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動物病院のカルテ どうぶつの歯医者

「先生、この子の右上の奥歯を見てください」

そう言われて、羽尾先生はミニチュア・ダックスフントの口を開けて、よく中を見ようとしました。

「ギャン!」

突如激しく怒って噛みついてきたのを、間一髪手を引っ込めたので、ギリギリ難を逃れました。
「大丈夫ですか?この子噛みますよ」
と、よくやるなぁ、という表情で言われました。

(先に言ってくださいよ)
そう思いながらも苦笑いしながら、
「そうなんですね、口が痛くてさらに気がたっているのかな?」
などと言うしかない羽尾先生。

実は羽尾先生の動物病院は、犬や猫の歯医者さんも請け負っているのです。
どうぶつたちは自分で歯を磨かないため、歯周病がとっても多いのです。
口が痛いのはなかなか辛くて、お腹が減っているのに食べられないという、本当に可哀想な状況です。
そういう子達は、治療をすると物凄く美味しそうに食べられるようになるため、ご家族はとても喜びます。

「なんか表情が変なんです」
と言って連れてこられたジャックラッセルテリア。
夕方には元気に枝で遊んでいたのですが、その後夕食を与えても食べません。
「普段は数秒でご飯を食べ終えるはずなのに」と、とても心配そうです。

(表情が変って、何だろう?)
こんな主訴は初めて聞きます。
そう思いながら見てみると、確かに何か言いたそうな、なんとも情けない表情に見えます。
体温を測ったり聴診をしたりしても、特に異常はありません。
そして口の中を見てみると、なんと右の奥歯の内側から左の奥歯の内側にかけて、橋渡しをするように木の枝が挟まっていました。

まさに、奥歯に物が挟まった、表情でした。

「よかったねー、あなたが野生の犬だったら、これで食べれなくなって助からなかったよ!」
ご家族はとても喜んでいます。
当のジャックラッセルテリアも、枝を取ってもらって生き生きとした表情になりました。
「先生、やっぱり歯って大事ですね!」
とニコニコしながら言われた羽尾先生は、
(歯とは少し違うんだけどな)
と思いつつ、
「そうですね!」
やはりニコニコしながら答えました。
いずれにしても、食べられるのは大事なのです。


#いい歯のために

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