「電力会社の憂鬱」第16話
砂上の楼閣
夢子は赤坂に向けてタクシーを飛ばしていた。
時間はもう11時。
村田支社長が待ちくたびれているはずだ。
ホテルのロビーに着くと、いつもの観光客や家族づれがたむろする時間でないことはすぐにわかった。
初老の男性と若い女性のカップル、一見恋人同士、中には酔客がクロークの女性を口説いたりしていた。
「東京の恥部」と呟きながら、夢子はエレベーターでトップラウンジに向かった。トップラウンジに入ると、ダンディーな後ろ姿で、座っている村田が判別できた。
「支社長、遅くなって申し訳ありません。」
と夢子。
「おお、ご苦労さん。暑かっただろう。何か飲むか?」
「ありがとうございます。喉乾きました。
紹興酒を飲み過ぎたので、コークハイを頂いてよろしいですか?」
村田はコークハイと自分のウイスキーをロックで注文した。
「で、成果は?」
「はい。なかなか面白い話を聞けましたよ。」
と言いながら、夢子はコークハイを一気に飲み干した。
村田は自分のカバンから、最新の大き目のデスクトップパソコンを取り出し、カウンターで開けた。
「メールサービスが始まって、パソコンを支給してくれるのはいいが、もう少し小さいものはないのかな。重たくてかなわんよ。」
村田は宛名に小村社長を選択し、本文を打ち始めた。
夢子に横で見ていてくれということなので、自然と顔が近づいて行った。
気がつくと酔っていたせいもあり、夢子の体は村田にもたれ掛かっていた。
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