パーパス、ビジョン、ミッション、バリューの定義
~ 理念策定のモヤモヤがスッキリするロジカルな企業理念の考え方 ~
企業理念策定の課題
企業理念の重要性についてはもう語るまでもないですけど、どうしても策定時に悩むのがその「定義」です。ビジョン、ミッション、バリュー、近年ではパーパスという概念を重視する企業も増え、それぞれの定義はもちろん、序列、体系、名称など、言語化以前にクリアにすべき課題は少なくありません。
【1】一般的な理念体系の考え方
一般的な理念項目
一般的な企業理念体系における理念項目は、(当方が考える)序列的に下記の4つが挙げられます。
パーパス (P)
ビジョン (V)
ミッション(M)
バリュー (V)
※以降本稿では適宜「P、V、M、V」と表記します。
最も多いのはMVVからなる3項目体系かとですけど、近年は米資産運用会社CEOの書簡(※)をきっかけに注目され企業も重視しはじめた「パーパス」を含めた、下記3つのパターンが挙げられます。
MVV=ミッション>ビジョン>バリューという3項目体系(VMVを含む)
ビジョンやミッションの「代わり」にパーパスを掲げる体系
MVV3項目に、序列はさまざまながら、パーパスを「加えた」4項目体系
また、それぞれのざっくりな定義は、下記のような解釈が一般的とされています。
パーパス :社会的な存在意義
ビジョン :目指す目標/あるべき姿
ミッション:果たすべき使命/責務
バリュー :行動指針/姿勢/価値基準
あわせて、英疑問詞での定義もよく目にします。
パーパス :Why … なぜ(存在するか)
ビジョン :Where … どこ(に向かうか)
ミッション:What … なに(をするか/になるか)
バリュー :How … どう(やるか)
これらを表にしてみます。
そもそも悩ましい定義
一見、整理されているようで、実際の現場では以下のような疑問が生じることも、チラホラあります。
パーパス=存在意義って、他にも当てはまるんじゃね? ってか「目的」って意味なんじゃね?
ビジョンやミッションも、社会的なんじゃね? ってかパーパスも含めて違いが分かんなくね?
バリューって価値だから、特長なんじゃね? ってか指針や姿勢ならポリシーとかなんじゃね?
そもそも企業理念って、「何に言及すべきか」っていう大前提から議論した方がよくなくね?
誠におっしゃるとおりで(誰?)、プロジェクトのキモとなるワーディング以前に、そもそもの定義が悩ましいため、その議論だけで数カ月も要しちまうなんてことは、よくある話なんですよね、これが。
【2】なぜ理念体系の定義は悩ましいのか
定義を悩ませるポイント
なぜ、企業理念の定義は悩ましいのでしょう。そのポイントは、おおよそ下記のように思われます。
①「序列」が変わることがある
②「理念項目名」が変わることがある
③「定義」が変わることがある
④「定義の解釈」の違いが分かりづらい
⑤「パーパス」が含まれないことがある
以上のような点が、企業理念の定義を混乱させる要因になっています。
ドラッカーに立ち返る
そこでドラッカー(※)です。いわずと知れた経営理念などの提唱者でありマネジメントの父、企業理念における偉大なる我らがパイセンです。
そんなドラッカーが考える、それぞれの理念項目における定義は、ざっくり下記のとおりです。
パーパス :想い(社会に対する根本的な考え/経営理念)
ミッション:行動(社会で実現したいこと)
ビジョン :結果(ミッション実現後の状態)
※参考:「ドラッカー5つの質問」 および 同書の参考原書
現場ではまるっきり反対の解釈
一見パーパス(文献によって経営理念やマネジメントフィロソフィ)は、構成的には上部なので「上位」とされがちですが、「パーパス=想いが出発点」と提唱されているとおり、向き=ベクトル的には上から下なので、パーパスは出発点=「下位」、つまり実際は図版のように逆三角形の体系なのです。
ところが、タテに並べると構成的にはパーパスが上部に位置するせいで、現場ではまるっきり反対の正三角形での体系で解釈されるケースが、実は少なくありません。
パーパスを掲げない場合、残った順にミッション→ビジョンとなり、そこにバリューが加わって、いわゆるMVV体系になります。もちろん、企業は意図してこの体系を採択しているはずなので悪いワケではないのですが、ミッションが最上位にされる理由は、そんな解釈も影響しているのかもしれません。
定義を悩ます3つのポイント
つまるところ、企業理念の定義を悩ませるポイントは、下記の3つに集約されると思われます。
概して企業理念の策定は「定義付け」「言語化」と大別されますけど、もし関係者間で前者の認識が当初からスムーズに一致されていれば、体感値的ですけど、策定の負荷って半分ぐらいにまで軽減されるような気がします、いやマジで。これは決して大げさではなく、それほど定義付けってムズイのです。
まあひとまずのところ、定義を悩ませる全体像が見えたところで、上記3つの悩ませポイントを足がかりに、いよいよ次章では「ロジカルな視点」で企業理念の定義をスッキリと整理していきましょう。
【3】ロジカルな理念体系の考え方
理念体系をロジカルに整理
さて、やっと本丸の理念体系のロジカルな整理です。「序列」「定義」「役割」と、前章で挙げた悩ましい3つのポイントを分かりやすく論理的に、すなわちロジカルな考え方で整理していきましょう。
理念項目/意味/焦点/時間軸
上記の表組を元に、4つの理念項目の関係性をロジカルな考え方で整理すると、こげんなカンジです。
序列:➍価値観を重んじた → ➌公約を掲げ → ➋理想を抱いて → ➊結果にいたる
定義:➍ ➌のための価値観 → ➌ ➋のための公約 → ➋ ➊への理想 → ➊最終的な結果
役割:➍を遵守して → ➌を達成すると → ➋に到達して → ➊の結果にいたる
表組+テキスト解説ではちょいとまだ限界があるので、上記の表組に「4大因子」「問い」「答え」を加え、一枚の図版に落とし込んだ完全版をご覧ください。感覚的に理解しやすくなると思われます。
では、上記の図版の、とくに右側の「時間軸」「問い」「答え」について、それぞれ解説します。
どうでしょう。従来の考え方を踏襲というかリスペクトしながら「序列/定義/役割」「時間軸/問い/答え」をロジカルな考え方で整理すると、それぞれの定義が明確になり、手前ミソですけど、たった一枚の図版でも、なかなかどーして分かりやすくなった気がします(なので完全版と冠しています)。
【4】定義以外の6つのモヤモヤ
まだある理念体系のモヤモヤ
めでたく前章で結論づけたいところですが、定義がクリアになってもなお、それ以外にもまだモヤモヤがいくつか残っているんですよね、理念策定の現場には。とはいえ、これらまでをも以下に整理するので、本稿を読み終わるころには、アナタもついに理念体系マスターの称号を得られるハズです(謎)。
「定義以外」のモヤモヤは全部で6つ。それでは1つずつ、あくまでロジカルに整理していきましょう。
モヤモヤ➊|理念という概念
ロジカルな考え方:理念とは「理想」
「理念」は、字引によると「1)物事の根本的な考え 2)最高の理想的概念」とあるとおり「理想」とほぼ同義。理「念」とするからムズカシク構えてしまい認識がバラけるのであって、当初から理「想」とやさしく定義して意思統一をはかれば、その後の混乱が避けられる。つまり、企業理念とは「企業としての理想」である(本稿ではまずは現場で最も使われているであろう「理念」と表記)。
参考:デジタル大辞泉
モヤモヤ➋|言及内容
ロジカルな考え方:企業理念で語るべきは「社会貢献」
広く認知されているとおり、企業の責務とは社会的責任(CSR)を果たすことに他ならない。パーパス、ビジョン、ミッション、バリューで語るべきそれぞれの役割、あるいはそれぞれの理念項目の名称(ラベル)や定義に厳密な決まりや制限はないが、いずれにせよ全体として「どんな社会貢献をするか」という点に言及されていることが望ましい。
参考:厚生労働省
モヤモヤ➌|体系パターン
ロジカルな考え方:理念体系のパターンは「4つ」
代表的な理念体系のパターンは、➊3つの項目での構成、➋同2つの項目、➌同1つの項目、➍同4つの項目と、おおよそ4パターンに大別。オーソドックスなVMV(MVV)を基本に、それぞれの理念項目のマージや割愛、パーパスを追加するパターンなど。「パーパスを経営理念や哲学」「ビジョンを未来像やドリーム」など、名称(ラベル)が変わることも多い(なので理念策定はとても混乱しやすい)。
モヤモヤ➍|スローガンなど
ロジカルな考え方:「スローガン」「タグライン」「キャッチコピー」の基準
理念策定の際によく議論に挙がるのがスローガンやタグライン。これらはあくまで「ワーディング的な用語」として、4つの理念項目とは区別する。制作する際は下記のパターンのいずれか、つまりは、
パーパス/ビジョン/ミッション/バリューを転用する
パーパス/ビジョン/ミッション/バリューから制作する
とするのが望ましい。大切なのは企業理念策定に付随するスローガンやタグラインは、PVMVが言語化されていることが前提。ちなみにキャッチコピーは、機能的には喚起、用途的には販促向きのため、厳密には用いない(機能や用途が合っていれば、キャッチコピーと呼称するのはぶっちゃけ自由)。
※参考:ブランディングの関連用語@拙著ブログ
モヤモヤ➎|社会的かどうか
ロジカルな考え方:「社会的かどうか」の基準
▼表組A
▼図版B
そもそも4つ(あるいはVMVなど3つ)の理念項目からなる集合体としての企業理念は、前述のとおり社会貢献に言及するものであり、すべては社会的といえる。とはいえ「焦点」(対象)で考えれば、
➊パーパスと➋ビジョン ⇒ 公的 / 社会的
➌ミッションと➍バリュー ⇒ 商的 / ビズ的
と、図版Bのヨコ軸上段のように➊パーパスと➋ビジョンがより社会的、同下段➍バリューと➌ミッションがより商業(ビジネス)的といえる。ちなみに、タテ軸で考えれば、左軸の➊パーパスと➍バリューが個人的、右軸の➋ビジョンと➌ミッションが複数的といえる。
モヤモヤ➏|存在意義
ロジカルな考え方:「ビジョンは存在意義ではない」とする判定基準
前提として、元来パーパスは存在意義のため判定は○、バリューはビジョンやミッションに優先されるため存在意義になるケースは少ないので判定は△となる。以上を前提に、基本的に表組の左から5列目の「ロジカルな解釈」で考えれば、それぞれ4つの理念項目が存在意義かどうかは自然に判定できる。
それでもなお、その違いが混同されがちな「ビジョン」と「ミッション」における「存在意義かどうか」に対する判定は、メジャーリーガーの大谷選手を例にして考えると、上記表組の右側のように、
「ビジョン」は存在意義ではない
とするのが自然な解釈といえる。
以上、これら6つのモヤモヤもロジカルな考え方で判断すれば、理念策定でありがちな混乱ポイントに悩むことなく、ブレない定義で本来の言語化のステップへと議論を進めることができると思われます。
【5】パーパスの考え方
パーパスはあってもなくても成立
パーパスを含めた理念体系、要するにパーパスを策定する場合、詳説してきたロジカルな定義で考えればあまり悩まず整理できると思われますが、そもそもなぜパーパスがない従来的なVMV(MVV)でも、あるいは新解釈的なPVMVでもそれぞれ成立するのか、両者をドライブの例で解説しましょう。
VMVをドライブに例える
従来的なVMV体系であれば、下位から上位に向かって、
バリュー :社員がそこに行きたいと思う=思う/決める
ミッション:会社が交通手段を決める=行動する
ビジョン :会社と社員が目的地の景色を想像する=ワクワクする
とすると理解しやすい。従来的なVMVでは、最上位となるビジョン=「(ワクワクする)目的地に言及するだけ」でも、体系的には成立する(ミッション=手段や行動を重視するならMVV)。
PVMVをドライブに例える
一方、新解釈的なPVMV体系であれば、従来的なVMVの最上位にPが加わり、
バリュー :社員がそこに行きたいと思う=思う/決める
ミッション:会社が交通手段を決める=行動する
ビジョン :会社と社員が目的地の景色を想像する=ワクワクする
パーパス :(会社というより)社員が目的地で過ごす幸せな人を想う(自分も満たされる)
とすると理解しやすい。新解釈的なPVMVでは、ビジョン=目的地に着いた「結果」、パーパス=「その先で過ごす人にまで言及する」ことでパーパスが最上位となり、体系的にも成立する(ミッション=手段や行動をビジョン=目的地よりも上位とするならPMVV)。
4大幸福を語るのがパーパス
あくまでも「目的地の景色であるビジョン」に対し、「その先で過ごす幸せな人(の状態)がパーパス」と解釈すれば自然です。つまるところ、世界や社会などの集団ではなく、その先で過ごす「一個人の幸せ」に言及することが、最も理想的なパーパスだと当方は考えます。そして人の幸せとは、
というように、これらの4つに集約され、さらに4つの理念項目に落とし込むならば、
というように、そのとらえ方によってPVMVそれぞれの名称、つまり各ラベルを後付けで貼り付けていくのが理想的で、「パーパスとは、ビジョンとは、ミッションとは」的に、ラベルありきではなく、
という視点で当初から議論するのが理想的かもしれません。とはいえ一概に収まらないのがパーパスや企業理念の策定であり、ここまで詳説してきてアレですけど(汗)、定義や体系などの型にはめることより、まずは企業の想いを理念に落とし込むことが、企業理念策定では優先されるべきことでしょう。
【6】企業理念という理想の世界線
理念策定で重んじること
最終章に身も蓋もないのですけど、ここまで詳説したロジカルな考え方「だけ」でPVMV体系を策定したケースは残念ながら実は未だ一度もありません(汗)。まあ、正確にはロジカルな考え方を適所に踏まえ、場合によってPの要素も加えながら、MVVやVMVを策定してきた、というのが実情です。
理由は明白で各社の想いの違いに尽きるからで、それが正解と考えます。ぶっちゃけ今回のようなロジカルな体系より、それを凌駕するパッションや想いを重んじるべきでしょう。万一、何らかの大人事情で想いなき策定を強いられたなら、「こげんな考えもありまっせ」的にそっと進言するスタンスです。
企業理念とはアファメーション
企業理念とは未来への理想という、ある意味スピリチュアルではないですが、空想世界=理想の世界線を引き寄せるための企業におけるアファメーション=言霊を乗せた宣言であり、その想いは定義や体系といったロジックよりも尊重されるべきです。いずれにせよ、ロジカルな体系でも、そうでなくても、
そんな自負のもと、理念策定における少なくない実績と𝕏(旧Twitter)で660社以上(24年7月29日現在)の企業コピーを因数分解してきた知見で、理念策定プロジェクトに最後まで伴走するという、本稿における理念を、ここに宣言します。
※企業理念、経営理念、MVV、パーパス、フィロソフィ、クレド、タグライン、スローガンなどの言語化やワーディング、その定義、名称付け、壁打ちまで、ざっくばらんにお悩みをお聞かせください。
⇒ 問い合わせはこちらから。
(了)
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