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中森明菜「サザン・ウインド」

「サザン・ウインド」
作詞:来生えつこ 作曲:玉置浩二 編曲:瀬尾一三

1984年4月11日発売の8枚目のシングル曲。

同時期のヒット曲は、
チェッカーズ「涙のリクエスト」「ギザギザハートの子守唄」
「哀しくてジェラシー」(3曲同時Top10入り!!)、
吉川晃司「モニカ」、小泉今日子「渚のはいから人魚」、
中原めいこ「君たちキウイ・パパイア・マンゴーだね。」、
オフコース「君が、嘘を、ついた」、松田聖子「時間の国のアリス」、
安全地帯「ワインレッドの心」、シブがき隊「喝!」等々。

とんでもないブームを起こしたチェッカーズが登場したこの時代。
少しずつチャートにも変化が訪れ始め、
男性アーティストの台頭が目立つようになった。
上述以外では、サザンオールスターズ、THE ALFEE(当時はアルフィー)、
C-C-B、杉山清貴&オメガトライブ、TUBE等である。
チャート上でも彼らがNo.1を取るのが普通になってきた。

ライバルと言われていた松田聖子氏とよりも、
チャート上での明菜にとっては、彼らとの激戦がこの辺りから始まった。
その空気を意識してだろうか、
アーティスト路線への移行が少しずつ鮮明になってきた。
歌唱力が安定し始めたこの時期だから、
その路線変更もよしとできたのだろう。

シンセドラムがバシバシ響き渡り、80年代中盤の香りがみっちりと漂う。
それでも安っぽくならずに、地中海か南国辺りのリゾート感と、だからこそ起こりがちな危うい出来事を存分に想像させるスリリングさも兼ね備えたこだわりの効いたアレンジは見事だ。
編曲の瀬尾氏は中島みゆき氏、および後に工藤静香氏の中島みゆき作品の多くを手掛けた編曲家。
流石の仕上がりである。

そして若さ故のアバンチュールを想像させる大人びた歌詞もまた、
デビュー直後のバラード三部作を担当した来生えつこ氏の、シンガーとして女性として成長した明菜への挑戦と見て取れる。
20歳に満たない幼さの中に潜む女性の色気を兼ね備えた、アンバランスな世代であった当時の彼女にこの作品はピッタリはまった。

何より特筆すべきは、玉置浩二氏の曲だ。
彼女のシンガーとしての実力をしっかりと把握した、非常にメロディアスな作品になっている。
彼が安全地帯としてブレイクしたのはちょうどこの時期で、多分曲の依頼は歌番組で共演する以前のことだったのだろうが、明るいイメージという彼女の新たな世界を見事に発掘したのは素晴らしいの一言だ。
この後にも彼は、明菜への楽曲提供を時々行っている。
きっと二人には通じるものが多く、だからこそ彼女の魅力を引き出せたのだろう。

前作「北ウイング」の頃から使い始めたウィスパー歌唱が、この作品ではより一層上達している。
ため息風の発声なのに、音がきちんと取れている。
そして彼女得意の緩急の切り替えもとても自然で、瑞々しい。
少し鼻にかかった歌声も、軽快なリズムに乗ってとても心地よい。

そして「北ウイング」では機上の人だった明菜が、遂に世界旅行へと足を踏み入れた曲だ。
リゾート地という具体的なイメージの湧く地に、初めて降り立ったのだ。
後に続く旅情シリーズへの確信を得た作品と言っても過言ではないだろう。
何よりこの曲を歌番組で歌う彼女は笑顔が多かった。
曲のイメージに合ったセットもとても爽やかで凝ったものが多く、とても楽しかったのだろう。

また、元々バレエ経験がある彼女らしい、しなやかな身体の動きや足さばきが、この曲辺りから前面に出始めてきた。
どこか憂いを帯びた歌声とその若々しい表情や仕草で、年齢相応のリアルな彼女を見せた曲がやっと出てきたと言ってもいいと思う。

なお、上述の通りオリジナル曲はその時代を反映したアレンジであるが、後のアコースティックライブ「Empress」で披露したバージョンは、大分テンポを落とした、とても大人びたアレンジになっている。
作品が良ければ、アレンジ次第で何度も生まれ変わるという、いい例だろう。

さてこの曲は割と高音域で安定し高低の差が狭い。
「中森明菜」というイメージに付きまとうロングビブラートもこの曲は殆どないので、自分のキーにさえ合わせればカラオケでも歌いやすい部類に入る。
新興アーティストにやや押されて1位在位は少なかったものの、
累積セールスはオリコン年間10位なので、大ヒットと言える。
そしてファン以外でも、この曲は好きという人は結構いる。
40年経ってもなお、夏の定番として押さえておいていい曲だ。

(※この文章は、作者本人が運営していたSSブログ(So-netブログ)から転記し加筆修正したものです。)


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