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平成では不人気だが、一番まともで保守的だった【アニメ「機動戦士ガンダム00(ダブルオー)」】

アマプラに来たからアニメシリーズまで見てみた。

ガンダム史では初めてとされる西暦で描いた作品であったが久しぶりにリアルに寄った未来設計で「戦争根絶」についての問いを投げる作品。

細かい政治争いが行われるファーストシーズン、セカンドシーズンからミクロに寄った話になり伏線を拾い上げていく盛り上げ方も悪くなかった。



三つ巴で混沌とするファーストシーズン


あらすじ
ファーストシーズンでは、エネルギー資源を巡る争いが激化した西暦2307年が舞台です。

世界は、ユニオン(アメリカを中心とするグループ)、人類革新連盟(中国、ロシア、インドなどのアジア諸国を中心とするグループ)、AEU(ヨーロッパを中心とするグループ)の三大勢力に分かれています。

新エネルギー源「太陽エネルギー」を独占する特権階級と、電力供給から外れた貧困層の対立が深刻な状況です。

ソレスタルビーイングは、「ガンダムマイスター」と呼ばれる4人のパイロットが乗るモビルスーツ「ガンダム」を使い、戦争を武力介入によって根絶しようとする目的で結成されました。

彼らは各国に対し戦闘を仕掛け、軍事介入を行うことで戦争を抑制しようとしますが、その行動は様々な疑念と反発を呼び起こします。

ソレスタルビーイングVS三大勢力とあぶれる中東小国たち

ファーストシーズンはかなり丁寧な説明セリフが多いが組織数も多いゆえにそれぞれの思想も異なるので物語としては正直見づらい。簡単に構図として見るなら上のタイトルのようにまとめて前半は追っていく方がいいだろう。

そもそも「戦争根絶」を目的にソレスタルビーイングのような組織ができてしまったのは、太陽光エネルギーを巡って争いが起きていたためである。

三大勢力に入った国々はそれぞれエネルギーを享受できる「軌道エレベーター」を持っていた。しかしその恩恵を受けない貧困国とされる中東の小国らはこれらの資源を争う戦争が起きている状況だった。

また三大勢力も軌道エレベーターの整備に使っていたMSを軍事転用していたり、強化人間のような人体実験を行って軍人増強するなど各勢力でも冷戦状態が起きていたため表向きは平和維持に見えても裏で世界はバラバラだったという背景から始まる。

ソレスタルビーイングはファーストシーズンではかなり革命的組織に描かれるが、シリーズを通した政治視点で見れば超保守派組織であったと見える。

放送されてる当時の日本でも、米国などの大規模な戦争が起きていた中で改憲派と護憲派について議論が沸々と湧き始めていた時代だったと想起させる。

煮え切らない問いの雰囲気の中で「もし世界規模での武力介入が行使されればどうなるか」というリアルタイムな問いに置き換えてみたのがこの作品だったのかなと思える。

後半からはさらにトリニティという独立派組織が現れて構図は三つ巴になり戦場は混沌としてくる。

トリニティもソレスタルビーイングと同じガンダムを操るマイスターと呼ばれる人種で構成されていたが、ソレスタルビーイング創始者であるイオリア・シュヘンベルグの計画には無い謎めいた存在だった。

結局全てはソレスタルビーイング後援者であったはずのリボンズの画策だった。

優位性を持ち始めていたソレスタルビーイングはそれらの三つ巴の戦場によって壊滅的な打撃を受けて離散していきファーストシーズンは終わっていく。

ソレスタルビーイングを「共通敵」としてじっくり作り上げ、三大勢力を統一させていくことこそがリボンズがソレスタルビーイングを創設した初めの目的だったことが明らかになる。

統一された世界から始まるセカンドシーズン


あらすじ
セカンドシーズンは、ファーストシーズンから4年後の西暦2312年が舞台です。

この時代では、ソレスタルビーイングの活動がきっかけで、三大勢力は「地球連邦政府」という形で統一されています。しかし、その裏では、反政府組織や非合法な軍事行動を秘密裏に取り締まる「アロウズ」という特務部隊が暗躍し、人々の自由を制限しています。

ガンダムマイスターたちはアロウズの抑圧的な行動に立ち向かい、再び世界の変革を目指します。

ソレスタルビーイング、アロウズ、カタロン

いきなり4年後の世界になり世界は「アロウズ」と呼ばれる地球連邦政府で統一。

離散したソレスタルビーイングは再び刹那が取りまとめ、反連邦組織「カタロン」も現れ再び勢力図は三つ巴になる。

ロックオン復活は冷める


平成ガンダム共通でよくないのは重要な兄貴分をファーストシーズンで感動的に殺しておいて、実は「双子の兄弟がいた」で同じ性格かつ何事もなかったように蘇生させてしまうところだろう。

00は斬新なテーマと政治色の強い話ではあったが、キャラクターのドラマに関しては総じて微妙だった。この辺も作品として小難しい色が強くて新規向けに語り継がれにくかった部分だろう。

わざわざロックオンを「弟」として復活させる特別な意味も、刹那と紡がれるわけでもなければ兄の恋人になりかけた船員となにか起きることもなく最後までよく分からなかった。1シーズンのクライマックスに兄が利用されただけだったという風に見えてしまうのは良くない。

旧世代なら沙慈が主人公


セカンドシーズンで見るなら沙慈は旧世代ガンダムに寄ったもう一人の主人公だった。

順風満帆とは言えないがガールフレンドの存在に幸せに暮らす普通の男の子が、理不尽に戦争に巻き込まれて気づけばMSの中に入っている出で立ち。

最後は怨念と共に人格が歪んでいくルイスのために戦う純粋さなど、アムロやカミーユなどと被る。視聴者がロボアニメで慣れ親しんだ主人公増は沙慈だった。

刹那も戦いに関しての葛藤は王女の母性を通じて描かれるが幼少から既に戦争に巻き込まれている背景もあってか信念が最初から出来上がっている。

故に人間関係において不器用さもあるのが彼の余白部分だが、ドラマにおける主人公の成長譚として見るには面白味はないキャラクターだったかもしれない。逆に女性受けが良かったと言われる所以はここだったか。

ただ沙慈とルイスにドラマに関しては作品において邪魔に感じる部分も確かにあった。そう見えてしまうのはやはり「戦争根絶」という大きなテーマにおいて提示する政治的なリアルドラマの結論の方に視点は偏ってしまうからだろう。

そうした意味で刹那のような戦いには強靭な精神を持つ主人公にして、余計なわき道に逸らせない話になった辺りが丁度よく感じる特殊な作品でもあった。

ルイスと沙慈の最終的な決着もミクロで見る「調和」を示したい話だったと思うが、セカンドシーズン全体的に後半駆け足が過ぎて簡単に済まされていたのは残念な部分だった。

イノベイターとヴェーダとは何だったのか

このシーズンからイノベイターという言葉が乱立する。ゆわばコーディネーターやニュータイプのような新人類を指していたが、先天的に持った特別な人間を表すものとは違い、

後天的にもその特別な能力を持つことができる意味では旧ガンダムの価値観とは異なっている。そのため旧人類と新人類の対立思想はリボンズが極端に見下していること以外はほとんど出てこない。

GN粒子を浴びることでイノベイターとして覚醒していくようだったがそこも個人差があるらしく誰もが後天的になるわけでもない。王留美もその一人であったがその差は何であったのか明確に語られることは最後までなかった。

イノベーターはDNAの配列が同じような人間が多く容姿が似ていたり脳波コミュニケーションができていたりする。その互いの身なりの繋がりが自己の精神の背反性も表していたがドラマ的には繋がることも薄くて謎だった。

自然発生的に増えていくイノベーターを、リボンズが世界統一の目的として都合よく利用できる特別な存在なのは分かったが、結局彼が描くその先もよく分からなかったので後付けで都合よく出てきたシステムに感じたのは正直なところ。劇場版はまだ見ていないがこの辺も描かれていくのだろうか。

終盤もイノベーターに重要な演算システムであるヴェーダを奪う話になっているがこの辺の関連性もウィキを見ても自分はあまり理解できなかった。できた人も少ないだろう。

政治視点で見れば保守派の中での対立構造だったか


ソレスタルビーイング:理想主義的な超保守派

ソレスタルビーイングは戦争根絶を目的とし、外部から武力介入することで世界の秩序を一方的に再構築しようとしています。これは、「現状の平和秩序は戦争によって保たれるもの」という通説に反し、従来の人類の価値観や秩序を否定し、新たな世界の構造を強引に押し進めようとする点で保守的とも取れます。理想を実現するために、自らのルールや理想を他者に強要するという態度は、一種の「革命的な保守主義」とも言えます。

アロウズ:保守的ファシズム

一方でアロウズは、地球連邦政府という統一体制の秩序を守り、反体制的な要素を弾圧する立場にあります。この抑圧的な手法は、表面上の平和を維持するために個人の自由を制限し、反対勢力を武力で制圧する「ファシズム的な保守主義」の典型です。アロウズは地球連邦の安定という理念に基づき、戦争や内乱を防ぐために民間人の自由や人権を制約し、統制社会の維持を図っています。こうした姿勢は、伝統的価値観や秩序を重視しながらも、強権的なファシズムへと傾倒していると見ることができます。

まとめ

セカンドシーズンの後半は全体的に駆け足で細かいところは煮え切らないまま終わったところも否めない。劇場版は補足的な役割だったのだろう。

全体的な着地としては戦争根絶には至らないが、リボンズの独裁が終わって議会にはカタロンが入ったことで改編され、ソレスタルビーイングは独立したまま対等な立場に終わる。

抜本的な解決の掲示ではなく政治にいろんな勢力が対等に入って、再び議会がカオス化していくという帰着は民主政治のリアルな取り戻し方で良かったと思う。誰も納得できないけど「独裁よりはまだまし」と思える体制の落しどころを模索することが大切だとよく言われるがそのガンダム00らしい形があれだった。

SEEDなどど並ぶ平成ガンダムとしては不評なのは単純な勧善懲悪でもなかったからだろう。とにかく難解で見づらいガンダムだったが、それがおじさんが好む久しぶりにらしい作品だったと思う。







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