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Essay01|『色気』ない風潮、今こそ世阿弥を思い出して。

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『秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず。』

室町時代に、将軍・足利義満の寵愛を受けながら、「能」を大成した世阿弥。彼が遺した能楽書「風姿花伝」にある言葉に『秘すれば花なり、秘せずは花なるべからず。』というものがあります。
あまりにも有名な言葉ですから、ご存じの方も多いことでしょうけれども、「何でも表に明らかにすることで、そのもの自体の価値がなくなる。」=隠すことによって価値が生まれ・維持することができる、という意味です。

私はこの言葉が大好きで、座右の銘に掲げており、そもそも『色気』たるものは、まさに『秘すれば花』そのものなのではないか、と考えています。
というわけで今回は『色気』を主題に、ひとつしたためてまいります。


『色気』あるお客さまに出会えた、これまでの経験より

近ごろ見聞きするメディアや、「大人」たちの会話、世間そのものには、『すべてを白日の下に晒してやろう』という風潮を強く感じます。
それは当然のごとく若者・ティーンエイジャーたちにも受け継がれ、つまりは世の中そのものが、色気も何もないようなものを「わかりやすさ」とはき違えているようで、心寂しく思うばかりです。なんとも不粋なものですね。

私が「夜間飛行」を開店する以前に勤めておりましたBARや料亭には、現代の風潮とはまったく相反する、『秘するは美なり』というようなお客さまがたくさんいらっしゃいました。
直接的な言語化や、明確化された表記、機械的な表現は、元来の日本人としての美しさとはちがうものだ、ということをさまざまな視点から教えていただきながら、日々を過ごしました。それは毎日のお店での会話はもちろん、休日に連れ出していただいた演劇や舞台、美術館でのお話にも由りますし、兎に角いろいろなものを見せていただきました。
人間はこれまでに出会ってきた人間によって象られるものである、というのが私の持論でございますから、つまりは私の思惟それらは、そういった『色気』に溢れたお客さま方によって現在に至っております。



『色気』を手に入れるためには『秘すること』

こと恋愛に関しましても、『色気』のある人こそ魅力的であるというのは、私の個人的な思惟かもわかりませんが、あながち間違ってはいないことでしょう(笑)。
見目麗しさというものも確かな魅力ではあるものの、人間はいずれは年老いていくもの。「20歳の見目麗しさ」が永遠に続くことなど、ありえません。
されど『色気』なるものは、つまり『秘するもの』なるものは、永遠に持つことができるものでありますし、年齢を重ねれば重ねるだけ尚のこと増してゆくものです。『色気』に勝るものが、果たしてどこにありましょうか。

『秘すること』が『色気』であるならば、それはきっと「謎めいた雰囲気」を常に身に纏い、「言語化はできないけれど惹きつけられる部分」を持ち、「言語化することが難しく、憚られるような説得力」を感じる人、その人が『色気』ある人というものかもしれません。

〇見えないものにこそ大義を抱き、あえて「見えない状態」のままで置くこと。
〇聞こえたもの・見えたものすべてを、明瞭な主題として扱わないこと。
そしてさらに、
〇世間に氾濫する西洋かぶれのカタカナ語(似非英語=外来語)を使うことよりも、母語である日本語で表現すること。
〇直接的な「一言で完結してしまう」表現よりも、比喩的な「言葉を重ねること」で表現すること。
…そんなことが当たり前のようにできるようになったとき、私自身も『秘すれば花なり。』な『色気』ある人間に、なれるのでしょうね。

もちろん「説得力」を持つためには、なんらかの背景が必要でしょうね。
選ぶ言葉ひとつの美しさや、お酒の飲み方ひとつをとっても、決して足を開いて飲んだり、粗相することなどなく、キリリとした緊張感のある姿勢で、嗜みたいものです。



『色気』を手に入れる道は険しい道なり

こと恋愛に関しては、お店でもお客さまからご相談を承ることも往々にしてございますが、大概は『色気』はどこへやら、秘するどころかわかりやすすぎるよ…なことが多く、「ちょっとはわかりづらい女(男)におなりなさいヨ」とお答えすることで精いっぱいです。
想いを伝えるときにこそ、『秘すれば花』よろしく、あなたの『秘』な部分をお相手にちらりちらりと感じ取っていただけるように、なさったらよろしいのでは。謎めいた部分のある女(男)というものは、とっても魅力的で、『色気』あるものと思いますよ。

世間から見えなくなってしまった『色気』たち。
なんでも容易に言葉を紡ぐことができる便利な時代だからこそ、『秘すれば花なり。』な『色気』を、取り戻したいと思う次第です。

カズヤくんはわかりやすすぎるよ!なんて言われてしまうのは、もうそろそろ卒業したく。『色気』ある人間を目指して、今日も私は生きるのです。

それでは、今日はこのあたりで。またどうぞ、覗きにいらっしゃってくださいね。


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