中森明菜「月華」
「月華」
作詞: 松井五郎 作曲: 梶原秀剛 編曲: 松本晃彦
1994年10月5日発売のシングル曲。
同時期のヒット曲は、
篠原涼子 with T.KOMURO「恋しさとせつなさと心強さと」、
大黒摩季「永遠の夢に向かって」、
T-BOLAN「マリア」、森高千里「素敵な誕生日」、
槇原敬之「SPY」、SMAP「がんばりましょう」、
奥田民生「愛のために」、松任谷由実「春よ、来い」等々。
ビーイング系ミュージシャンの台頭に、小室哲哉氏が狼煙を上げ始めた時期。
男女それぞれのミュージシャンが均衡し合った、
バランスのいい時代だった。
この時期にリリースしたこの楽曲は、平成版「天城越え」のような、イントロから情念に満ち溢れた、中森明菜渾身の一曲。
上記「天城越え」のような演歌・歌謡曲のようなメロディーラインながら、
松本氏の厚みのあるバンドサウンド。
そのところどころに日本楽器の音色を織り込んだアレンジのおかげで、
「DESIRE-情熱-」、「二人静~天川伝説殺人事件より~」以来、
彼女が醸し出すネオ・ジャパニズムの世界が、見事に形成されている。
松井氏の、中森明菜に宛てたかのような世界観の詩もまた、素晴らしい。
当時派手にCMを流していた、今はなき「ブティックJOY(ジュエリーマキの姉妹ブランド)」のCMソングに抜擢されたこともあり、
オリコン最高位8位、Top100に7週在位と好記録を見せ、久々に明菜の存在感を示すことができた。
「Everlasting Love / NOT CRAZY TO ME」(最高位10位)以来のTop10入り。
ここから「Rojo -Tierra - 」までの実に20年間、Top10から遠ざかる訳なのだが…
彼女の中低音域の歌声が非常に映えるアレンジ。
大人の雰囲気満載で、かつ彼女らしい身を削るような絶唱。
とにもかくにも、妖艶で切なく情熱的。
それでいてどこかドライでクールな印象。
楽曲のドラマティックな世界を更に鮮やかに彩り、
広がりを持たせている。
この頃の彼女は声質も安定している。
低音部分のメロディーの調整も自由自在に操りつつ、高音も伸びやか。
この曲は、やはり中森明菜しか歌えない。
もはや中森明菜は、その名の楽器。
年を経てこそ、より重厚な輝きを増す名器と言っても過言ではない。
個人的には、
テレビ朝日系「ミュージックステーション」のスペシャル版において、40度近くの高熱を出しながらも出演し、思うように声の出ない悔しさを表情に出しながら披露した絶唱が忘れられない。
もちろん、賛否両論あるパフォーマンスだったとは思う。
この人こそ、とんでもない本物のエンターティナーだ、と改めて僕に衝撃を与えたシーンだった。
なお、この曲はカラオケで歌えばとても気持ちのいい、日本の歌謡曲らしい一曲。
明菜のようにビブラートをビンビンに響かせると、メロディラインも綺麗であることもいい方向に影響し、とにかくスッキリとする。
(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)