保安官ニックは自分勝手に殺人を繰り返すどうしようもないヤツだ。しかし、彼はブラックユーモアに包まれている。だから憎めない!悩みがあるから飯が食えない…なんてのたまうから大層な悩み化と思いきや、大量の飯を食おうとして全部食べられなかった…などとほざきやがる。憎めない。愛すべきクソサイコ野郎。常識でははかれない。だから我々の常識を揺り動かすわけだ!今こだわっている常識に、本当に守る意味があるのか!?と。

だってさー、なんか日ごろこだわっている常識って、よくわからないけど前からそうだったから守らないといけない的なルール、多くない?たとえば、「箸で食べ物をフォークのように刺しちゃダメ」とか。今から、ゼロから箸という道具を発明し、ルールを作るとして、同じルールになるのかね?だって箸で刺して食った方が便利な食い物とか沢山あるぜ?里芋の煮っころがしとか、冬至カボチャとか。あ。マッシュポテトは刺して食えないな。あれは刺して食っちゃだめだ。食いにくいから。

いや、なんだその、オレもこれが箸じゃなくて横断歩道とかだったらわかるんだぜ?事故らないために車と歩行者が交互に通行するようにしましょう…ってルールになる可能性はまあ、高い。でも箸はどうなのよ?同じルールになるのかね?

そういうものを「クソだな」と笑い飛ばしてくれる渇いた感覚が、ノワールにはある。ビールでも飲みながら読むことで、地獄をエンジョイできる破壊の力を与えてくれるわけだ。

…だから頼むよ…「ポップ1280」と「キラー・インサイド・ミー」と「Mr.クイン」と「ストレートタイム」、電子書籍化してくれませんかね…?やっぱノワール小説は手放すべきじゃねえな…。

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